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リターンゲーム

 深緑の回廊。濃い緑色で染められた石造りの通路で、この世界に七つ存在する回廊の一つだ。普段ならばここには四方八方にモンスターが存在しプレイヤーの進行を妨げてくるが、今は辺りにスライムやオークは存在しない。

 その理由は現在俺が装備している『魔除けリング』の恩恵を受けているためである。回廊に入る直前に身につけたそれは、装備者のレベルより低いモンスターが出現しないようにできるアクセサリーだ。この辺りのモンスターはどいつも一撃で蹴散らすことができるため、別に出現してもしなくてもどちらでも構わないのだが、現在の状況では邪魔な脇役には退場してもらっていた方がやりやすい。

 数歩進んだところの角を左に曲がる。ルナも先程の俺の指示通りに左折後に待機してくれた。

 耳を澄まし意識を後方へ向けると予想通り何者かの足音が聞こえてきた。一人ではない複数、それも全員男だな。システム上の男女による足音の差違、それが長年このゲームを経験してきた俺には手に取るように解る。

 追跡者が角に差し掛かるまでの僅かな時間で装備の最終確認をし、背後を振り返った。


A:俺達に何か用か?


 一切のポーズを取らずに視線だけを男達に向け尋ねる。


カルト:オレたちデビルクラッシヤーズはどんな奴らよりも目立ち存在を認めさせ、愚民共に恐怖を与えることで最大の快感を得るのだ。


 男の数は五人。それぞれ目が悪くなりそうなくらい派手な装備で身を着飾っているが、その中でもカルトという真ん中のリーダーらしき男は特に直視すら躊躇ためらわれるほど、の下品できらびやかな謎のファッションで近寄りがたい存在感を放っていた。

 頭髪は茶色のリーゼント、見えているのか解らないくらい黒いサングラス。上は紫のシャツに白のジャケットはひし形で金色の装飾がいくつも点在。下は銀のジーンズで目がチカチカする。


カルト:今日もいつもの奴らに恐怖を与えてやろうと思ったところにテメェらが現れ、視線を根こそぎ奪い取ってったわけだ。


A:それで?


 まともに相手するのも馬鹿らしくなってくる。


カルト:二度と我が物顔で歩けねぇようにここで潰してやる。


 デビルリーダーが一歩距離を詰め、それに次いで後ろの取り巻きも同じく距離を詰める。


ルナ:あなた方はこの人を知らないの?


カルト:はぁー!?そんな印象に残らねえような地味な奴のことなんかいちいち覚えてられっかよ。


ルナ:そう


 確かに俺は見た目重視ではなく効果重視で装備を整えている。それも現在はどこにでもありそうな青い服に紺色のズボン、浅めの茶色いブーツ。背中には鉄の剣を備え頭装備はつけていない。この服装で覚えろという方が無理だろう。


ルナ:エース、あなたがわざわざ手を下すまでもない。


 そう言うと彼女は一歩前へ出た。


A:いや、ここは俺にやらせてくれ。こいつらにはこの世界の厳しさってものを教えてやらなくちゃいけないからな。


 画面の前で邪悪な笑みを浮かべる。

 やれやれ、まさか復帰戦がプレイヤー相手だとは予想外だったが、まあいい。手直しには丁度いいか……いや、どうだろうな。


カルト:どっちからでも変わんねえよ。テメェら二人ともここで御陀仏なんだからな!


ルナ:確かに結果は変わらないね。あなた方がゲームオーバーになるという意味で。


カルト:なんだと!


 怒気を荒らげる男を一瞥し、ルナの前に身体を移動させる。


A:さてどう処理してやろうか。ただ殺すのも面白くないしな。初めの街に帰してやろうか?いや、だが鏡で戻って来れるか……なら深淵の洞窟に飛ばしてやればそうそう戻ってこれないか……拘束状態にして継続ダメージで死にゆく様眺めるのもなかなか面白そうだ。


 微笑を口元に浮かべながらあらゆる殺害方法を上げ連ねていく。


カルト:テメェェェ!さっきから聞いていれば……いいだろう、まずはテメェから消してやるよ!


A:ま、好きにしな……って言っても無理だと思うが。


カルト:オメェらやっちまえ!


 お前じゃないのかよ、と思いながら走り迫ってくる取り巻きを眺める。スキル『観察(Lv5)』を発動。観察は五段階に別れレベルが五の場合、対象のレベルやHPや攻撃力などの能力値の他、習得しているスキルや装備している武器防具、更には持っているアイテムまでも調べることができる。

 実際それらの情報を一度に得たところで普通ならば一部しか頭に入らないため、見る情報を制限し必要なものだけを表示することができる。だが俺の場合、システム上表示される情報は全て必要なものだと考え、敢えて制限をかけずに相手の行動をあらゆる視点から予測し全ての可能性に対応できる体制を取る。

 とはいえそれは相手が強敵であればの話。現在迫っているのはただの雑魚であり危機でも何でもない。

 瞬時にそう判断した俺は汚物でも見るような目で一瞥をくれると、右手を前に突き出し親指と中指で指を鳴らした。刹那、破裂音と共に空気が振動。衝撃波となって迫る男達を襲う。取り巻き共は一度だけ顔を歪ませたかと思うと次の瞬間には四人の身体がカルトの後方、回廊の壁面に叩きつけられていた。

 アビリティ『エアショック』。指を鳴らすコマンドを実行すると発動する、空気を振動させ衝撃波で複数の対象にダメージを与えるスキルで攻撃力と素早さによって威力が決まる。

 数秒の沈黙。残った男は口を半開きしただただ唖然としている。俺はゆっくり右手を戻すと口を開いた。


A:さ、どうする?

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