友達
ちょいとメンタルが不安定だった頃に書いた作品でございます。
いつもはもっと明るいんですよ?
「十一月九日、朝のニュースをお伝えします」
いつものようにニュース番組を見ながら朝食をとる。
「まずはこちらのニュースから。連続通り魔事件の捜査が難航しているようです」
物騒なことだ。一刻も早い解決を望むが、協力できることはないに等しい。
「九月七日に最初の事件が起きて以来、これまで不定期に五件の事件が起こっています」
鰯のふりかけうまいな。
「被害者はいずれも包丁のような刃物で腕などを刺されています。今のところ死者は出ていません。警察では情報提供を求めるとともに外出の際は十分に注意するよう呼びかけています。では次のニュースです」
「ごちそうさまでした」
食器を流しへ運び、水につける。今日も嫌なことだらけの一日が始まる。
***
ブレザーの上からジャケットを羽織り家を出る。十一月の頭とはいえ、寒さが苦手な俺にはこの程度でも辛い。
「だりぃ……」
俺こと笹宮照は両親とごく一部の例外を除き人間が嫌いだ。理由はと聞かれると困る。なぜなら理由は特にないからだ。強いて言うならいつの間にかこうなっていたとしか言いようがない。生まれついての目つきの悪さや小六の時に負った右頬の傷、纏っている人を寄せ付けない雰囲気のせいであらぬ噂を立てられることが多々あり、それが積み重なった結果こうなったのだろうと俺は思っている。
「どうして俺みたいなヤツの事を噂したがるんだろうか……」
そういう噂を立てるなら本人の一切知らないところでやればいいのだが、どういうわけかそんなことをしたがる奴は中途半端に本人の耳に入るところで噂を立てるのだから理解に苦しむ。そして世の中にはそんな人間しかいないのだから困ったものだ。だから俺は人間が嫌いで仕方がない。
「着いた、っと。澄はまだ来てないか」
家から歩いて十五分、幼馴染との待ち合わせ場所である十字路に着いた。ふと澄が俺より早くここに来ていたことがあっただろうかと頬の傷跡を掻きながら考える。それぞれの家からここまでの距離はだいたい同じ。違うのはコンパスの長さぐらいだ。同じ時間に家を出たとしても俺の方が到着が早いのは至極当然のことと言える。携帯で時間を確認すると今の時刻は午前七時五十六分。
「そろそろ澄が来る頃……あ、来た」
澄が角を曲がって現れる。そして俺の姿を確認するなりぱたぱたとこちらへ向かって走り出す。
「おはよー照! 待ったか?」
よく通る元気な声で言う澄。満面の笑顔を浮かべている。
「おはよう澄。ついさっき来たところだ」
亮の頭に手を置きながら答える。身長百八十四センチの俺に対して澄の身長は百六十八センチ。ちょうどいい背の高さなのでいい感じに手がフィットする。
「それはやめろって言ってるだろ照! お前がそうするから僕の背が伸びないんだ!」
俺の手を払いのけ、うがーと澄が抗議の声を上げる。
「仕方ねぇだろ、これをやらねぇと一日が始まった気がしないんだよ」
軽く笑いながら言う俺。俺の手と澄の頭が織り成す、他の人間では絶対に味わえない絶妙なフィット感。それが俺に与えてくれる安心感はかなりのものだ。
「さて、恒例の儀式もやったことだし学校に行くか」
「僕としてはそんな儀式は一刻も早く廃れて欲しいね」
学校へ向かって歩きながらやいのやいのと軽口を交わす。いつも通りの登校風景だ。
前崎澄は俺の幼馴染である。付き合いは生まれた時から。生まれた病院も誕生日も同じなので、比喩でも何でもなく文字通り生まれたときからの付き合いだ。どちらも初産ということで親どうしが意気投合したらしい。それ以来家族ぐるみの付き合いだ。また、澄とその両親は俺の人間嫌いの例外である。澄は俺がどれだけ『近寄るな』という雰囲気を放っていたとしてもそんなもん知るかという勢いで突っ込んでくる。そのくせ俺が本当に一人になりたいときは放っておいてくれる。一応空気も読めるし気遣いも出来る。そのせいか俺とは違い交友関係も広い。澄のおかげで俺の人間嫌いが『積極的に人と関わりたくない』程度で済んでいるのだから感謝しなければいけないな。こいつがいなかったら対人恐怖症レベルだったのかもしれないし。
