魔界の叛逆者②
同盟を組む? それって、まさか……。
「コスプレ同好会に入りたいということか?」
黒ローブは首肯する。
「貴様らの軍は逸材ばかりが揃っているようだからな。魔王に対抗する戦力として大いに活躍するだろう」
理由は不明だがコスプレ同好会に入部したいらしい。
「構わないぜ」
委員長氏の気が俺から逸れるなら大いに結構だ。コスプレをしているから会長も喜ぶだろうし、それに……。
「俺もあんたに用があるからな」
入部するというのなら写真を取るタイミングを狙いやすい。
「ほう。我を知らぬはずだが、一体どんな用があると? まさか貴様、魔王軍のスパイではないだろうな! くそ、やられた。こんなことならさっさと始末するべきだった」
なにやらぶつぶつと呟いているが、気にしないでおこう。
「んじゃ、明日またここに来てくれ。今日よりも早くな」
校舎棟へ向かって歩きながら、後ろの厨二病に右手をひらひらと振った。
「待て。我の話はまだ終わっていない」
俺は足を止め、肩越しに振り向く。
「言っとくが、魔王とは関係ないからな」
呆れながら告げる。
「そうではない。貴様の腕は何処で身に着けたものだ? 常人にできる業ではなかろう」
そのことか。さて、どう答えるべきか。
「昔は時間が余ってたからな。ただ何もなく日々を過ごすのも勿体無かったから、どうせなら何か特訓するかって思って、投げナイフの練習をしたんだ」
嘘は言っていない。ただ理由はそれだけではないが。
黒ローブの厨二病は真意を確かめるように俺の眼を注視していたが、やがてすっと目を閉じ呟いた。
「どうやら、貴様にも色々あるらしいな」
俺の答えをどう捉えたのか、少年はそう応じるだけだった。
「なら今度こそ帰らせてもらうぞ。早く帰ってゲームの続きをしないといけないからな」
それ以上は何もなかったため、再び歩みを進めた。
角を曲がった辺りで気づく。いつもより早足で歩いている。あれ以上過去を詮索されたくなかったからだろうか。その思考を振り切るように帰路に就いた。
◇ ◇ ◇
明くる日の放課後。
部室にはオーコ会長を除いたコスプレ同好会メンバーが、それぞれ思い思いの時を過ごしていた。
俺は昨日と同じ位置でゲーム。委員長氏は向かいのソファーで読書、その隣には何かの絵を描いているAC。冷蔵庫の近く、というよりはコードが接続されているコンセントの近くで置物のように鎮座し、ゲーム機を充電しながらプレイしている無表情娘。
傍から見ると何の部活なのか解らない光景だろう。俺としては静かな環境で、集中してゲームができるため特に異論はない。
ゲーム内の全キャラが本日二度目のレベルアップをしたところで、ガラガラと部室と廊下を隔てる扉が開いた。その音に反応し全員がそちらへ顔を向ける。扉を開けた主、オーコ会長は部室に足を踏み入れ、元気良く声を発した。
「諸君、おはよう!!」
「おはようって先輩、もう午後ですよ」
委員長氏が冷静なツッコミを入れる。
「王子さん、そういう時はBuon giornoですわ」
イタリア人と日本人のハーフであるACがアドバイス。
「ボンジョルノ!」
「Buon giorno」
恐ろしく日本人らしい会長のボンジョルノに流暢なイタリア語で返す金髪。
この二人、意外と気が合うんじゃないか?
ニコニコと子供のような笑みを浮かべる会長に嘆息しつつ、疑問を投げかける。
「やけに上機嫌だな、会長」
「ん? いや、特に何もないが?」
会長は俺から目を逸らし答える。何か怪しいが、今はそれよりも大事なことがある。
そう思った矢先、廊下から聞こえてくる靴音。その音は徐々に大きくなり、やがて止まった。
開け放たれた扉から覗く黒ローブには見覚えがある。約束通り来てくれたみたいだな。
昨日会った厨二病(名前はなんだったか忘れた)は悠然とした足取りで部室に入ってきた。
「来たか」
彼を招き入れた当人である俺が第一声を放つ。
ニヤリと口元に笑みを浮かべ、更に言葉を続ける。
「俺以外とはまだ初対面だよな。自己紹介を頼む」
魔界の叛逆者は俺と同様、口元を歪めると楽しそうに名乗り始めた。
「我の名はディミトリアス・アーチボルド。魔王ヴィッサリオンへ謀反を企み、魔界を我が物するため貴様ら愚民共と共同戦線を張ることにした」
空間を静寂が支配する。
時が止まったとさえ思える無音。誰一人として微動だにせず固まっている。
これからどうなるのか俺には解らないが、何故だか不安は感じなかった。
長い長い沈黙の後、ようやく時間が動き出す。
「ようこそコスプレ同好会へ。歓迎しよう、出水君。ここが君の居場所だ」
他の誰でもない。我らがコスプレ同好会会長、串木野王子だった。




