衝撃!それは真実か?②
俺が通っている学校、下司高等学校は服装の自由が認めらている。だが制服が存在しないわけではない。更に言えばここの制服のデザインが男女ともに人気が高いため、服装が自由であるにも関わらずわざわざ制服を買って登校する生徒は全校で半数を占めている状況だ。
俺が実験中に考えていたのは先ほどの白馬についてだ。正直興味がないからゲームをしたいのはやまやまだが、さすがにいくつかの班に別れて行う活動だけに一人だけゲームをしているとなれば、他の連中に何を言われるかわかったものではない。
という理由で白馬について思考を巡らせていた。
王子のような服装はまだいいとしても白馬はおかしいだろ。それに今更になって王子の正体は誰だったのか気になってきた。とはいえ誰かに聞いてまで知りたいというわけではなかったため、結局それ以上は思考をストップせざるを得なかった。
ふと視線を実験台に置いてあるガラス器具の向こう側へ向ける。視線が重なる、そこに居るのは一切の感情が読み取れない無表情少女。彼女は日置渚夏という名でありながら『夏』のイメージからはほど遠い気がした。
向こう側の相手は視線を反らすことなく俺を見つめ続けてくる。自分から反らすのはなんだか負けを認めるような気がして、その視線に俺は訝しげにジト目で応じた。
数分間による熱い戦いは思わぬところからの妨害で強制終了となった。
「またあなたは何をしてるの!」
横から大声。
「端的に言えば、何もしていない」
ドヤ顔で言ってみた。
「しなさいよ!」
「何故?」
「今は授業中で、実験をするから班で協力して準備をしないといけないからよ!」
授業中だから静かにしろ、と言おうか迷ったが、すぐに「あなたがそうさせてるんでしょ!」と返されるような気がしたので、その言葉を飲み込んだ。
じゃあ向かいに座ってるやつはどうなんだ? と思い先ほどまで熱い戦いを繰り広げていた相手をチラ見するが、委員長氏は彼女のことはどうでもいいらしく見向きもしなかった。
「……わかったよ」
日置も置物の如く鎮座しており手伝う気は毛頭ないらしいし、理科の実験をするという時点で俺も半ば諦めていた。
「初めからそうすればいいのよ」
委員長氏はそう言うと俺に背を向け、先生の元へ向かっていった。
俺は席を立ち、まだ用意していない実験器具を棚から取りだして机に置いた。
なんとなく器具を配置しながら微動だにしない無表情娘に意地悪気味に話しかける。
「委員長氏に注意されないなんて随分いい御身分だな」
返事は期待してなかった。こいつならこの程度の雑談など軽く流すだろうと思ったが……。
「彼女は私のことなんて気にしていない」
「えっ?」
一瞬耳を疑う。
「どういう――」
ことだ?と続ける前に当人が戻ってくる。
先ほどのように何か言われるのも面倒なため、黙って黒板側に体を向ける。
先生はこれから行う実験の手順についての説明を始めた。途中まで真面目に聞いていた俺だったが、やはり興味のないことから逃亡を謀るように別のことを考える。
前の授業でやっていたゲームは『ソウルディスティニー〜ヴァルフェアの記憶〜』というRPGで十二年前に発売されたSOUL・DESTINYのリメイク版だ。略称としてはソウディス又はSDと呼ばれ俺が初めてプレイしたRPGであり、世界観や物語、ゲーム性などに感銘を受け俺の中では最も点数の高いゲームだ。 十二年前と言えば俺がまだ5歳のガキだった頃だが、このゲームとの出会いは七歳のときだ。
小学一年生の誕生日に父親からもらったプレゼントが生まれて初めてプレイしたゲームだ。ハードはファミリーステーション(FS)――株式会社CLEARが発売した日本で二つ目の据え置き型ゲーム機だ。
その頃のゲームは画面に表示される文字の大体が平仮名や片仮名だけで、漢字を使われることが少なかったため当時小学生だった俺でも読むことができた。
だが実際のところ最初やったとき物語についてはあまりわからなかった。ただ単にレベル上げやミニゲームを楽しんでいただけだった。
俺は他のゲームもやりたかったが父親は誕生日以降ゲームを買ってくることはなかった。
結局ソウルディスティニーをプレイするしかなかった。
俺は繰り返しソウルディスティニーをプレイした。ラスボスを倒したら新しいデータで最初から始める。ラスボスとバトルするまでに、仲間にできるキャラのレベルをMAX99まで上げ、全てのミニゲームをクリア、入手できる武器・防具・アイテムのコンプリート、全サブイベントの攻略、ある条件を満たすことによって覚えられる秘技の習得などを延々と繰り返し続けた。 何十、何百時間と同じことをただひたすら繰り返していたが、俺はその過程がとても楽しかったことを覚えている。
途中からキャラクターのイベント時のセリフや町の人の何気ないセリフなどもノートに記入するようになった。
そうしていく内に今まで幾度もなんとなくやっていた物語をようやく理解できるようになったのが、プレイし始めて10ヶ月ほど経ったころだった。
その頃から俺はそのゲーム――ソウルディスティニーを神ゲーに認定した。
過去を振り返っていまところでいきなり左耳に痛みが走る。非常に気分が悪い。
「あなたまた変なこと考えてないでしょうね」
「まずはその手を放してくれないか?」
委員長氏は摘まんでいた俺の耳を放した。
「今から実験やるから手順通りにお願い。まさか聞いてない、なんてことはないわよね」
「最初から説明してくれないか?」