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発現

 突如辺りが眩しいくらいの白い光に包まれた。


「何だ?」


 目の前にいた元天才や椅子やテーブルその他身の回りにあった物が白く染まり、すでに姿形を捉えられくなっていた。

 脳がじりじりと焼けるように熱くなっていく。一体この現象は何なんだ?それを確かめたくとも身体は自由を奪われると同時に思考を巡らす脳は熱さを増していくばかりだ。

 熱い熱い熱い熱い熱い。

 生き地獄と呼んでも言い過ぎではないだろう。脳が焼き切れるのではないかと思えるほどの熱さと痛みに思わず頭を抱え込んでその場にうずくまりたくなるが、身体が思うように動かせない現在の状況ではそれもままならない。

 これまで精神的に追い込まれたことは幾度かあったが、こうした身体的ダメージは経験がなかったように思う。できれば人生の中でそういう経験は皆無であってほしかったが、今となっては後の祭りだ。

 全くの無抵抗のまま必死にただこの事態が収束するのをひたすら耐え忍ぶ。早く終わってくれ、と懇願せずにはいられない。

 真っ白な世界はその懇願をも嘲笑うかのように、なおも俺の心と身体を業火の如く蝕んでいく。

 誰か助けてくれ……。誰か……。

 どのくらい時が流れたのか解らない。とても長い時間が経過したような気がするが、もしかしたら全く経過していないのかもしれない。脳にだけ感じていた激痛はいつしか全身へとその猛威を奮っていた。わけが解らない。これは熱さなのか痛みなのか、試練なのか罰なのか無駄な問答ばかりが脳内を駆け巡る。

 熱い熱い熱い。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!

 俺はその全身を襲う激痛に耐え切れずに声にならない悲鳴を上げた。


「――――っ!」


「麟くん!?」


「はっ!?」


 気がつけば見慣れたリビングに椅子とテーブルが鎮座するいつもの何ら変わりない風景だ。

 俺は何をしていた?


「俺は……」


 必至に手掛かりを掴もうとするが……駄目だ靄がかかったように思い出せない。

 酷く嫌な思いをしたような気がしたのだが……。


「大丈夫かい?」


 心配そうに、というよりは怪訝そうな顔をして俺の状態を確認してくる。


「あ、ああ大丈夫だ」


 納得したわけではないだろうが、女はそれ以上聞いてくることはなかった。


「そうかい。じゃ本題に戻ろうか」


 そう促し手元にあった紙を突きつける。


「君がわたしに見せたこの枕崎静恵の健康診断の結果表が本物であるということ証拠を提示してもらいたい」


 答えられない。これが本物だという証明は出来ない。そういう結論だったはずだ。

 なのに……何故だ?俺は確信にも近いくらいの自信を持っている。何故なのかは解らない……けど、他に方法がない以上この直感に賭けるしかない。


「証拠はここにある」


 言って俺はテーブルに置いてあったテレビのリモコンを手にし、電源を入れたのちBDブルーレイディスクを再生する。

 俺の勘が正しければこのディスクに……。


「……なるほどね」


 画面に映し出された映像を目にし、元天才は納得したように一つ頷いた。そこにあったのはーー。


「医師が枕崎静恵に健康診断の結果表を渡している防犯カメラの映像だ。日付が合致している上に映像内の結果表は今ここにあるものと同一のものだ。これなら偽物である筈がない。この結果表は本物だ」


 まるで全て知っているかのように言葉が口をついて出る。


「……凄いね」


 目の前の女から感嘆の言葉が漏れる。


「素直に感心したよ。まるで思考を読まれ、事前に対策されてしまったような錯覚さえしてしまうな」


 何故BDがセットされているのか何故俺はそのことを説明できたのかなど状況はあまり解らないが、なんとか厳島龍華を納得させることができたらしい。

 ふう、と一息ついて女は再び口を開く。


「今の証明が出来なかった場合適当にはぐらかすつもりだったけど、今の君になら私の知っている範囲でなら本当のことを教えてあげよう」


 テレビの映像を消し、気になったことを聞いてみる。


「随分あっさりと認めるんだな。正直もっとーー例えば……その映像は捏造なんじゃないかとか言ってくると思ったんだが」


 訝しげに元天才へ視線を向ける。


「そうだねぇ……確かに突ける隙は本気で挑む場合にはのがさずにとことん突いていくのがわたしのスタイルなんだけど……」


 なら今のは本気じゃなかったってことなのか?


「そういう訳じゃあないさ。ただね……君がそこまでイキイキしているのを久しぶりに見られたから嬉しくなっちゃってね。そのくらいの想いがあるなら話してもいいかなってさ」


 釈然としないがこの発言は事実なのだろう。なんとなく解ってしまうのが困る。


「とりあえず一旦空気を入れ換えようか。君もあまり無理をしないほうがいいよ。何をしたのかはわからないけど、疲労が目に見えている。わたしがコーヒーを入れてあげよう」


 ブラックでいいかい? と聞いてきた時の元天才は一瞬だけ厳島竜華ではなく、枕崎龍華でも違和感がないのかもしれないと思った。

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