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勇者? スマンが他を当たってくれ  作者: 遠坂遥
スコピエルの魔物(Side - Yuri)
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狼のプライド

 一体これはどういうことだ? なぜ突然今までの魔物の大きさを軽々と凌駕する化け物が現れたんだ?


 化け物の大きさは三メートルから五メートル。デカイ。あまりにデカ過ぎる。これでは人間など赤子同然だ。どんな大きさだろうと、俺やコウダイなら数匹ならなんとかなると思うが、今回はあまりに数が多すぎる。やつらに徒党を組まれたら、経験の少ない隊員は一たまりもない。


 「ユーリ様!」


 混乱しかかる意識に、幼い少女の喝が響き渡る。


 「何をボウッとされているんですか!? 早く、早くミナトさんを助けに行かないと、本当に死んでしまいますよ!」


 イズミは俺の前方数メートル先から俺に向かって叫んでいる。

 まさかあいつ、自分でミナトを助けに行く気じゃないだろうな? だとしたら、そんなのは自殺行為だ。戦場にはどこから現れたのか分からない五メートル級の化け物が十匹近くいるんだ。他の隊員ですら苦戦している敵に、こんなか弱い少女が太刀打ちできるはずがない。


 「待て! お前はここに残れ!」


 俺はイズミの手を掴んでそう言った。


 「そんなことを言っている場合ですか!? 人の命が懸っているんですよ!? 助けに行くのが、ヒーラーとしてこの戦いに参加した者の使命です!」


 イズミは一歩も退かない。だが、駄目なものは駄目だ。


 「お前をこの旅に同行させているのは、戦いに参加させるためじゃない。戦いが終わった後の治療を行わせるためだ。俺はお前が戦場に出ていくことを許可した覚えはない」

 「で、ですが……」

 「いいからここにいろ! これは命令だ。俺の女なら、命令には従え」


 俺は強い口調で言った。断る選択肢など初めから与えるつもりは毛頭なかった。

 イズミは辛そうな、悔しそうな、でもなぜか少し嬉しそうなぐちゃぐちゃの感情を顔に浮かべた後、「分かりました……。ユーリ様は、早くミナトさんの元に行ってあげてください」と、渋々俺の言葉に従った。

 俺はテオドゥルフを抜き、戦場に向かって駆けだした。



 「ミナト! くそ、どけ! この化け物どもが!」


 コウダイは自分よりも大きい魔物を相手に苦戦しているようだった。それもそうだ、いくらコウダイといえども、陸、空からの波状攻撃を食らってしまったら、応戦するのは一筋縄ではいかない。

