導きの白き光
迷路のよく強い口調で己の想いを叫ぶように言い放つ。
ルナ:リアルの私は小さくてとても弱いの!
関わり始め数日しか経たないルナのことは、俺には解らない。
ルナ:私は……この世界にしか……。
ルナが心の叫びを吐露し続ける中、スキル『弱音感知』により俺の耳に微かな音が聞こえる。
A:ルナ、話は後にしろ。この辺では珍しい客人がいらっしゃったようだから、最高のおもてなしをしてやらんとな。
ルナ:……客人?
ルナには解らないのか、辺りをキョロキョロと見回している。
A:来るぞ。
神経を集中させ、静まり返った洞窟に響く小さな音を聞き分ける。
それは突如として現れた。獰猛な顔をし鋭い牙を覗かせる。うに入り組んだ回廊を迷わず突き進んでいくと、穏やかな日差しが差し込む出口が見えてくる。いつもは一人で歩いていた回廊を二人で歩くと不思議な感覚だな。
回廊を抜けると朗らかな日差しと共に鳥の囀りが聞こえてくる。周りには草木に花々それとセーブクリスタルが置かれている。
俺とルナは共にセーブクリスタルに手を触れた。こうすることで万が一ゲームオーバーになっても、このポイントから再スタートすることができる。
それから俺は装備品の確認を始める。先ほどまで身につけていたものを全て外したところで、ふと妙な視線を感じた。
A:どうした、ルナ?
魔法少女が微動だにせず俺の身体を注視している。顔を真っ赤に染めながらも視線を逸らさない。
ルナ:エースいい身体、してる。
A:アバターだから変わらないと思うが。
ルナ:レベルや能力値の高い人ほどアバターの筋肉がすごいと聞いた事がある。
誰から聞いたんだ?
A:……そうなのか?
ルナ:確かめたことはないからわからないけど。
経験豊富なら顔を赤らめることはないか。
A:ルナは筋肉フェチなのか?
ふと思ったことを聞いてみる。
ルナ:わからないけど、筋肉がすごい男性は素敵だと思う。
アバターの俺を見つめながら言われても困るが、表情が豊かなルナを見れたのならいいか。リアルでもこれだけ豊かなら可愛げがあるんだけどな。
A:さっさと準備して出発するぞ。あんたも装備整えろよ。
言って俺も全解除状態から、一つずつ装備を身につけていく。
ルナ:私に脱げと!?でもエースになら見られても……いいかも。
A:キャラ歪んできてるが大丈夫か?
これが素なら少々考えものだが、ルナのか……。
ルナ:私は至って正常。なんてことを言ってる間に装備完了。
A:お、終わったならさっさと行くぞ。
装備を着脱している姿を思わず想像してしまったため、動揺を悟られぬよう歩き出す。
ルナ:置いてかないで。
後ろからトテトテとついてくる。まるで猫みたいだな。
◇ ◇ ◇
『デコの洞窟』は平均レベル五〇〇〇ほどのモンスターが生息している。しかし奥にあるエリアーー『過去と現在の狭間』ではプレイヤーより少しレベルの低いモンスターが出現するようになっている。そのため経験値を稼ぐには丁度いいレベル上げポイントであり、その事前の準備として先ほど装備をレベル上げ用のものに変更したのだ。
ルナ:エースの見た目がカオス。
A:あんたもな。
ルナを見ながら溜め息をつく。先程の魔法少女装備とは打って変わって、今は頭に学者が被るような帽子、医者の白衣と黒のスウェット、靴は厚底ブーツと訳の解らない姿になっている。
そう言う俺も人のことは言えず、パーティーに被るような円錐形の帽子に石の鎧、スーツのズボンにスニーカーとこっちも解らない。
A:とにかく今やるべきことはここのモンスターの殲滅だ。
ルナ:確かにそうだね。
よく解らない姿のルナはこくりと頷き両手で何かを包むように胸の前に持ってくると、静かだが聞き取りやすい綺麗な声で何事か呟いた。
ルナ:Et audire verba mea fulgenti lumine。
すると包んでいた両手の中に眩い小さな光が出現した。その光は瞬く間に洞窟全体を照らし、先程まで視認できなかった隅々まで暗闇を消し明るくしていく。
A:照明の魔法か。
この手の魔法は他のスキルで代用が効くため、俺自身は習得していない。
A:パーティーとか組む場合は便利だな。 基本的に一人行動のため、こういうのは非常に新鮮だった。
ルナ:じゃ、行こっか。
言って歩き出すルナ。俺も後を追いながら尋ねてみる。
A:ルナは誰かとパーティー組んだことあるのか?
ルナ:私は……ない。
答えるまで少し間があったが、ないと言うのならないのだろう。
A:そうか。なら俺と一緒だな。
ルナ:違う
A:えっ?何が……違うんだ?
ルナ:私はあなたのように強くはない。
A:昔は毎日プレイしてたからなあ。
ルナ:ゲームの話じゃない!
おいおい……これは一体どうしたっていうんだ?俺はゲームの話をしていたはずなんだが……。
ルナ:あなたはリアルでもとても強い人……けど私は……私は!
いつにな現実では決して存在することのない魔物。
A:キマイラの中でも上位のゴッドキマイラか……前はこんなのここで出なかったはずだが……暫くぶりに来たから、色々変わってるってことか……。
背中の剣に手を伸ばし、キマイラを睨み付ける。巨大な身体に相応しい目をぎらつかせ俺達を見下ろしてくる。俺は笑みを口元に浮かべその目に視線を重ねた。




