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自称王子と新クエスト③

 言葉を失うとはこのことかと実感する。いきなり現れた声の主にゆっくりと首を向ける。

 胸の前で腕を組み堂々と仁王立ちで構えているのは、昨日高速で馬を走らせていた王子だった。

 重いのか軽いのかわからない謎の空気を入れ換えるため、俺はいつものように口を開く。


「わざわざこんな所に来て、俺たちに何か用でしょうか?」


 敬語にしたのはなんとなく先輩のような気がしたからだ。


「まずは自己紹介からだ!」


 そう言って"彼女"は名乗った。


「私は三年五組コスプレ同好会会長、串木野王子(くしきのおうこ)だ!」


「……コスプレ同好会?」


 やっとフリーズから立ち直りそれだけ聞き返したのは委員長氏だ。


「そうだ。コスプレとは自分の憧れている存在に自身を同化させることのできる唯一のアクションだ!それと私のことは気軽に王子(おうじ)と呼んでくれ」


 王子の正体が清々しさ満点のコスプレ少女だというのはわかった。だがまだ重要なことを聞いていない。


「それでコスプレ同好会の会長さんは、俺たちに何の用があってこんな遠くて誰も来ない屋上まで来たんですか?」


 彼女は口元に笑みを浮かべ俺と委員長氏を改めて見据える。


「単刀直入に言おう。君たちコスプレ同好会に入らないか?」


 …………………


 俺も委員長氏も口を開こうとしない。俺たちとコスプレの関連性に気づいているのか解らない以上、下手に発言することはできない。


「なぜ私たち何ですか?」


 委員長氏が核心を突く質問を投げ掛けた。


「やはり気づいていないようだな」


 と王子のコスプレをした少女が前置き。


「私は放課後、基本的にB棟にあるコスプレ同好会の部室に居るのだが、そこには体育館や各実習室の監視カメラの映像を映すモニターがあるのだ」


 確かに監視カメラはあったが、あれ機能してたのか。


「プライバシーを考えてか、全ての場所ではなく限定された教室にしかカメラはない筈なのだが……何故かわからないが校舎棟では君たちの一年一組の教室だけカメラが設置されていたのだ」


 この意味がわかるか?とでも尋ねるような目で俺たちを見てくる。

 カメラなんてあっただろうか?思い出そうとするものの教室の記憶など曖昧で、脳内で映像化することはできない。

 そんなことよりも今は彼女の話の方が大事だ。自称王子が言うのはつまり……。


「そう。昨日の放課後も私は部室に居た。部室をそこにした理由の半分は監視カメラの映像を見れるからだ。というのも常に学校全体を見回すことによって、素質のある者をわが部に招き入れるためだ」


 "素質"というのはおそらくコスプレについてだろう。


「二年間の間あらゆる生徒を見てきたが多少奇抜な格好をする者こそいるものの、コスプレをしている者は皆無だった」


 一度俯き少女の顔に影が差すが、暗くなりかけた空気を自ら断ち切る。


「だがしかし、その時は遂に来た」


 ビシッと真っ直ぐな指を俺たちに差す。


「何の気なしにモニターの端に映し出される映像に目を向けるとメイド服に着替える女子がいた」


「えっ!!」


 驚きの声を上げる委員長氏。視界の端に目だけを向けると、恥ずかしさで顔を真っ赤にし身体を完全に硬直する姿があった。


「すぐさま私はそこにダッシュで向かおうと思ったが、その女子生徒が着替え終わったところで男子生徒が入ったきた」


 これ以上こと細かに昨日のことを語られるのも面白くない。次の言葉が発される前に強引に割り込む。


「なるほど、その一部始終を見たあんたはメイド服を着る女子とコスプレを否定しない男子、その二人なら同好会に入るのでは? と思ったってことか」


 彼女の熱弁にうんざりしたのか自分でも無意識にタメ口になっていた。


「そういうことだ!」


「断る」


「理由を聞こうか?」


「まずメリットがない。俺は別にこの学校で青春を謳歌する気もないから部活にも入らない」


 それと、と言って横に居る委員長氏を右手の親指で指し。


「こいつ自身コスプレしているという事実が知られるのを望んでいない」


 その二つが主な理由だ、と最後に付け加える。


「ふむふむ、なるほど。なら、その二つの条件が解消されれば君たちは同好会に入ってくれるということだな?」


「ああ。まあ無理だと思うけどな」


「それはどうかな」


「な……」


 に、と続けそうになるのをなんとか飲み込む。不可能な筈だそんなこと。


「まず前者については、まだ公表されていない情報だが今年度から、本校の生徒はいずれかの部活動または同好会に所属しなければならない。という校則が設けられることになっている。つまりたとえ君が直ぐに帰宅してゲームをしたくとも、どこかの部活で一時間くらいは先輩や同級生たちと、同じ目標に向かって精進していかなくてはいけないのだ」


 なん……だと。それは俺にとって衝撃の事実だった。


「ソースは?」


「生徒会から」


 嘘をついてるようには見えない。どうやら覚悟を決める必要があるようだ。

 RPGで効率のいいレベル上げの方法を考えるくらいのスピードで頭を回転させる。心の中で大きく深呼吸する。慌てるな、相手のペースに飲まれてはいけない。


「そのコスプレ同好会の人数は?」


「私一人だ」


「主な活動は?」


「同好会としての方針はまだ決めていないが、私個人は毎日王子を意識した行動を心がけている」


「なるほどな」


 それならば快適なゲーム環境を整えることは可能だ。この状況を逆に利用してやる。

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