魔法少女があらわれた!
二時間目は先生が不在だったため自習になっていたらしい。さすが加護氏、やってくれる。
あの後委員長氏とACとの話し合いの結果、放課後に部室で集まって詳細を話すことに決めた。昼休みにしなかったのは、委員長氏が生徒会に呼ばれているらしいからだ。俺も用事があるためその方が助かる。
そして三、四時間目を適当にゲームをして過ごし現在は昼休み。
コンビニで買った菓子パンを咀嚼しながら教室を見回す。今日来たばかりの金髪お嬢様は、既に近くの女子と打ち解けて共に昼食を食べている。
「さてと、そろそろ行くか」
最後のひと切れを口の中に詰め込むと、ゆっくりと立ち上がり今日二度目の屋上へ向かった。
屋上へと続く階段を上がり戸を開く。本日二つ目のクエストを達成するため、俺を呼び出した当人を探す。一つの人影。その後ろ姿に声をかける。
「どうやら俺を呼んだのはあんたで間違えないようだな」
そこには魔法少女が居た。鍔の広い黒の尖り帽子に身体を覆う黒のローブ。俺は何者なのかを探るように言葉を重ねる。
「TOに出現するオピニンクスは体がライオンで頭と翼が鷲で成り立っている魔物。ゲーム内ではあらゆるレベルのオピニンクスが存在し、十二や五〇といった低いものから一五四三や三七二二などの高いものまで幅広く存在する。基本的にはどのオピニンクスも洞窟や森などの暗いダンジョンにフロアボスとして出現するが、中でも例外なのが五二三だ」
未だ後ろ向きのまま正体を明かそうとしない魔法少女に少々苛立ちを覚えながら、俺は説明を続ける。
「数いる中でも五二三だけは出現場所が例外で、そいつはイシュラの塔の最上階ーー即ち屋上にいるのだ。あんたからの招待状の文面から場所が屋上だと特定できる」
俺は人差し指と中指を立て淡々と続ける。
「二つ目の暗号、メリアの時についてだがこれは先程の説明より簡単で、TOを何日かプレイしていれば自ずと解るようになる。逆に言えばこれが理解できていないと円滑で快適なゲームライフを送れない。時間を表す単語であるメリアというのは正午のことだ。これで時間も割り出せる」
これで俺の解説は終了。TOをやりこんだ俺にとっては大型ダンジョンをクリアするよりも簡単だ。
「さすがだね」
少女は一言呟くとようやくこちらに身体を向けた。
「あんたは……」
聞いたことのある声で誰か判断出来なかったが、振り向いた彼女には見覚えがあった。
魔法少女のコスプレをしているがオーダーメイドなのかぴったりと本人のサイズにあっており、露出が少なく唯一色が白く整った顔立ちだけが見えている。背が低く可愛らしい顔と相まってコスプレ衣装がとてもよく映え、また似合っていた。
上から下までをじっくりと数秒眺め、彼女の名を呼んだ。
「……日置渚夏」
不動の無口少女ーー日置渚夏にコンタクトされるとは少々意外だっと。
「あなたがシークレットコードね。保健室での独り言、聞いてた」
無表情であるため何を考えているのかさっぱり解らないが、コンタクトを取ってきたということは俺に何か用があるのだろう。
「まさか聞かれてるとは思わなかったな」
コスプレをしているためその素質があると思うが、TOプレイヤーという事実が勧誘を躊躇われた。
「それで?用があるんだろ?」
用件を促し主導権を握ろうとする。
「簡潔に言う。『あの』世界に、テオゴニアーオンラインに戻ってきてほしい」
「断る」
答えなど始めから決まっている。
「何故?」
妙な輝きを纏った双眸から俺へと真っ直ぐな視線が注がれる。
「俺はもう二度とあそこには戻らないと決めたんだ」
この意思を曲げる気はない。
「そう。なら、仕方ない」
諦めたか。ゲーマーとしても大事な資質である退き際は弁えているようだな。
「エクスカリバーが手に入るとしても?」
なに?エクスカリバーだと!?逃走するどころか必殺技を放ってきた無表情少女はただ俺を見つめるだけだ。
「伝説の武器の一つであるエクスカリバー。あれは過去に一度だけあったイベントの報酬だったはずだ。そのエクスカリバーもトップクラスギルド『白龍円舞団』のリーダーが装備したままアカウントを間違って消したせいで消滅したって話じゃなかったか?」
「そう。自分もそう聞いていた。けれど、この間新しいイベントが発表された」
新しいイベント?そんな楽しそうなものにゲーマーとして血が騒ぐ。
「それはいったいどんなイベントだ。チームかソロか?はたまた……」
「ペア」
俺が興奮気味に頭の奥底にしまい込んでいた引き出しを開けながら考えていると、なかなか出てこなかった単語が魔法少女の口から発された。
「って、ペア?」
「そう、ペア」
予想外も予想外。何故ならTOのイベントは基本的にソロかチームのどちらかで行うものが多い。それに今回はエクスカリバーという普通では手に入らない激レアの最強武器が報酬だ。ソロならそのまま装備すればいいし、チームならリーダーか剣使いが装備するのが定番である。にもかかわらず、今回はペアだというのか何か裏がありそうだが、それを混みでも……。
「面白そうじゃないか!」
禁ネトゲをここ数年間していたが、どうやら限界らしい。俺の意思もエクスカリバーの前では大したことなかったようだ。
それでも俺は忘れてはいけない。たった一人の少年の未来を消してしまった“あの”事件だけは……。
「なら決まり。自分のパートナーをお願いする」
「期待してるぜ魔法少女さんよ」
こうして俺と日置は一時的にペアを組んだ。




