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天才と呼ばれた女

この辺りからシリアスも入ってきます。

 次の日の日曜日は昼までの半日をベッドの中で過ごしていた。昨日のメイド喫茶『まゆうかふぇ』での委員長氏とのやり取りを思い出していた。


「はぁ〜〜〜〜〜〜」


 思い出すだけでため息が出てくる。あいつの正体がバレないようにしていたのに、何故あんな展開になった。


 時刻は正午。普段であればとっくに身支度を終えゲームを始めている頃だが、ベッドから出ない理由はもう一つあった。

 階下のリビングの方からいい匂いが漂ってくる。むかつくほどいい匂いだ。料理スキルをどこまで上げれば部屋に匂いを紛れ込ませられるのか、不思議で仕方がない。

 基本的にこの家に居るのは俺だけだ。だが極々稀にもう一人増えるときがある。


「"あの女"が来てるのか」


 そう呟くまでもなくわかっていたことだったが、声に出すことで改めて現在の状況を実感した。

 いつまでもこうしているわけにもいかない。俺はノロノロとベッドから這い出ると、普段着に着替えリビングへ向かった。

 警戒するように扉を開けると無駄に広いリビングの向こう、一通りの器具が揃った立派なシステムキッチンの前にスープの味見をしている女が居た。


「おはよう!今日は随分と遅かったね」


 いつもの俺を知っているかのような話しぶりとニタニタとした屈託のない笑みが気にくわない。


「何しに来た」

「おやおや、その言い方じゃまるでわたしがここの住人ではないみたいじゃないか?」

「実際そうだろ」

「戸籍上わたしは君の母親だ。ここに居るのはなんらおかしい事ではないよ」

「あんたは俺の母親じゃない」

「でもね、君のお父さんは認めたんだよ、わたしが妻であることを。これだけは曲げようのない事実だ」


 その女は朗らかに笑っている。舌打ちしそうになるのをなんとか堪えるが、その衝動をどこにぶつける訳にもいかず右の拳を握りしめた。

 厳島龍華(いつくしまたつか)二十二歳。学生時代は何一つ輝かしい賞や成績がなかったにもかかわらず、高校を卒業した後僅か一ヶ月で会社を設立。どういった手法を使ったのかは解らないが、手始めにいくつかの中小企業と提携し順調に資本を増やすことに成功。その後他の企業を買収や合併により規模を拡大させ、更に大手企業の買収に乗り出し今では世界と肩を並べるほどの大企業へと成長した。


 元々何の会社だったのか解らないが、現在は電化製品や衣類、食品などなどあらゆるジャンルに手を広げている。


「リンくん、それではわたしの紹介になっていないよ」

「人の頭の中を覗くな」


 これだから天才は嫌いだ。


「天才なんて昔の話だよ。まあいい、君に初めて会ったとき一応自己紹介したはずだけど、不十分だったかな?」

「あんたについて知りたいことなんて何もない」

「まあそう言わないで少しだけ付き合ってくれよ。プロフィールを語るのにそう時間はかからないさ」


 女はそう言ってリビングを見回し何かを探し始めた。カメラなんか付いてないぞ。


「敏腕プロデューサーならどこにカメラを付けるのかね」


 そんなことは知らん。


「まあ、この辺りかな?」


 やがて女は動きを止め中空の一点を見つめた。


「それじゃ自己紹介を始めようかな。わたしの名前は厳島龍華、厳島神社とは全く関係ないからその辺の質問は一切受け付けないよ。見た目は……そうだねぇ、黒髪ロングのお姉さんタイプって感じかな?まあその辺はぼかして説明したほうが、想像力豊かな思春期の少年たちにとっても妄想のしがいがあるってもんだよね。趣味は酒とギャンブルと格闘技と侵略、特技は買収と断罪。最近のオモシロエピソードとしては……ヨーロッパのとある島に行ったときにさ、たまたま軍事施設的なところを見つけたのよ。何かなぁ?と思って近づいてみたら何処の国のものかわからない言語で書かれてたわけ。それで考えても読めるわけでもないから、百聞は一見にしかずとも言うし実際に見たほうが分かるよねってことで、入り口を探したんだよ。施設の周りを見てたらビンゴ、入り口が普通にあったのさ。でも駄目だよね防犯はしっかりしないと。入り口を分かりにくくするとか、鍵をもっと硬くするとか。というわけで鍵のかかった扉を力ずくで開けたあと、堂々と中に入っていったのよ。そこでちょうどばったり従業員っぽい人に会って声を出しそうだったから、手刀を喉に打ち込んで黙らせたのさ。まあその後はできるだけ見つからないように歩きながら、見つかったときは手短に沈黙させての繰り返しで遂に最奥部まで辿り着いたわけよ。そこでわたしは盛大に驚いたの、あくまで外見ではだけど。内心ではちょっと驚いたくらい。んでそこにはね、所謂あれだ……核ミサイル!が鎮座していたんだよ。正直元天才のわたしでも核ミサイルの解体方法は知らなかったから、どうしようかと考えていたらいきなり警報器が鳴り始めてね、びっくりしたよ。いやびっくりしたって言うのは音に驚いただけで、見つかったことにではないよ、バレてるだろうなぁとは思ってたから。わたしもいつまでも煩い音を聴きたくもないから、精神を集中して警報音だけを意識の外に追い出したの。その後だね研究員たちがわらわらと出てきたのは。総勢三〇人は超えてたと思うよ。彼らは各々自慢の武器らしき物を持ってたけど、わたしはそれを持つ手が動き出す前に一番近くにいたやつ二人を容赦なく殴りつけ沈黙させた。それでも彼らは勇敢だった。手足はぶるぶると震えていたものの武器らしき物を手放さずに、しっかり握りしめてわたしに熱い視線を向けてきたんだから。表現がおかしかったかな?まあいいや。研究員だけあってそこそこ頭は回るのか人数の多さを利用してわたしを取り囲んだんだけど、残念ながら彼らのひょろひょろの筋肉じゃ、格闘技が趣味のわたしには攻撃を当てることすら出来ないだろうね。彼らは内緒で核ミサイルを作ってたみたいだし断罪させてもらおうかな?というわけで戦闘シーンは省略。五分後、わたしの回りには円を形成するように研究員の死体の山ができ上がっていた。さてと、と呟いて一番の問題である巨大なミサイルを見上げる。妹なら分かるかも知れないけどわたしにはやっぱり分からない。妹とはあまり仲がよくないため力を借りる気はさらさらない。放って置こうかと考え始めたとき、奥の方に部屋があるのを見つけた。入ってみるとそこは制御室らしくいろいろな装置やらたくさんのモニターがところ狭しと敷き詰められていたのさ。ここまで働かせていなかった頭を回転させる。もちろん物理的にじゃないよ。沢山のボタンが付いている制御盤を覗いたら、モニターに地図が表示されていたんだよ。わたしの推測でこれはミサイルの落下地点だと決めた。推測というか直感だけどね。つまりこの制御盤で落下地点を決められるってことだ。となればやることは一つ。被害の少ない海面に目標を設定して、そこに発射するんだ。わたしはなんとなくで制御盤を操作してどうにか海面に落下するように設定した。躊躇いも間を置くこともなく、発射ボタンを押したのさ。するとだね、面白いことに発射されたミサイルは真上に飛んだあと、どこに移動するわけでもなくそのまま落ちてきたのさ。どうだい面白かっただろ?」

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