「ねぇ幸、あれって暮山さんじゃない?」
信号待ちをしていた時、突然亮が道路の反対側を指差した。その先には一人の女子高生の姿がある。
「あぁほんとだ。そういえば登校中に見かけるのは初めてだな」
彼女の名前は暮山夢。二ヵ月前に父親の転勤の都合だとかで俺たちの通う学校に転校してきた。クラスも俺や澄と一緒。澄とはまた別の人好きのするタイプで、澄が自然と人に囲まれるタイプだとすると、彼女は人を引き寄せるタイプだ。本人が気さくな性格なのも一因だろう。
「うわー結構な人が暮山さんのこと見てるねー」
そういうお前も見られてるからな、主に女性に。と思いつつ彼女を見る。
「あれだけ美人だったら仕方ないだろ」
今のご時世、綺麗な黒髪というだけでも注目の対象になりえるし、纏っている雰囲気も常人とはどこか違う。道を行く男達が思わず振り返るのも無理はない。
「照が人のことをそういう風に言うのは珍しいね……何かあるの? もしかして恋!?」
にやにやと笑いながら俺を見上げる澄。しまったと思ったがもう後の祭り。
「……気なっているということは否定しない」
傷跡をポリポリと掻きながら言う俺。
「おぉー」
澄が感心したような声を上げる。照れ隠しに澄の頭をぐしぐしと撫でておいた。やめろよーとか言っているが気にしない。
転校してきた暮山を一目見て以来、俺の中になんだかよくわからないもやもやした感情が居座っている。自分でもこの感情をなんと呼んでいいのかわからない。そもそもこんな感情を持つこと自体が初めてなのだ。分からなくても不思議はない。
「あ、信号青になってた」
ふと気付くと信号はすでに青になっていて、他の人々はもう道路を渡り始めていた。
***
「僕日直の仕事あるから先帰っててー。あ、それと僕お母さんにお使い頼まれててさ。豚肉と牛乳、頼んでいい? 」
という澄の言葉に見送られて学校を後にする。今日も今日とて居心地の悪い場所だった。この高校に入学してからもうすぐ一年が経とうとしている。それなのに俺に向けれられる視線は一向に変わっていない。断っておくが俺は以前に問題を起こしたことがあるだとかそういう後ろ暗い過去は一切ない。俺としては人間と関係を持たずに済むから助かってはいる。ただ、どうしてそこまで長く俺一人に構っていられるのかが不思議でならない。人の噂も七十五日なんて大嘘だ。
「それにしても澄のやつ、人にさらりと用事押しつけやがって。今度何か奢ってもらわなければ」
学校の近くにあるスーパーマーケットへ向かって歩きながら呟く。俺が押しに弱いことなんてあいつにはとうの昔にバレている。分かっているならそっとしておいてくれればいいものを、あいつは時々こういう風に物事を押し付けてくる。面倒なこと限りなし。もっとも、理不尽なものを押し付けられたりしたことはないし、何かのついでにこなせるものがほとんどだからさほど苦労はしない。
「ついでに色々買っとくか。夜食におやつに後は……」
そんなことを考えながら歩いていたからか、前方不注意だった俺は路地から出てくる人影に気付かなかった。
「きゃっ!」
「おっと」
俺とぶつかった人がバランスを崩して転ぶ。着ている制服を見るに俺と同じ高校の女子生徒のようだ。出てきた路地の先にスーパーマーケットがあることと手に持っていたスーパー袋から判断して買い物帰りらしい。
「あ……すいません、大丈夫ですか?」
内心は面倒なことになったと思いつつもそれを表に出さないようにしながら声をかける。これでまた一つよくない噂が増えそうだ。
「私は大丈夫です。だけど」
スカートを手で払いつつ立ち上がり、地面に落ちたスーパー袋を見る彼女。つられて見てみると、そこには見るも無残な姿になった卵が。さらに面倒なことになったと心の中でため息をつく。一体どうしたものか。
