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メイドインカフェ④

「まるでデートみたいだな」


 駅から歩き始めて数分、諏訪部とハーフが前を歩き少し後ろに俺がいる。

 今のは前を歩く二人に対しての感想だ。


「それであの時は大変だったんだよぅ。おまわりに追っかけられてさあ」


「そういうのはよくないと思いますわ。でも楽しそうですわね」


「まあ、なんだかんだ言って楽しかったなぁ」


 諏訪部の緊張もほぐれたらしく普通に会話が成立していた。金髪は変人の話を楽しそうに聞いている。彼女は聞き上手なうえに、すぐ諏訪部の緊張を解かしたところを見ると人との接し方が上手いように思う。

 あそこまで上手いと逆に怪しくなってくる。外面でいい顔をするやつほど信用できない。あくまで俺の持論だが。ああいうのとはあまり関わりたくないな。


「それでだな――」


「あ、少々お待ちくださいまし。リンも一緒にお話しなさらない?」


 振り返り俺を見て優しく微笑む。相手はどうしても関わりたいらしい。


「名前で呼ばれるのは好きじゃない」


 せめてもの抵抗を試みる。


「そうですの? では……グアンなんていかがかしら?」


「それはどういう意味なんだ?」


「秘密ですわ」


 聞いたことのない単語だったため意味を聞いてみたが、教える気はないらしい。


「下の名前じゃなければ別に構いやしない」


「それでは改めてよろしくお願いしますわグアン」


「よろしく」


「名前を呼んでくださいまし」


 何故こうもいきなり距離を詰めてくるのだろうか?だがそれでも俺は笑顔の仮面を貼りつけて答える。


「わかった。これからよろしくなAC」


「AC?」


 姶良クレメンティーナからACと名付けてみた。


「…………」


 CMで聞きそうな名前ですわね、とか言われるかと思ったが無言で睨まれるだけだった。


「おいおい二人だけで何盛り上がってるんだよぅ」


「別に盛り上がってはいないよな?」


 ACに同意を求める。


「そうですわ。どこからどう見れば盛り上がってるように見えるんですの?」


「そ、そうか?それなら別にいいんだけどよぅ。……ところでずっと気になってたんだけど、クレミーってどこかいいとこのお嬢様だったりする?」


「あら、わかるんですの?」


「キレイな純白のドレスとか高そうなイヤリングとかしてればそうなんじゃないかなぁ、と思ったんだよぅ」


 それは俺も思っていたが敢えて触れないようにしていた。明確な理由があったわけではないが、ただなんとなく自分のことは話そうとしていなかったから、触れてほしくないのではと思っただけだ。


「わたくしはイタリア人と日本人のハーフなのですけれど、わたくしの家系は向こうではそこそこ名の知れた家柄でしたの」


 そんなことを臆面に出すことなく話していく。


「でした?」


 諏訪部が珍しく鋭い考察力で言葉の端を捉える。本当に空気の読めない奴だ。


「ええ、今は……いろいろありまして向こうには少々居づらい状況なのでございます」


「ごめん、悪いこと聞いたよな」


「いえ、ヨッシーは悪くありませんわ」


 いつの間にかヨッシーって呼ばれてるし。


「それで居づらくなってこっちに来たってこと?」


 その話続けるのかよ。


「そうですわ。日本には今日来たばかりですの」


「住む家は決まってるの?」


「しばらくの間は祖父の家で暮らすことにしてますわ。大きな荷物も既に送ってますので」


「そ、そうなんだぁ」


 決まってないって言ったら絶対「俺の家空いてるから来ても大丈夫だ」とか言う気だったろこいつ。


「お祖父さんの家ってどこなの?」


 なんかもうナンパだな。


「ここから電車で一時間くらいの所にありますわ」


「電車で一時間……」


 その情報だけでどこに家があるかを推察しているのだろう。諏訪部が押し黙ってしまったため仕方なく口を開く。


「あんたスマホを持ってるならナビで目的のメイド喫茶に行けたんじゃないのか?」


「スマホの扱い方がよくわからないですの」


 嘘だ。


「じゃあ何故スマホを持ってるんだ?」


「え? それは……メイドのソノラが今時の若者ならそのくらいできないとダメだって言うのですわ」


 確かにこの女はお嬢様なのだろう。だが先ほどから聞いていれば言葉の端々に違和感を感じる。もう少し攻めてみるか?


「そのメイド――ソノラさんは随分優しいんだな?」


「そんなことはありませんわ」


「そうだろうか? だって将来のあんたを心配しているんだろう?いい人じゃないか?」


「ソノラは確かに優しいのかも知れない、けど……」


 この金髪が日本に来た理由とは違い、今追求しているのはこいつ個人の事情のような気がする。まるで俺と似た仮面を貼りつけているかのように感じた。


「二人とも何してるんだ?」


 反射的に三歩ほど距離を取る。訝しげに見つめてくる諏訪部の視線に焦燥と安堵を覚えながら、逃げるように虚空を見つめる。


「別に何もしておりませんわ」


 立ち直りは彼女の方が早かったようだ。


「さあ、目的地を目指しましょう」


 メイド喫茶のあるであろう方向にビシッと指を突き付ける。


「おう、もうすぐ着くはずだ。行こうクレミー」


「はい」


 結局追い詰め損ねたか。まあどうせ今日だけの関係だし、追い詰める必要なんてないはず。けれど心のどこかでそう思わない自分がいた。

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