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勇者? スマンが他を当たってくれ  作者: 遠坂遥
スコピエルの魔物(Side - Yuri)
15/40

この一撃に全てを賭けて

 「「はあああああああッッ!!」」


 シャリオヴァルトは、鷲の魔物、イェーガーを捉えた!

 やつは空中で僅かに抵抗を試みたが、すぐに俺たちの鉄槌の打撃をまともに食らい、断末魔の叫びを残しその体躯を地面へと墜落させる。


 それでも、地に伏せてもなお、イェーガーは立ち上がろうとする。

 だがそれはかなわない。俺たちの攻撃を骨の髄まで味わったんだ。やつに立ち上がる力など残されている訳がない。


 「シュヴェルマー・ツィーレン!」


 そこにアイカの駄目押しが繰り出される。

 火球が地面に突っ伏すイェーガーに直撃し、今度こそやつは完全に焼失してしまった。


 「お、オーバーキル……」

 「アイカは、やりすぎ」


 2人同時に呆れる。


 「ちょ、ちょっとなによ!? 助けてあげたのにそれ酷くない!?」


 全力で抗議するアイカ。


 「ドレイクがまだ残ってる。遊んでる場合じゃない……」

 「わ、分かってるわよそんなこと! ったく、調子狂うなぁ、もう……」


 ドライなミナトの反論を食らって、アイカはふてくされた様に頬を膨らませている。

 ホントに人間味に溢れたやつだと俺は改めて思った。


 「勇者様、もう一度さっきの攻撃をする体力は、残ってますか?」


 ミナトが俺のすぐ横で、大きな瞳を俺に向けそう問いかける。

 距離が近いだけに、彼女の息遣いから香りまで、その全てが俺に直に伝わってくる。

 つまり、それは同時に、俺のことまでミナトには筒抜けということだ。

 勇者として、情けないところは見せられない。

 だから俺は、


 「俺を誰だと思ってるんだ? 俺にできないことなんてねえよ」


 最大限に虚勢をはってみせた。


 それを見てミナトは、


 「ふふ……」


 初めて俺に笑顔を見せた。





 戦場はすっかり死屍累々だった。もちろん、死んでいるのは魔物どもなのだが。


 みんな、コウダイを中心として善戦している。

 巨大な敵にトドメをさすことはなかなかできていないが、確実にダメージを与えることはできている。

 しかし当然、こちらも無傷という訳にはいかない。

 彼らの何人かは血を流し、苦しそうに地面に倒れこんでいる。

 ヒーラーは彼らの治療にあたろうとしているが、小型の魔物がそれを邪魔し、思うように作業は進んでいない。

 イズミは俺の指示通り、少し離れた位置から戦いを見守っている。その表情は悔しさで満ちていた。

 もう少しだけ待ってくれ。必ず、敵を打ち倒し、お前にヒーラーとしての役目を果たさせてやる。俺は心の中で、彼女にそう誓った。



 日が沈む。

 気付くと、辺りはすっかり橙色に染まっていた。

 夜になる前に決着をつけなければならない。

 ここには街灯などない。夜に目が利く魔物に比べ、俺たちが圧倒的不利なのは間違いなかった。


 残る巨大な魔物は4体。その中でも最も厄介なのは、やはり鋼の鎧に覆われたドレイクだろう。

 あいつは絶対に俺たちが倒さなければならない。

 でなければ、被害は今以上に甚大なものになってしまうだろう。


 「ドレイクよ! コウダイと戦ってる!」

 アイカの声で我に返る。

 眼前には金髪を揺らして戦うコウダイの姿が。彼の疲労も並大抵ではないようだった。


 「コウダイ! あなたは一度退いて! ここはあたしたちに任せて!」

 「アイカ!? しかし、退けと言われても……」

 「いいから退いてろ。ここは俺たちで十分だ。コウダイは他のみんなの指揮を頼む」

 「ユーリ!? だ、だが……」

 「大丈夫です、師団長。わたしと勇者様なら必ず倒せる。だから、師団長は、他のみんなの手助けを」

 「ちょっと、あたしを忘れないでよね……」

 「ホント細かいな、見た目の割に」

 「ちょっと! それどういう意味よ!?」

 「ふざけるのはそれまで。……来る!」


 ミナトの視線の先には、猛烈な勢いで突進して来るドレイクの姿が!

 ぶすっとした表情を瞬間的に正し、アイカは素早く態勢を整える。

 目を閉じ、ディートリントに力を込める。先ほどの攻撃とは違う、最大出力の魔力だ!


 「食らいなさい! ブレンネン・シュラーク!!」


 ディートリントの先端から放たれたのは、生けるものを一瞬で屍に変える灼熱の業火。

 しかし、それでもドレイクの鎧を完全に破壊することはできない。


 「勇者! ミナト!」


 だが、破壊なんてする必要はない。ただ、少し硬度を低くしてくれればそれでいい。


 立ち昇る爆煙。その向こうに向かって、俺たちは飛び込む。

 丸まって炎を耐え凌いだドレイクに向かって、俺たちは全力でシャリオヴァルトを振り下ろした。


 --ガキィッッ!


 強烈な衝撃。そして飛び散る火花。

 ドレイクは4本の足で踏ん張る。

 それでも俺たちは負けない。

 絶対に砕く!


 「「ブチ抜けぇぇぇ!!」」


 2人の魂がシャリオヴァルトを前進させる。


 --ピキッ


 ついに鋼の鎧にヒビが入る。

 ついに無敵の盾に歪が生まれる。


 だが、それでもまだ足りない。

 どうしても砕けない。

 これだけ力を振り絞ってもまだ……!


 「か、硬ぇ……!!」

 「ゆ、勇者、様……!」

 

 ミナトの体力も残り僅かだ。ここでトドメをさせないと、今度は、俺たちが……


 「諦めてはいけない! 私たちは、こんなところでは終わらない!」

 「こ、コウダイ!?」

 「あたしだっているわよ勇者! 4人いれば十分でしょ?」

 「アイカまで!?」

 

 コウダイとアイカの魔力が俺たちに流れ込んでくる。

 穏やかで温かい魔力と、情熱的で力強い魔力が俺たちに更なる力を与える!


 「うおおおおおッッ!」

 「はあああああッッ!」


 4人分の力がシャリオヴァルトに伝わる。

 もう俺たちを止めることはできない。

 貫くのみだ!


 バキバキと、岩が砕けるような音がする。


 そして、俺たちはついに、


 グ、グオオオオオオオ……!


 ドレイクの鎧を、粉々に打ち砕いたのだった!

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