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元天才への宣戦布告

 ドヤ顔で聞いてくるその顔を踏み潰したいが、それは無理だろう。それと自己紹介が長過ぎる。


「そうかな? 短めに纏めたつもりなんだけど?」


 俺は自己紹介の間に用意していたカップ麺を急いで腹に入れる。理由は無論、一刻も早くこの女の傍から離れるためだ。


「そんなに嫌わなくてもいいじゃないか?」


 この女、厳島龍華は俺の二人目(・・・)の母親である。

 俺が小学三年生の頃ある誘拐事件に巻き込まれていた。その間に母親は死んでしまったのだ。詳しい死因は聞かされていない。


「ミサイルが落ちてきた後どうなったか聞かないのかい?」


 そんなことはどうでもいい。


「全くつれないなあ。まあいいよ、勝手に続けるから。ミサイルが降ってきた後だけど、流石のわたしでも核ミサイルを食らって生きていられるほど強くはないさ。ならどのように生き残ったか?答えは簡単だ。そのミサイルがうち上がってから落ちてくるまで、優に五分の時間があったんだ。それだけの猶予があれば逃げるのも簡単だよね。まあでも、ただ逃げるだけじゃミサイルの爆風によって身体がバラバラになっちゃうから、それ以外の手段を取らなくちゃいけない。そういう意味ではここは十分逃げれる場所だと言えるね。なんたって島なんだから、海の中に潜り込んだらこっちのもんさ」


 別に聞き耳を立てていたわけではないが、そこから話が続かないことに違和感を抱いた。まさか、これで終わりなのか?


「終わりだよ。この話はここで終わるんだ」


 横目で女の顔を盗み見ると本当にそれ以上話すことはないらしい。少なくとも気分で中断したわけではないことは窺い知れる。

 まあいい。話が終わったのなら好都合だ。一人でカップ麺早食い大会でもやっているかのような早さでそれを平らげ、そこそこ腹が満たされた俺は、女に目をくれずにその場を後にするべく廊下に続く扉へ向かった。


「何か聞きたいことがあるんじゃないのかい?わたしもあと何回ここに来れるかわからないし、聞けるときに聞いておいた方がいいよ」


 は?今なんて言った?


「無いのならいいけどね」


 女は俺から視線を外し、話は終わりとばかりに台所で食器の洗浄を始めた。

 気に食わない。いつもいつも人の思考を読むだけ読んでおいて、自分が他人にどう思われているかなんて関係ないのか俺の心情を掻き乱し、あいつに全て導かれてるような気分さえしてくる。


 先ほど厳島竜華は「あと何回ここに来れるかわからない」と言っていた。つまりそれはこの家に訪れることができなくなる事態がこの先この女に待っているということなのか?

 なら天才と呼ばれた女、厳島竜華から引き出させるだけの情報を得ておいた方が、今後の俺の方向性も決めやすくなるか。


 ここからは義理の息子の枕崎麟としてではなく、ロールプレイングゲーマー“シークレットコード”の枕崎麟として対峙させてもらう。口元に不気味な笑みをたたえ策を実行する。


「厳島竜華! あんたに……聞きたいことがある!」




 思えばこれもこの女の予想通りだったのかもしれない。それならそれで、ここからその思考を乱し狂わせればいいだけのことだ。一度だけでも泡を吹かせてやるよ。


「それで聞きたいことって何だい?」


 余裕の笑みと思考を探ろうとする瞳を同居させたような表情で女は尋ねる。その笑顔を今崩してやるよ元天才。もはや一体何が重点に置かれているのか自分でも解らなくなってきた。


「まあ、慌てる必要はない」

「わたしは至って冷静だけどね」


 そう前置きし話を始める。茶々を入れる元天才に対してツッコミをくれてやる気などさらさらない。


「まずはあんたから話を聞く前に俺の話を聞いてもらう」


 “普段の自分を演じる”かのようにニタニタと口だけを歪め目には一切の感情を込めないよう努める。


「ほう」


 女は全てを把握しているのか「それじゃあお手並み拝見といこうかな」というような顔で俺に対して微笑を向ける。


「そうだな。それじゃまずは俺の自己紹介から始めるか」


 ニタリと俺は一層不気味な笑みを深めた。

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