「ところで、君って笹宮君よね? 私と同じクラスの」
この場をどう切り抜けようかと頭脳をフル回転させていた俺に、彼女が声をかける。視線を彼女に戻すと、猫のような目が俺を見つめていた。楽しいことを見つけたかのように輝いている。
「そうですけど……もしかして暮山?」
さすがにこの展開は予想していなかった。どこかで聞いたことがある声だと思ったらこういうことだったのか。それにしてもどうして暮山なんだ。何が悲しくてよくわからない感情とはいえ気になっていることには変わりない人の卵を全滅させなければいけなんだ。そんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。
「混乱してるっぽいところで悪いんだけどちょっといい?」
彼女の声ではっと我に返る。
「……どうした?」
おずおずと話す俺。両親と獅子野一家以外の人間と話すのは久しぶりだからどんなふうに話せばいいのかいまいちわからない。ましてや相手は女子だ。俺の天敵といっても過言ではない。さて何を言い出すのか。
「卵買い直しに行くから付き合えやコラ」
俺の心配を返せ。これのどこが女子だ。照でもこんなことめったに言わない。
「というのは冗談で、卵買い直しに行くからちょっと付き合ってよ」
「いや冗談になってねぇよ。言い方変わっただけだよ」
俺もスーパーマーケットへは行かなければならないのだが、暮山と一緒に行くのは遠慮したかった。これが何とも思ってない人間ならどれだけ楽だったことか。
「あぁうん。付き合ってくれるんだ、ありがとう」
「そんなこと言ってねぇよ! お前の耳どうなってんだよ! 話聞けよ!」
いつの間にかいつも澄と話すときみたいなテンションになっていた。俺は女子と話した経験がほとんどないので一般的な女子というものを知らないが、暮山が一般的な女子ではないことは分かった。いくらなんでも話を聞かなさすぎる。
「良いじゃん別に。誰のせいで私の卵が全滅したんだっけ?」
頬を膨らませながら言う暮山。
「それは俺のせいだけども」
「じゃあ断る権利はないよね! さぁいくよ!」
逃げるのは諦めるしかなさそうだ。
買い物を終えて二人揃って家路に着く。最近何かと物騒なので暮山を彼女の家まで送っていくことになった。当初俺は一人で帰ろうとしたのだが、暮山に『普通こういう時って女の子を送って行くもんじゃないの?』と言われそれもそうかと思い送っていくことになった。いくら人間嫌いとはいえ、いやこの場合それは関係ないか。こんな物騒な時に女性を一人で家に帰すのは流石にデリカシーがないからな。いい機会だし、色々と聞いてみるか。自分の中のこのよくわからない感情の正体をはっきりさせるために。
とは言え、ほぼ初対面の女性に対して何か気のきいた話題を出せるわけもなく。
「……」
「……」
沈黙が続く。俺はいつもならば会話がなくても平気なのだが、今はいつもとは状況が違う。何度も言うように気になっている女性と一緒にいるのだ。焦りがつのる。
「あのさ」
あれこれ悩んでいる俺に暮山が声をかけてきた。彼女は何を思って声をかけたのかは知らないが、俺にとっては救いの手を差し伸べられたようなものだ。
「どうした?」
やべ、今声裏返ったかも。
「君のよくない噂を耳にすることが多いんだけど、あれってほんと?」
そう来たか。だが怖気づく必要はない。
「いんや、事実無根。俺の容姿とか雰囲気のせいでそういう噂を立てたがる奴が多いってだけの話だ」
「そうなんだ」
「俺はそんなことが大嫌いだから極力人と関わらないようにしてる」
「でも前崎くんとは結構仲いいよね」
ちらっと俺の方に視線を向ける暮山。
「あいつは例外だからな。あいつが居なかったら『人と関わりたくない』ってレベルじゃなかっただろうからな」
確実に引きこもりになっていただろう。『人と関わりたくない』なんてレベルではなく、『世界が怖い』とかってレベルになっていたと思う。
「いいな、そういう人が居るっていうのは」
