自称王子と新クエスト
翌日。鬼の出した宿題を完璧に終わらせたていた俺は宿題を忘れて鬼にしばかれている連中を見てホッとしていた。
昨日宿題を取りに行ってなければ俺もあの連中の一人になっていただろう。それに関してはいいのだが、問題はあの後校舎を出てからだった。
校門を出ようとしたところで遠くで俺を呼ぶ声がしたが、気のせいだと思いそのまま帰っていたのだが、ほどなくして「無視すんじゃねぇよ」と後ろからタックルされた。
いきなり何だと思って振り向くと諏訪部がいた。
「何でいるんだ?」
「何で?じゃねぇだろうよぅ、一緒に帰るって言ったじゃんか」
涙目ですりよってくる。気持ち悪い。気持ち悪い諏訪部を引き剥がしながら思考する。
(何か忘れてると思ったら諏訪部だったか)
「まあでも結局一緒に帰ってるじゃないか」
ははは、と適当にフォローしたが、こいつの頭の中では既に別のことで埋めつくされていたようだ。
「メイドさんと何があったんだ?」
鬼のような形相に思わず引いてしまった。
「引くなよぅ、引くなら俺のいないところで引いてくれ」
意味が解らない。
「で、何があったんだ?」
「何のことだ?」
「とぼけんなよぅ、メイドさんが学校から走ってくの見たんだぞぅ」
委員長氏見られてるし……。あいつはもっと周囲に気を配るべきだ。だが正体はバレてないようだからとりあえずは大丈夫か。
「俺は知らないな」
「じゃあ何でこんな遅くなったんだよぅ」
「鬼に捕まってたんだ」
「鬼?高村先生か。……それは御愁傷様」
鬼の話を出した瞬間黙り込んでしまった。自分も同じような経験があるのだろうか?
「そんなことより、あのメイドさん可愛かったなぁ」
切り替え早いな。
「もう一度会えないかなぁ?」
毎日会ってるけどな。
「この辺のメイド喫茶を調べればあるいは……」
ん?雲行きが怪しくなってきたな。
「よし!そうしよう。次の土曜日にメイド喫茶巡りだな。ワクワクしてきたぁ」
まずいな。おそらくあいつはどこかのメイド喫茶でバイトしているのだろう。でなければ他に可能性がない。急いで走って行ったのはバイト先に向かったからではないか?
「やめた方がいいんじゃないか?」
「何でだよぅ」
「プライバシーに関わるだろ」
いつもの俺にしてはらしくない発言だった。なんでも笑いながら適当に応じるのが常だったにも関わらず、今の俺はあいつの正体がバレないようにするのに必死だった。
「何だ?もしかしてオレが彼女を見つけられないと思ってるのか?」
ちっちっち、と人差し指を横に振る。
「あまいぜ、なんたってオレにはこれがあるんだからなぁ」
諏訪部はズボンのポケットからケータイを取り出すと、ある画像を見せてきた。
「……これは?」
血の気が失せていく。
「何って、決まってるじゃねぇか。あの子の写真だよ」
委員長氏が走っている写真。だがそれは幸い正面ではなくその逆、後ろから撮っているものだった。
「土曜日、俺も一緒に行く」
顔が広く口が軽いこいつに知られるのだけは阻止しなければならない。
「来るのか?オレはてっきり『俺はゲームをしないといけないから無理だな(笑)』とか言うのかと思ったけど」
「それとその写真はお前の宝物にして、他の誰にも見せるな」
釘は刺しておいたが効果があるかどうかは解らない。
「お、おお、わかった。わかったけど、何かお前恐くないか?」
「気のせいだ」
気のせいなんかではない。俺も何故ここまで真剣になっているのか。
それから数メートル歩いたところで俺たちは別れた。
◇ ◇ ◇
土曜日と言えば今日が水曜日だから三日後だ。それまでに対策を打たなければならない。
だが考えていても仕方ない。昼休みにでもあいつに話をしなければ……。
土曜日の対策を考えていたため午前中はゲームなんてできる気分ではなかった。
気づけば昼休み。結局対策案は出なかったが委員長氏に話をすれば何か思い浮かぶかもしれない。
不審に思われないように、いつもの俺を意識して接する。
「四時間目の国語の復習をするとはさすが委員長だな」
昼休みなのにまだこいつは勉強する気なのか机の上に教科書とノートを広げている。
「自分なりにまとめているだけよ」
俺の顔を見ずに答える。
「昨日のことだが」
周りには聞こえない声で言うと、委員長はその場でビクッと跳ねた。
「な、なに?」
『頼み』がどんなに内容のものがくるのか警戒しているのか委員長氏は俺に顔を向ける。
「ここでは誰に聞かれるかわからない。そうだな……屋上なら誰も来ないだろ」
んじゃ、と手を振ってそそくさと退散する。
コンビニで買った菓子パンを持って屋上へと向かう。今頃購買では戦争が勃発しているだろう。俺も一度だけ参戦したことがあるが、結局人気のないレーズンパンしか買えなかった。そのため金に余裕のある俺はそれから昼はコンビニのパンで済ませることにしたのだ。
昨日走った階段を上がり誰もいないであろう屋上に続く扉を開け足を踏み入れる。
突如下界では味わえない強い風が一気に押し寄せ頬を殴りつけ、あまりの強さに思わず目を瞑る。
周りを見渡すと予想通りそこには誰もいなかった。内緒の話をするにはうってつけだが、果たしてあいつは来るのだろうか。あの場ではあまり話しているところを見られたくなかったため、早めに話を終わらせた。
諏訪部あたりに見られたら何を言われるかわかったものではない。そういえば諏訪部のやつ休み時間すぐどこか行っていたが……まあ、いいか。
菓子パンを食いながら時間を潰す。だが二口目をかじったところで潰す時間はなくなった。
「以外と早かったな」
「あんな風に立ち去られたら誰だってすぐ来るでしょ」
それもそうか……。それじゃまずこの画像から見てもらうか。
「「話を始める前に」」
驚いたことに二人の声がハモった。