リターンゲーム②
五人組のリーダー、カルトは後ろを振り返ることなく苛立たしげに俺を睨みつけている。
A:そういう熱い視線は困るぜ。そっちの趣味はないから他を当たってくれ。
右手でしっしっと追い払う仕草で相手を煽る。
カルト:許さねえからな!テメェだけは!
何が気に障ったのか解らないが頭に血が上っているようなのでよしとする。あの様子ならまともな判断はできないだろう。
リーゼント野郎が巨斧に手をかけた時、俺はすかさず『観察』を発動。レベル:二一四・HP:一七一二五・MP:三〇五・攻撃力:六一四四・防御力:三六七八・素早さ:九一三・武器『蟷螂の斧』。
そこで俺は見ることを止めた。理由は無論、無意味だからだ。武器が蟷螂の斧とは言い得て妙だな。
A:蟷螂の斧なんて、あんたにピッタリじゃないか。
その発言には返さず、身の丈はあろうかという巨大な斧を振り下ろしてきた。
カルト:うらあぁぁぁああ!
A:さて、少し灸をすえてやるか。
この大振りの斧を回避するのは容易だが、それだけではこの男のプライドを徹底的に潰すことはできない。
最も効果的な行動を選択。襲い来る巨斧を凝視、時に備え神経を研ぎ澄ます。
ここだ!
頭に刃が突き刺さるギリギリのタイミングで、身体を左へスライドさせ紙一重で回避。次いで相手の鳩尾に容赦のない掌底、足で支え切れなくなった男の身体が吹き飛ばさるのを横目で確認し、更なる追撃をかけるべく亜音速で背後へと回り、右足を軸にその勢いを遠心力で保ったまま肘で攻撃するアビリティ『絶嫣衝』を放った。
リーゼント野郎のHPは二度の攻撃により瞬く間に減っていき、あっという間にゼロになった。回廊の奥まで飛ばされた男は遂には姿が見えなくなり、周りに表示されていた数値も消えてしまった。
A:やれやれ、もう少し粘ってくれないと腕ならしにもならないだろ。
ルナ:流石シークレットコード、噂に違わない実力。
いつの間にか隣に寄り添っていたルナが尊敬の眼差しを向けてくる。直後軽快なファンファーレと共にレベルアップの文字が中空に出現した。
A:レベルアップ?おかしいな、俺は既にレベルMAXでカンストしてたはずだが……。
訝しげに自己のステータスを見てみる。
A:おお!これはすげえな!
ルナ:去年の四月頃にアップデートされてレベル上限が五桁の九に改善されたの。
なるほど、それで今まで貯まっていた分の経験値と今得た分でレベルが上がったのか。その数値は二四七〇五。まだまだ先は長いな。
A:さて、邪魔者もいなくなったことだし進むか。あんなんじゃ腕ならしにもならないしな。
ルナはくすくすと笑みを零し続ける。
ルナ:そうだね、行こっか。歩きながらでもさっきのことを聞かせてほしい。
A:さっきのこと?
思い当たることがないが、とりあえず聞いてみるか。緑色の回廊を歩き出し、少女に手で質問を促す。
ルナ:まず最初にあなたが四人の男達相手に使ったのは『観察』だね。けど普通相手を包む光は青いはずなのに、何故あの時は白かったの?
どうやら俺にとって当たり前だと思っていた事象は、そうではなかったらしい。
A:あれはスキルのレベルで色が変わるんだ。といっても全てが別々の色というわけではない。段階のあるスキルは基本的に一から五まであり、その中で一から四が青い光、五が白い光という風に別れている。そうだなぁ……ちょっと俺に対して『観察』を使ってみてくれないか?
ルナ:了解。
魔法少女はコクっと頷くと、両目を見開き『観察』を発動した。直後俺を青い光が包む。しかし……。
ルナ:あれ?
その光は数秒で霧散してしまった。その後、再び光に包まれるがそれは白いものだった。
A:『情報規制』レベル五、スキル『観察』や『ハッキング』、『情報操作』などの効果を完全に防ぐスキルだ。この通り、ルナが発動した『観察』はレベル五ではないため青い光だが、その後俺の『情報規制』レベル五が発動し白い光が現れたわけだ。
ルナ:なるほど……勉強になった。じゃあ次の四人に放った攻撃は?
A:アビリティ『エアショック』。攻撃力と素早さが高いほど威力が上がる使いやすい技だ。
ルナ:見たことはあるけど……そこまで強いアビリティではなかったように思う。
話を聞いていると、俺自体が何かおかしいような気がしてきた。
ルナ:他にもリーゼントの攻撃をあのタイミングで避けるなんて常人にはできない。
A:あれは長年の訓練の成果だ。
ルナ:他には……。
なんてことを話しながら俺達は敵のいない薄暗い回廊を進み、目的地である『デコの洞窟』を目指した。