少し寂しそうな声の暮山。身長差があるので俺から表情は見えない。
「……いつかできるといいな」
「うん」
辺りは夕焼けで赤く照らされていた。
***
「十一月十日、朝のニュースをお伝えします」
昨日、あの後暮山を無事に家まで送り届け、俺も澄の家に寄ってから帰宅した。
「まずはこちらのニュースから。連続通り魔事件の捜査は依然として難航しているようです」
澄の家に行った時は澄のお母さんにお礼として結構な量のリンゴを渡された。いつものことだから構わないと辞退したのだがいいからいいからと押されてつい受け取ってしまった。その一部は今日の朝食のデザートになっている。
「警察は引き続き情報提供を求めるとともに、外出の際は一層警戒し一人での外出は避けるよう呼びかけています」
朝のニュース番組は昨日とほぼ同じ内容。注意したところで襲われるときは襲われる。俺はともかく澄が心配だ。
「ごちそうさま」
食器を流しへ運び、水につける。今日も嫌なことだらけの一日が始まる。
いつものように亮と学校へ行くと、暮山はまだ来ていなかった。朝のホームルームで先生が暮山は今日は欠席だと伝えた。その時は気にも留めなかった。
授業を六つ受けて一日が終わる。帰りのホームルームで担任が一言。
「暮山の家にこのプリント届けてくれる奴居ないか?」
俺はもちろん、クラスの誰も声を上げない。そんな中、澄が手を挙げた。
「はい! 僕行きます!」
よく通る声で言う亮。担任は『前崎なら安心だな』と言ってプリントを澄に渡す。教師の信用も得ている澄なら任されるのも納得だ。ただ物凄く嫌な予感がする。
ホームルームが終わり、クラスメイトは帰宅したり部活に向かったりで教室からはだんだん人が減ってきた。俺はというと図書室に行って本でも物色しようかなと考えながら自分の席でぼんやりとしていた。
すると、俺の元へ澄がやってきて一言。
「暮山さんにプリント届けてくれない? 僕彼女の家知らないんだ!」
満面の笑みを浮かべている澄。登校中に昨日暮山を家まで送って行ったことを話したのが間違いだったか。
「さてはお前、狙ってやがったな?」
「なんのことでしょー?」
睨む俺に対して澄は首をかしげて誤魔化す。
「はぁー、仕方ない。埋め合わせはちゃんとしてもらうからな?」
「今度学食でラーメン大奢る。それでいい?」
「引き受けた」
こうして、俺は二日続けて暮山家を訪れることになった。
道を思い出しながら歩き、暮山家へ辿り着いた。どこにでもある普通の一軒家。いい感じに年季が入っている。
「何か昨日と違うな……」
昨日来た時とは何かが違う。家からにじみ出る雰囲気とでも言おうか。それが昨日とは違っている。どう違うかは上手く言えないが。
「……早いとこプリント渡して帰るか」
インターホンを押す。普通なら『どちらさま?』などの声が帰ってくる。だが、インターホンから聞こえてきた声は違った。
「きゃあああああああああああああ!!」
インターホンから聞こえてきたのは悲鳴だった。
「おいおい……一体どうしたってんだ!」
ドアを開けて家の中に入る。幸い鍵は開いていた。
家の中に入ると、リビングと思われる部屋以外明かりがついていなかった。さっき感じた雰囲気の違いはこれが原因か。とりあえず明りのついている部屋に向かう。明かりの漏れているドアに手を掛け、開けると目を疑う光景が広がっていた。
「くれ、やま? これはどういうことだ……?」
リビングでは両手両足を縛られた男女と美濃崎が向かい合っていた。
「ん? あぁ、誰かと思えば笹宮君か。いきなり人の家に入ってくるなんて常識知らずだね」
こちらを向く暮山。その顔には笑顔、その右手には刺身包丁が握られている。
「そりゃ悲鳴が聞こえたらからな! そっちの二人は誰だよ!」
暮山からは目をそらさず、縛られている二人を指して言う。
「私のお父さんとお母さん」
「なんでこんな」
「殺してやろうと思って」
俺の言葉を遮るように言う暮山。待て、殺してやる、だと?
