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分岐

「先ほどの話だけど実はわたし自身解剖記録を見せてもらったわけではないんだよ」


 コーヒーを飲み干したあとの竜華は既にいつもの元天才オーラを周囲に放っていた。


「見せてもらったわけじゃないってことなら、あんたはなんで知ってるんだ?」


「それは以前から何度か事件の解決に協力していたからそれでちょっと教えてもらったんだよ」


 本当にこの人は何者なんだろうか?


「解剖記録がない以上残念ながら死亡推定時刻は不明だ。関係者から情報を引き出すことは出来なかったよ」


「今のあんたなら出来るんじゃないのか?昔と違って表側で有名になってるんだし」


 流石にここまで大物になった厳島龍華いつくしまたつかの申し入れを断ることなんて出来ないだろうと思ったのだが……。


「それは無理だね」


 即答かよ。


「現在のわたしは確かにコネも多くなったし自身の影響力も上がってきたと思うけど、警察の皆さんとは昔ほど関わっていないからね。捜査の協力もしていないから幾人か知り合いが居ても、重要な資料を貸してくれるとは思えないよ」


 そういうことなら解剖記録以外の証拠品を調べることもおそらく難しいだろう。


「証拠に手をつけられないのなら捜査は難しいか……。それであんたが言ってた謎ってのは他にもあるんだろ?」


「そうだね。もう一つの謎っていうのは凶器だ。事故にしろ殺害にしろ人が死ぬ場合は必ず凶器が存在しなければ成立しないんだよ」


「どういうことだ?さっきの話では薬物で殺された可能性が高いって話だったろ?」


「それはあくまで可能性の話さ。わたしが言いたいのはそれを示す証拠がないってことだよ」


 証拠がないって、つまりそれは……。


「解剖した結果からもう一つ聞くことができた情報。記録には毒物の反応は一切なかったそうだよ」


 意味が解らない。なら先ほどの議論には何の意味があったんだ!?毒物の反応がないことを知っていた上でこの女は薬物の可能性が高いと言っていたのか?であれば……。


「あんたはその情報知っていながら薬物で殺されたと思うのなら、何らかの根拠があるはずだよな」


 いつの間にか俺は必死になっていた。目の前にいる元天才ならばこの不可解な事件を解決してくれるのではと、母さんの死の真相を解き明かしてくれるのではないかと。


「何度も言うけれど全て可能性の話なんだ。毒物が凶器である可能性はある。知人に聞いた話では霧散する毒物というものが存在するらしい。すまないけれどこれに関してはまだ情報が少なくてね……どういった物質なのか、本当に存在する物なのかどうかすら分からないあやふやな物なんだよ」


 そんなあるかどうか解らないような物を使ってまで母さんを殺す理由があったのか?この事件に犯人がいるとするならば、未だにどこかでのうのうと余生を過ごしているのだろう。

 そんなことは許されない。俺の柄じゃないのは解っている。こんなことはただゲームだけしたい俺からは決して想像がつかないだろう。それでもこうして掴んだ手掛かりを机上の空論だけに留めるわけにはいかない。


「俺は真相を知りたい。母さんが何故死んだのか、どうしてこんな不可解な事件になったのか俺は――!」


「麟くん!」


 威圧感と警告を孕んだ身を引き裂くような声が俺の発言を制止させた。


「最後までは言うな。わたしにも君の想いは十分伝わってきた」


 その澄み切った声は次第に穏やかになり俺の耳から全身にまで染み込んでいくようにかんじた。


「この件に君は関わらないほうがいい。ゲームをだけしていればいいのが君の生き方だろう? 学校にも通っていることだしせめて卒業はしたほうがいいよ」


「な……ぜ……」


 それだけ言うのが精一杯だった。


「この事件はとても危険な香りがする。わたしでもあの時は解決出来なかった。さっきまでもね、君には少し話すだけで終わりにしようと思っていたんだ。けど君を見て思ったよ。このままこの事件を闇に葬るわけにはいかないとね」


 目の前の女には一切の陰りもなくただ俺の顔を真っ直ぐに見ている。


「だから少しの間だけ待っていてほしい。必ず彼女の事件を解決する。今までのわたしは少し目的を達成して天狗になっていたのかもしれない」


 そう言って元天才は俺から目線を外し窓の向こうーー青く広い大空を見上げる。


「さて、また一つ武勇伝でも作りに行くかな。しばらく留守にするから家のことは頼んだよ」


 どうやら事態は思わぬ方向に動き出したらしい。数秒経ってようやくそれだけ解った。


「お土産はそうだねぇ……白い恋人でも買ってくるさ」


 それじゃ、と言って俺に背を向け去っていく。玄関の戸を開けながら右手をひらひらと振っているがそれに対しては何も返さない。

 やがて戸が閉まり女の足音も遠ざかっていく。

 たった数分で仲良くなれるほど俺は人生経験を積んでいない。けれど最後に一言くらい言わせてほしい。


「ゲームオーバーは許さないからな」

しばらくはシリアス回は来ない予定です

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