 それでもコウダイは防戦一方にはならない。部下を守るため戦う彼は、徐々にではあるが敵を圧倒しつつあった。


 ミナトの所まで行くためには、まずコウダイに加勢する必要がある。俺は更にスピードを速める。だが、


 「ちっ、やっぱり来やがったか……」


 三体の大型の魔物。鷲が一体に、狼が二体。一番大きな魔力を持つ俺を狙い撃ちに来たのだろうか。


 「そこをどけ。お前らに用はない」


 俺はテオドゥルフを構える。相手がでかかろうが関係ない。ミナトの命は一刻を争う。俺に立ち止まっている時間はないんだ。


 俺はテオドゥルフの柄を強く握り、第一魔術・シュベルツェの魔力を込める。すると、刃はどんどん黒い光を帯び始めた。


 三体の内、二体は狼型の魔物だ。


 「目障りだな」


 俺のテオドゥルフは「王の狼」の異名を持つ。故に、狼は俺にとってのシンボルなんだ。こんな化け物に狼の名を汚されるのは耐え難い屈辱だ。

 やつらはただのニセモノだ。ただ狼を模しただけの無機物だ。

 ニセモノに存在価値はない。本物の狼を前にツラを曝す権利はない。俺は黒く輝くテオドゥルフを振り上げ、


 「贋作ども、俺の前にひれ伏せ!」


 一匹の狼もどきめがけて振り下ろした。


 圧縮された暗黒の風が全てを切り裂く刃と化す。

 剣が魔物の体に突き刺さる。刃が魔物の体内を進む度に、拡散された波動が暴れまわり、魔物を内側から破壊していく。

 そして、俺がテオドゥルフを振り切ると同時に、ついに魔物の上半身は粉々に砕け散った。


 「す、すごい……」


 向こうで棒立ちになっているカズホが呟いた。他にも何人かの隊員が、戦いの真っ最中だというのに、俺の戦闘をのんきに眺めていた。


 一匹が破壊されると、今度はもう一匹の狼もどきが、俺を睨んだ。そして、勢いをつけて俺に突進してきた。

 だが、そんな軟な当たりをわざわざ避けたりはしない。俺は真正面から受けて立った。


 魔物の額と、テオドゥルフが衝突し火花を上げる。どれほど大きくても、押し負けたりしない。

 俺は衝突で一瞬揺らいだ魔物の顔面に思い切り蹴りをブチ込むと、テオドゥルフでその巨体を上方へ弾き飛ばした。


 宙を舞う狼もどき。その体はゆっくりと地面に墜落する。俺はすかさず止めを刺しにいく。


 「王狼、」


 先程以上の輝きを刃に灯らせ、俺はそれを、


 「斬撃!」


 奴に向かって飛ばした。

 繰り出された黒い三日月型の斬撃が、空中でやつの身体を真っ二つに切り裂く。そして、二分割された化け物が、その半身を別々の場所へと落下させたのだった。


 残るは、一匹。だがそいつは俺から急速に離れていく。


 「無理だと悟って、あっちに加勢する気か?」


 やつの目指す方には、同じく三対一のコウダイ、そして倒れたままのミナト。

 俺はその場から走りだした。


 「苦戦してるようだな、コウダイ?」

 「余裕をかましている状況じゃないぞ! ミナトを早く助けなければ、命が危ない!」


 俺たちの相手はさっき俺が相手をしたのよりもまた少し大きい魔物だった。ミナトを助けに行きたいのは山々だが、こんなにでかいやつは流石に骨が折れる。


 「……ここは俺が囮になるから、コウダイはミナトを助けに行け」

 「何を言うんだ!? 勇者を囮にしろと言うのか!? それは駄目だ! もしユーリが死んだら、誰がアルカディアを助けると言うんだ!? 囮なら私がなる、だからミナトは、君が、」


 「君が助けに行け」と言いかけたコウダイの身体が突如として吹き飛ばされる。瞬間、何があったのか、俺にも分からなかった。


 「新手か……」


 四メートル近くある二足歩行の熊の化け物、グリズリーがそこにはいた。恐らくこいつがコウダイを殴り飛ばしたのだろう。


 コウダイは飛ばされた場所で痛みに顔を歪めていたが、それでも何とか立ち上がろうとしていた。しかし、その間に敵は全て俺の方に集中していた。計らずとも、俺が一人囮になった形だ。


 「こいつは、ちょっと厳しいかもな……」


 さっきの戦いで俺は魔力を消耗していた。この状況での四対一は、いくら俺といえども無傷では帰れそうもなかった。


 「勇者様!」


 カズホを初め、他の隊員たちも砲撃を試みるが、彼ら自身も既に交戦中なのだ。長時間敵に背を向けていられるほどやつらも甘くはない。


 「グレイズ、ぐっ!?」


 カズホに小型の魔物が襲いかかる。


 「シュヴェルマー・ツィーレン!」


 それを、アイカがなんとか打ち払う。さきほどの馬鹿魔力ではなく、ある程度力を抑えた炎魔術(フランメ)だ。


 「コウダイ! 勇者!」


 アイカは俺たちをなんとか助けようとその技を連発させる。それによりコウダイに群がる化け物どもを蹴散らすことはできた。だが、俺を囲む大型の魔物はその程度で退きはしなかった。


 「ユーリ!」


 コウダイが必死の形相で叫ぶ。これがどうやら、マジなピンチというやつらしい。


 俺はテオドゥルフを構えたままジリジリ後退する。

 良いイメージが思いつかない。無傷でこの場を乗り切り、ミナトを助けに行くという自分が想像出来ない。


 このまま逃げれば、確かに俺はダメージを受けずに済むだろう。だが、その結果失われる命の数は計り知れない。

 彼らは、俺が選び、戦場に送りこんだ。そんな彼らを今度は俺が見捨てる。本当に、なんて最悪な結末なんだ……。

 死にたくないやつを生かせず、死にぞこないの俺が一人残るなんて、絶対にあってはならないことだ。


 「こうなりゃ、腕の一本くらいくれてやる他あるまい……」


 俺は苦笑いを浮かべた。そしてようやく覚悟を決めかけた、その時だった。


 ――何の前触れもなく、一匹の魔物が崩れ落ちた。


 俺が目を凝らすと、その魔物には、

 「頭が、なくなっている……?」

 ついているべきものが、ついていなかったのだ。


 何があった? 俺は必死に状況を確認する。


 すると、俺の眼前には、巨大な鋼鉄のハンマーを片手だけで持ち、それを肩に載せた人物が立っていた。黒くて長い髪の少女は、顔から血を滴らせ、蒼い軍服を紅く染めていた。


 だが、俺にはそれが見覚えのあるあの少女には思えなかった。なぜなら、彼女はあんな表情は浮かべないからだ。いつだって自信なさそうに、何かに怯えた様な顔をしているのに、あんなに不安げに瞳を揺らしているのに、今の彼女に揺らぎなんてものは一切感じられないのだ。


 「ミナト、なのか……?」

 俺はようやく少女の名前を呼んだ。


 「わたしは……」

 少女が何かを言いかける。やや間を置き、荒い息を整えてから彼女はもう一度言った。


 「わたしは、あなたを守る。邪魔するものは、殺して進む。シャリオヴァルトで、道を拓く」


 鷹の様に鋭い目。見つめたら、射殺されてしまうのではないかと思えるほど、それは鋭利な刃物だった。


 残った三体の巨大な魔物が俺への興味を失い、彼女へと向く。だが彼女は全く動じない。


 「どかないなら、お前たちを殺す! わたしの邪魔は許さない! 勇者様を傷つけるやつは、一匹残らず滅ぼす!」


 彼女は一度シャリオヴァルトを地面に置くと、長い黒髪を青い紐でくくり、ポニーテールにした。

 そして再びハンマーを華奢なその手で握りしめると、一段と厳しい眼を敵に向けた。すると、くすんだ銀色であった彼女のハンマーが、よりシルバーの輝きを増していった。



 彼女の第五魔術・シュタールが覚醒したことを、俺は今、身をもって体感していたのだった。

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