「どうして、こんなことを」
「この人たち私が生まれたころから不仲気味でねー。さっさと別れればいいのに、よっぽど世間体が大事らしくて別れないの。そんな生活で溜まったストレスを全部私にぶつけてくるんだよ。そんなことを十六年以上続けられたら誰だって殺したくなるよ」
美濃崎は笑顔のまま。猫のような目は昨日と同じように輝いている。
「それでやっと人を刺すのにも慣れていざ決行って時に笹宮君が現れるんだもん。私って運がないのかな?」
「ちょっと待て、人を刺すのに慣れたって言ったか?」
すると、まさか……。
「その顔は気付いたみたいだね。今世間を賑わせている通り魔さん、実は私なんだよ」
そういえば最初の通り魔事件が起こったのは九月七日。美濃崎が引っ越してきたのもその辺り。彼女が犯人なら辻褄が合う。
「なんで、そんなことを」
言葉が詰まる。どこからともなく息苦しさが忍び寄ってきた。
「私ね? 人間が嫌いなの。嫌いっていうか……うーん、どうでもいい。そう、どうでもいいの」
その言葉で分かった。俺の抱えていたこのよくわからない感情の正体。これは『同族嫌悪』という奴だ。
「で、通り魔やってたのはこの人たちを殺すための練習。さすがに人を刺すのには抵抗あったし」
うんうんと頷く暮山。
「でもそれも無駄になっちゃった。笹宮君に見つかっちゃったし。殺させてくれないでしょ?」
俺を真っ直ぐ見て言う暮山。
「当たり前だ。いくら人嫌いとはいえ、人が殺される様を何もしないで見ていられるか」
真っ直ぐ見つめ返して言う俺。
「残念」
にっこりと笑って、手に持っていた刺身包丁を逆手に持ちかえる暮山。
「それじゃあさよならだね」
そう言って包丁を振りかぶる。
「おいよせっ!!」
俺の叫びも空しく、包丁の切っ先が暮山の腹に吸い込まれていった。
***
「十一月十一日、朝のニュースをお伝えします」
今日も朝のニュース番組を見ながら朝食を食べる。
「連続通り魔事件の犯人が逮捕されました」
テレビからその言葉が聞こえてきた途端、俺はテレビの電源を切った。あの事件の解決に立ち会った身としてはあまり聞きたい話題ではない。
暮山が自分を刺した後、すぐに俺は警察と救急車を呼んだ。今から思えばあそこまで冷静に対応できたのが不思議でならない。人間吹っ切れると冷静になると言うがまさにその通りだったようだ。その後警察と救急が到着し、俺も色々と聞かれた。家に帰りついたのは夜の九時を過ぎた頃だったはず。暮山は手術の結果一命を取り留めたそうだ。目の前で自刃するという光景を見せられただけでも嫌な気分だと言うのに、その人間が助からなかったら追い打ちもいいところだ。
俺が抱えていたよくわからない感情には昨日『自己嫌悪』ということで一応決着がついた。だけどそれが本当に正しいのか、その答えでよかったのか分からない。多分これからも答えが出ることはないだろう。
「ごちそうさま」
食器を流しへ運び水をつける。
「……大嫌いだ」
今日も嫌な事だらけの一日が始まる
Fin