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勇者? スマンが他を当たってくれ  作者: 遠坂遥
スコピエルの魔物Ⅱ(Side - Yuri)
19/40

こう見えて純粋なんです

ややこしいですが、再びユーリ一行です

 「イズミ! ミナト!」


 いきなりでスマンが、大ピンチだ。

 一体あの化け物はなんなんだ? 2人をどうするつもりなんだ?



 セオグラードを出発してから8日目。ほとんど何にもない草原を歩き続けてきた俺たちの前に、鬱蒼と生い茂る木々の大群が現れた。

 セオグラードの位置する中央とは違い、南の方に位置するスコピエルは沢山の緑で覆われ、多種多様な生物が生息している。これだけ大きな森があるということは、スコピエルまではもう少しということだろう。


 「ユーリ、森には草原とまた違う類の魔物が沢山いる。中には猛烈な毒を持つものもいる。ここは一旦休憩して装備を整えてからの方がいいだろう」

 「そうだな。疲れている者も多いだろうし、ここを抜けるのは明日にするか」


 そうして、俺たちは森の直前で野営することに決めた。

 時刻は4時近く。日が暮れるにはまだ時間があった。

 そんな時だ。俺が、一行とは違う、人の気配を感じたのは。

 辺りに目を凝らす。誰かが、見覚えのある誰かが、走り去るのが見えた気がした。


 「ユーリ様? どうされました?」

 俺が見つめる先を同じ様に見つめながら、イズミが尋ねた。

 「悪い、ちょっと出てくる。他の皆には知らせなくていい。すぐ戻る」

 そうイズミに言い残し、俺は森の方へと走りだした。

 その俺の後ろから、イズミどころか、その他大勢までついてきていたことにすら気付かないくらい、俺は必死でその背中を追っていた。


 「どこだ……? どこに行ったんだ?」

 必死で俺は彼女の姿を探した。だが、姿どころか、気配すらも感じることができなかった。すると、

 「何か、探し物、ですか……?」

 背後から突然声を掛けられ、心臓が爆裂しそうになる。

 「……うわッ! み、ミナト!? ビビらせんなよ……。どうして、お前がここに……?」

 「あんたが勝手に、フラッとどこかに行っちゃうからでしょ? 集団行動なんだから、そういうのはやめた方がいいんじゃないの?」

 

 純粋に俺のことを心配してくれている眼鏡っ子の隣には、無駄に胸ばかりデカイ女の勝ち誇った顔があった。


 「お前にそんなことを言われるとはな……」

 「すみませんユーリ様。悪いとは思ったんですが、もしものことがあってからでは遅いので、一応、コウダイさんに報告させていただきました」


 イズミは申し訳なさそうに瞳を潤ませている。

 「そんな顔するな。別に怒ってないから、気にしないでいい」

 俺はイズミの目は見ずにそう言った。


 「ユーリ、一体どうしたんだ? 何か、気になることでもあったのか?」

 「いや、大したことじゃない。ちょっと見慣れない人間がいた様な気がしたから、追いかけただけだ。まあ多分気のせいだったんだろうがな……」


 懐かしい気配はもう全く感じられなかった。今となっては、あれが本当に、あの子だったのかどうかすらも定かではないのだが。


 「そうか。まあとにかく、ここでこの人数は危険だ。早くキャンプに戻ろう。ここは魔物の巣窟だ。ぼうっとしていたら、いつ襲われるか……」

 「キャー!」

 「イズミ! だから、言わんこっちゃない!?」

 「え? うわあ!」

 「ミナトまで!?」

 2人の身体が宙に浮く。何かに引っ張られるように、2人は俺たちから離れていった。



 「イズミ! ミナト!」

 「ゆ、ユーリ様!」


 突如として現れたのは、気色の悪い液体を滴らせた緑色の触手だった。その長い蔦のような触手は、一際大きくて太い大木から伸びていた。その大木は一面緑色の苔で覆われているが、上部の方に顔と思われる二つの紅い目と、大きく裂けた真っ黒な口が存在していた。そしてその口からは、触手と同じ様に得体の知れない液体が流れ出していた。


 「く、くる、しい……」

 蔦の締め付けに、ミナトが顔を歪める。


 「2人とも大丈夫か!? 待ってろ、今助ける!」

 コウダイが触手を睨みながら、腰のジークフリートに手を伸ばす。

 しかし、次の瞬間、


 「な、なに!?」


 コウダイのジークフリートが一瞬にして蔦に絡め取られてしまった!


 「しまった!」

 「このぉ! シュヴェルマー……」

 「おい待て馬鹿! こんな所で炎魔術(フランメ)を使うな! 2人に引火したらどうするんだ!?」

 「あ、そうか……って、キャー!?」

 「「アイカ!?」」


 2人を心配している間に、なんと今度はアイカまでもが触手に捕まってしまった。触手はアイカを捕えるや否や、身体の節々に絡みつき、彼女の身体を縛り付けていく。


 「い、いやぁ! 気持ち悪い! ちょ、ちょっと、そ、そんなに、締め付けないで……い、いやぁ、あ、ああん……」

 「お、おい、変な声出すな! 気が散るだろ!」

 「そんなこと言われても……や、やめ、て、こ、こら、そんなに、胸ばかり、きつくしないでぇ……」


 やめてくれ! そんな声出されたら魔術に気を配れないじゃないか! それに、さっきからスカートの中身が完全に見えてるんだよ!

 だ、駄目だ……。アイカの無駄に破廉恥な格好のせいで、事態が余計に淫猥さを増している。これ以上は、俺の理性がもたん……。


 「スマン、コウダイ。悪いが、アイカの方はお前に任せた! 俺はあっちの2人を助ける!」

 そう言い残し、俺はその場から颯爽と駆けだす。

 「あ、あんた、あたしを見捨てるつもりなのぉ!? ……だからぁ、もう、やめてって……あ、あん! ……もう、あたしもう、無理ぃ……」

 「ユーリぃぃぃぃぃ!!」


 アイカの喘ぎ声と、コウダイの悲しい叫び声を背に、俺は2人の元へと駆けた。


 「ユーリ、様ぁ……!」


 さっきよりも弱弱しい声が俺を呼ぶ。俺はテオドゥルフを引き抜き、臨戦態勢に入る。そしてそこで、俺が見たものは、


 「うおおおお!?」


 白いローブの、触手に触れられている部分だけが溶解し、肌が露わになってしまっているイズミの姿だった!

 幸い、と言っていいのか分からないが、溶けているのはお腹周りだけだったから、絶対に見えてはいけない部分までは見えてはいなかった。だが、あれはどう見たって時間の問題だろう。


 ――ポタリ


 地面に真っ赤なシミが拡がっていく。


 「ユーリ、様……」

 「やめろ! そんな目で見るな! こ、これは、違うぞ! 俺は別に、お前をやらしい眼で見ているとか、そういうんじゃなくてだな!」

 「でも、ユーリ様にそういう風に見ていただけるのは、嬉しいかもです……」

 「喜ぶな! 顔を赤らめるな! 少しは恥じらいを持てんのか!」

 「鼻血をそれだけ垂らしながら言っても説得力がありません」

 「言うなあ! うおおおおおお!」


 足元に血だまりを作りだした俺は、やけくそ気味に王狼斬撃を繰り出したのだった。


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