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推理

「あんた豆の場所知ってたのか?」


 元天才が入れたブラックコーヒー(当人曰わく――龍華たつかさん特性オリジナル朝のフレッシュブラックコーヒー)を飲みながら、今だけは感謝の念を贈りつつそうたずねる。


「物の場所なんて半日もあれば覚えられるよ。ま、今度時間があればわたしの記憶力に関する武勇伝を語ってあげてもいいかな」


 女は得意げに虚空へ向かって話す。誰と話してるんだ?


「ともかくだ。今はそれより大事なことを話さないといけないからね」


 そう前置きして元天才は口を開く。


「二〇〇五年一月十四日、今から八年程前の雪降り積もる北の大地北海道にて、彼女は謎の死を遂げた」


「謎の死?」


 女の顔は俺が先ほど健康診断の結果表が本物であることを証明しようとした時よりも真剣だ。


「そう。彼女は雪に埋もれる形で変死体として発見された」


 変死体ってことは犯罪性は否定出来なかったってことか?つまり母さんの遺体は……。


「解剖は?」


「勿論したよ。予算がつかないとかで出来ないなんて言ってたからその分はわたしがポケットマネーで払ってあげたけど」


 予算つかないもの何であんた払えるんだよ。当時まだ学生だろ、どこから出てきたんだその金?しかもポケットマネーって……。


「あんた既にその時から親父や母さんと関わりがあったのか?」


「ご両人共面識はあったよ。まあその話を語るのは別の機会にしよう」


 どういう関係なのかは解らないが、解剖するためのーーおそらく膨大であろう資金を提供するほどの何かが彼女らの間にはあるのだろう。


「さて、本題に戻ろうか。彼女の遺体を解剖した結果……目立った外傷は無く発見された状況から凍死というわけでもない」


「じゃあ何だって言うんだ?」


 外傷はなく凍死でもない。診断表から病気でもなければ、ましてや寿命なんか有り得ない。


「何らかの薬物というのが可能性としては一番大きいね。けどさっきから死因ばかり気にしているようだけど犯人に関してはいいのかい?」


 犯人だって?


「人が死んだってことは自分が望んで死んだか誰かに殺されたか事故で運悪く命を落としたかの三つの可能性に絞られる。今回のケースは雪に埋もれた状態で見つかっていることから自殺は有り得ない。自殺でないとすれば目立った外傷がない限り、事故の可能性もない。とすれば必然的に何者かによっての殺害という線が最も濃厚であるってことさ。分かったかい?」


 大雑把な説明であり、またそれ以外の可能性を示唆することは難くなかったが、それらを差し引いても殺害された可能性が最も高いのは少し考えれば解る。


「理解が早くて助かるよ」


 発言がないことを“疑問なし”と取ったのかそれとも単に頭の中を覗いたのか女は俺に仄かな微笑を向け呟く。


「ただそれらが分かったとしてもまだ多くの謎が残っているのは否めないよね……」


 困ったような顔をしているが本当に困っているかは定かではない。


「多くの謎って……例えば?」


 元天才は両目を閉じて自分でもその事象を再確認するかのようにゆっくりと口を開く。


「まずは……そうだねぇ。何故枕崎静恵はここから遠く離れた北の大地北海道で発見されたのか?」


 それは確かに謎だな。


「その時俺は誘拐されていたから解らないが世間では何かあったのか?ああ……と北海道が舞台のドラマが流行っていたとか」


 自分で言っといて“それはないな”と心の中で否定した。何故なら……。


「その可能性は無いよ。何故なら……よわい七歳の息子が誘拐されてから半年ほど経っているのにも関わらず依然に事態は好転しない状況の中、ちょっと息抜きに……なんて旅行に行く母親はよっぽどの放任主義でない限り有り得ないよ。まあ例え居たとしても枕崎静恵はそんな人ではない。そのことは他でもない君が一番知ってるんじゃないかな?」


「ああ、そうだな」


 なら何故母さんは北海道にいたのか?


「息子のーー君の存在よりも大事な理由があったのかそれとも……殺されてから運ばれたのかということになるね」


「解剖記録に死亡推定時刻は書いてないのか?」


 女は俺から目を逸らし珍しく躊躇うような素振りをしていたが、やがて半ば諦めるように口を開いた。


「……すまないね」


 出てきたのは謝罪の言葉だった。


「何がだ?」


「……わたしはあの時どうにかしてでも事件を解決しなければならなかったはずなのに……静恵さんは凄い人でわたしとっても大きな影響を与えてくれた恩人だったのに……わたしは全力を捜査や推理をしていなかった」


 わたしにはできたはずなのに、と後悔の念で顔を歪ませる。


「あんたのせいじゃないだろ」


 こういう時に月並みの言葉しか出てこない自分に腹が立つ。

 俺はこの女が嫌いだったはずなのにこんな気分になるのは初めてだ。


「ありがとう」


 そう言って厳島龍華はブラックコーヒーを飲み干した。

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