魔界の叛逆者③
出水? それがこの厨二病の名前なのか?
だが、なぜ会長が知ってるんだ?
その疑問を胸に、第一声を発した会長に視線を向ける。
「一年四組、幻の生徒と呼ばれる出水光」
「幻の生徒?」
その発言に聞き返す委員長氏。
「私が勝手に呼んでいるだけだがな」
「何勝手に幻にしてるんですか!」
胸を張って言う会長に委員長氏がツッコミを入れる。
「私とて根拠なく言っているわけじゃない」
委員長氏は訝しげな視線をオーコさんに向けつつ、黙ってその先の言葉を待つ。
「私は常日ごろから監視カメラを使ってコスプレマニアを探しているのだが、出水君は一切カメラに映らないのだよ」
委員長氏とACが驚愕する。日置は無表情のため分からない。
しかし、一切映らないって……カメラを避けてるってことか?
「そんなことが可能なんですの?」
ACが半信半疑といった様子で訊ねる。
「普通の人間にはできないだろうし、する理由もない」
つまり普通の人間じゃないって言いたいのか?
「まあ、普通ではないだろうが」
俺は黒ローブへ視線を投げ呟く。
俺の発した言葉を最後に再び静寂が訪れる。
皆この得体の知れない者をどう扱っていいか困惑しているようだった。
ここに来ることを薦めたのは俺だ。
であればここは俺が活路を見出さなければと思っていたところ、先ほどまで冷蔵庫の近くに座っていた無表情娘がテクテクと近寄ってきた。
「そのローブ、どこで」
視線の先には出水がいる。
「これは魔界で腕利きの住人に練成してもらった物だ」
「オーダーメイド、てこと?」
視線を逸らす出水。
また厨二発言かと思ったが意味はあったらしい。
日置は黒ローブの主を注視する。いつもの変わらない無表情だが、その瞳の奥に何か熱いものを感じられた気がした。
「答えて」
日置は更に詰め寄り黒ローブの襟を両手で掴む。
普段の彼女からは想像できないほどの気迫がこちらにも伝わってきている。
口を挟んだほうがいいか逡巡していると、やがて出水が口を開いた。
「…………そうだ。これは『サントゥアーリオ』という軍が練成したものだ」
さんとぅあーりお? 軍というのは会社のことか。
「santuarioはスペイン語で聖域という意味ですわ」とAC。
「やっぱり」
何か確信した風のゲーマー娘は黒ローブから手を離し、冷蔵庫の方へ戻っていった。
何だったんだ? 明らかに様子がおかしかった。
「姶良さんは何故スペイン語だと分かったの?」
委員長氏が小首を傾げACに訊ねる。
「あら? 言ってなかったかしら? 私、母国語のフランス語と日本語以外にも、英語、スペイン語、ドイツ語を話すことができるんですのよ」
ACは縦ロールの金髪をふわりとかき上げる。
「流石お嬢様」
委員長氏が目をキラキラさせ感嘆の声を上げた。
俺はそんな二人のやりとりを横目で見ながら、先ほどゲーマー娘が話していたブティック『サントゥアーリオ』についてスマホで調べていた。
サントゥアーリオ――金髪の言っていたようにスペイン語で聖域という意味を持つ。
何とも大層な企業名だと思ったが、検索をかけたところ80万件というなかなかのヒット数。世間の認知度からしてもそこそこ名の知れているアパレル企業のようだ。
事業内容はオーダーメイドの通販専門店。和服や洋服だけに留まらず、コスプレの衣装など幅広いジャンルを承っている。
俺は黒ローブを再度見て思う。
相当腕の立つデザイナーとパタンナーが所属しているのだろう。
でなければこんなにクオリティーの高い衣装を作ることはできない。
だが何故ゲーマー娘はこの衣装がその会社で作られた衣装だと解ったのだろうか。
更に調べるためスマホの画面をスクロールさせていると、放置していた問題を会長が持ってきた。
「諸君! 彼を歓迎しようではないか!」
ちょっと強引過ぎじゃないか? 今のは?
「我をスルーするとは貴様ら只者ではないな」
厨二病は俺たちに向かってよく解らない構えを取り警戒するが、すぐに両目閉じ口元に笑みを浮かべた。
「ふっ、まあそれも当然か。我が長年に渡り探し続けてきた者共なのだからな!」
ハーハッハッハッハッハッ、と笑っているが俺たちには全く理解不能だ。
それでもこんな状態をいつまでも続けるわけにもいかない。
俺は嘆息し、決意を固め口を開く。
「よく来たなディミトリアス。ここがあんたの新たなる拠点『コスプレ同好会』だ」
誰もが困惑する中、俺はたった一つの方法に賭けその言葉を発した。
これで全て問題は解決するはず。
さてどうだ?
「………………」
再び訪れる静寂。
あれ? もしかして、間違ったか?
時すでに遅し。凍りついた空気を解すどころか、更に冷たさを増してしまったようだ。
「まあ、そんな日もあるさ」
俺は諦めの笑みを浮かべ天井を仰いだ。




