この一撃に全てを賭けて
「「はあああああああッッ!!」」
シャリオヴァルトは、鷲の魔物、イェーガーを捉えた!
やつは空中で僅かに抵抗を試みたが、すぐに俺たちの鉄槌の打撃をまともに食らい、断末魔の叫びを残しその体躯を地面へと墜落させる。
それでも、地に伏せてもなお、イェーガーは立ち上がろうとする。
だがそれはかなわない。俺たちの攻撃を骨の髄まで味わったんだ。やつに立ち上がる力など残されている訳がない。
「シュヴェルマー・ツィーレン!」
そこにアイカの駄目押しが繰り出される。
火球が地面に突っ伏すイェーガーに直撃し、今度こそやつは完全に焼失してしまった。
「お、オーバーキル……」
「アイカは、やりすぎ」
2人同時に呆れる。
「ちょ、ちょっとなによ!? 助けてあげたのにそれ酷くない!?」
全力で抗議するアイカ。
「ドレイクがまだ残ってる。遊んでる場合じゃない……」
「わ、分かってるわよそんなこと! ったく、調子狂うなぁ、もう……」
ドライなミナトの反論を食らって、アイカはふてくされた様に頬を膨らませている。
ホントに人間味に溢れたやつだと俺は改めて思った。
「勇者様、もう一度さっきの攻撃をする体力は、残ってますか?」
ミナトが俺のすぐ横で、大きな瞳を俺に向けそう問いかける。
距離が近いだけに、彼女の息遣いから香りまで、その全てが俺に直に伝わってくる。
つまり、それは同時に、俺のことまでミナトには筒抜けということだ。
勇者として、情けないところは見せられない。
だから俺は、
「俺を誰だと思ってるんだ? 俺にできないことなんてねえよ」
最大限に虚勢をはってみせた。
それを見てミナトは、
「ふふ……」
初めて俺に笑顔を見せた。
戦場はすっかり死屍累々だった。もちろん、死んでいるのは魔物どもなのだが。
みんな、コウダイを中心として善戦している。
巨大な敵にトドメをさすことはなかなかできていないが、確実にダメージを与えることはできている。
しかし当然、こちらも無傷という訳にはいかない。
彼らの何人かは血を流し、苦しそうに地面に倒れこんでいる。
ヒーラーは彼らの治療にあたろうとしているが、小型の魔物がそれを邪魔し、思うように作業は進んでいない。
イズミは俺の指示通り、少し離れた位置から戦いを見守っている。その表情は悔しさで満ちていた。
もう少しだけ待ってくれ。必ず、敵を打ち倒し、お前にヒーラーとしての役目を果たさせてやる。俺は心の中で、彼女にそう誓った。
日が沈む。
気付くと、辺りはすっかり橙色に染まっていた。
夜になる前に決着をつけなければならない。
ここには街灯などない。夜に目が利く魔物に比べ、俺たちが圧倒的不利なのは間違いなかった。
残る巨大な魔物は4体。その中でも最も厄介なのは、やはり鋼の鎧に覆われたドレイクだろう。
あいつは絶対に俺たちが倒さなければならない。
でなければ、被害は今以上に甚大なものになってしまうだろう。
「ドレイクよ! コウダイと戦ってる!」
アイカの声で我に返る。
眼前には金髪を揺らして戦うコウダイの姿が。彼の疲労も並大抵ではないようだった。
「コウダイ! あなたは一度退いて! ここはあたしたちに任せて!」
「アイカ!? しかし、退けと言われても……」
「いいから退いてろ。ここは俺たちで十分だ。コウダイは他のみんなの指揮を頼む」
「ユーリ!? だ、だが……」
「大丈夫です、師団長。わたしと勇者様なら必ず倒せる。だから、師団長は、他のみんなの手助けを」
「ちょっと、あたしを忘れないでよね……」
「ホント細かいな、見た目の割に」
「ちょっと! それどういう意味よ!?」
「ふざけるのはそれまで。……来る!」
ミナトの視線の先には、猛烈な勢いで突進して来るドレイクの姿が!
ぶすっとした表情を瞬間的に正し、アイカは素早く態勢を整える。
目を閉じ、ディートリントに力を込める。先ほどの攻撃とは違う、最大出力の魔力だ!
「食らいなさい! ブレンネン・シュラーク!!」
ディートリントの先端から放たれたのは、生けるものを一瞬で屍に変える灼熱の業火。
しかし、それでもドレイクの鎧を完全に破壊することはできない。
「勇者! ミナト!」
だが、破壊なんてする必要はない。ただ、少し硬度を低くしてくれればそれでいい。
立ち昇る爆煙。その向こうに向かって、俺たちは飛び込む。
丸まって炎を耐え凌いだドレイクに向かって、俺たちは全力でシャリオヴァルトを振り下ろした。
--ガキィッッ!
強烈な衝撃。そして飛び散る火花。
ドレイクは4本の足で踏ん張る。
それでも俺たちは負けない。
絶対に砕く!
「「ブチ抜けぇぇぇ!!」」
2人の魂がシャリオヴァルトを前進させる。
--ピキッ
ついに鋼の鎧にヒビが入る。
ついに無敵の盾に歪が生まれる。
だが、それでもまだ足りない。
どうしても砕けない。
これだけ力を振り絞ってもまだ……!
「か、硬ぇ……!!」
「ゆ、勇者、様……!」
ミナトの体力も残り僅かだ。ここでトドメをさせないと、今度は、俺たちが……
「諦めてはいけない! 私たちは、こんなところでは終わらない!」
「こ、コウダイ!?」
「あたしだっているわよ勇者! 4人いれば十分でしょ?」
「アイカまで!?」
コウダイとアイカの魔力が俺たちに流れ込んでくる。
穏やかで温かい魔力と、情熱的で力強い魔力が俺たちに更なる力を与える!
「うおおおおおッッ!」
「はあああああッッ!」
4人分の力がシャリオヴァルトに伝わる。
もう俺たちを止めることはできない。
貫くのみだ!
バキバキと、岩が砕けるような音がする。
そして、俺たちはついに、
グ、グオオオオオオオ……!
ドレイクの鎧を、粉々に打ち砕いたのだった!