2人一緒なら
俺は何も言葉を発することができない。
あのおとなしい少女の変わりように、俺は驚愕するしかなかった。
「あああああああああ!!!」
修羅の如くシャリオヴァルトを振り回す、ポニーテールの少女。
自分の数倍はある巨大な魔物を圧倒する。
「な、なんて強さなの……」
アイカは驚きを隠せないでいる。
脅威の魔力を誇る彼女でさえ、あれほどの力は驚きに値するのだ。
「みんな、なにを呆けているんだ! 今のうちに他の魔物を殲滅するぞ!」
そんな中でもやはりコウダイは冷静だ。
すると、彼は俺の方にやって来てこう尋ねた。
「ユーリ、君はこれを知っていたのか?」
「知っている訳がないだろ。知ってたら、あんなに慌てたりしない……」
「それもそうだな。しかし、これならきっと彼女は勝てる。あの子の力は、今後の旅に大いにプラスになるぞ」
「それは、どうだろうか……?」
俺は戦い続けるミナトを見つめながら言った。
「さっきから、腕の振りが鈍くなっている。恐らく、体力と魔力が尽きかけているんだ」
「そ、そんな……」
ミナトはすっかり肩で息をしていた。
元々あの重いシャリオヴァルトを振るために、彼女は多くの魔力を使っている。そんな彼女が、激情に任せて力を使い続ければどうなってしまうのかは想像に難くないことだ。
このままではいずれやられる。
それなら、俺のやることは一つだ。
「コウダイはみんなの援護を。俺は、ミナトを助ける」
そう言って俺は走り出した。
前方には、少女と、二匹の魔物。
鷲に似た大型の魔物、イェーガーは、羽を凶器として飛ばしたり、その鋭い嘴をミナトに突き立てようとしている。
もう一方の魔物・ドレイクは、体を硬い鱗のようなもので覆われ、地面を這い、口から炎を吐きながらでミナトを狙っている。
「王狼斬撃!」
俺は敵めがけて黒い斬撃を飛ばす。
だが、イェーガーはそれを同じく飛ばした刃の羽で防いだ。
そして、巨大なトカゲのような化け物であるドレイクは、その硬い表皮で俺の攻撃を弾き飛ばしてしまった。
「勇者様、あなたは下がって。この魔物には飛び道具は通じない。わたしのシャリオヴァルトなら、こいつらを叩き潰せる!」
ボロボロになってもなお、ミナトはハンマーを振り上げる。だが、すぐに足がよろけてしまう。
「ダメだ! お前は魔力を消耗している。そんな状態で1人で戦うのは自殺行為だ」
「わた、しは……死んだって、死んだっていいんだ……。わたしは、わたしを選んでくれたあなたを守りたいだけ! わたしに価値を与えてくれたあなたに酬いることができるのなら、こんな命、容易く捨てて見せる!」
ミナトははっきりそう言い放った。
俺は言葉を失った。
ミナトが、俺のために、傷付いてもなお戦おうとしていたなんて、俺は知らなかった。
彼女を選んだのは、実に個人的な理由からだった。
写真を見た時、彼女のとても寂しそうな表情が印象的だった。
俺はあの時、彼女に自分を重ねていたんだ。
俺もそうだったから。居場所がなくて、好きな人には、好きになってもらえなくて、心の底から充実した瞬間なんてこれっぽっちもなかったから。
だから、きっと彼女も一緒なんだと思った。
彼女を守ってやりたいと思った。
孤独を抱えさせてはいけないと思った。
だけど、その想いは多分、俺の独りよがりだ。
俺は明日香で叶えられなかった想いを、ミナトで満たそうとしているだけだ。
ミナトは明日香の代用品。俺にそのつもりはなくても、きっと心の奥底ではそう思っているんだ。
「ダメだ……」
だから、そんな自己中心的な人間であるところの、俺なんかのために命を落としてはいけない。
「勇者様?」
でも、守ってやりたい気持ちだけは本当なんだ。俺はこの世界なんて救う気はない。でも、この子の命だけは、俺は救いたいと心の底から思っている。
「命をかけさせはしない……」
俺はテオドゥルフを鞘に収める。
そして、シャリオヴァルトを握る彼女の手をとった。
「ゆ、勇者様?」
「俺も一緒に戦うぞ。2人でなら、絶対に負けない」
恐ろしいぐらいに重いハンマー。
こんなものを持って戦っていたなんて……。
しかし困った。格好つけて来たのはいいが、俺の魔力ではいつまで持つかわからない。
これでは、5分や10分が限界……
「なに自信なさそうな顔してるのよ馬鹿勇者! あたしが援護してあげるから早く行くわよ!」
「あ、アイカ!?」
前方には黒いマントと、長い金髪を翻すアイカの姿があった。
アイカが俺の前を歩くたびに大きな胸が揺れ、相変わらず短すぎるミニスカートからは、今にも中が見えてしまいそうだった。
「おい、戦いにその格好は、どうかと思うぞ」
「い、今そんなことどうだっていいでしょ!? 折角助けてやるって言ってんのよ! 少しは感謝の気持ちを表しなさいよね!」
アイカは顔を真っ赤にして怒っている。
彼女はこの世界でも実に人間らしいと思う。
こんなやつが、あいつの近くにいてくれれば、状況も少しは違ったんだろうか?
「勇者様!」
ミナトの言葉で我に返る。
イェーガーが、その鋭い嘴を尖らせ、俺たちに突進しようとしていた。
「シュヴェルマー・ツィーレン!」
アイカがディートリントから火球を発射させる。直径50センチほどの大きさの球が7,8発乱れ飛び、イェーガーを砲撃する。
数発が敵にヒットすると、やつは叫び声を上げた。
命中した部分は羽が焼け焦げ、その下の白っぽい地肌を覗かせていた。
「2人とも今よ!」
アイカの合図で俺たちは敵前に躍り出る。
イェーガーが決死の威嚇を試み、絶叫が戦場全体に響き渡る。
だが怯まない。
俺たちは2人でシャリオヴァルトに最大限の魔力を込める。
2人の魔力が混ざり合い、新たなる力を生み出す。
生み出された魔力がシャリオヴァルトを媒介として、逆に俺たち2人に流れ込んでくる。
いける!
これなら貫ける!
思いは確信へと変わる。
闇と鋼、2つの力が混ざり合った新たなる力を込めて、少女と勇者がシャリオヴァルトを振り下ろした。
「「ギガント・シュラーゲン・ハンマー!!」」