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メイドインカフェ③

「メイド喫茶?」


 その画像を注視すること数秒、質問に答えればXDPを返してもらえるという約束すら忘れ、一つの可能性を考えていた。


「あいつなら解るかもしれないな」


「"あいつ"とはどなたでしょうか?」


 無意識に発していた言葉に声が返ってきたことに内心で驚きはしたものの、それを面に出すほど俺は素直じゃない。あいつに連絡を取ろうか考えながら、左手で携帯電話の入っているズボンのポケットをまさぐっていると、遠くから誰かが軽快な足取りで走ってくる音が聞こえた。


「遅くなってワリィ、待った……よ……な?」


 画面のメイド喫茶から視線を外し来訪者の方に目を向けると、俺と金髪少女を交互に見比べる諏訪部の姿がそこにはあった。


 何度か視線を往復させたあと、そいつはキモいくらい俊敏な速さで俺の耳元に近寄り一声。


「誰だよ、この綺麗な子?」


 なんとかドン引きするのを堪え、手短に状況を説明する。


「ここでお前が来るのをゲームをして待ってたら、ちょうどシルバーキューブが三体出てきたところでXDPを奪われたんだ」


 手短に話すつもりだったが、状況を思い出してるうちに怒りがふつふつと再び沸き上がってきた。


「それで質問に答えたら返してやるとか言い出して!」


「と、とりあえず落ち着け」


 ぜぇぜぇ、と荒い呼吸をなんとか整えようとする。


「このスマホに……はぁはぁ、映ってる……メイド喫茶、知ってるかって」


「メイド喫茶?」


 数分前俺が発した言葉と同じことを呟き、白く小さな手に掴まれたスマホを見る。


「わかりますでしょうか?」


 今の俺と変人のやりとりをどう捉えたのかは知らないが、どうやらその事について触れる気はないらしい。


「この喫茶店かぁ、ちょっと待ってね、今思い出すから」


 身体の向きがいつの間にか俺の方ではなく、金髪スマホ少女の方に向いていることに何か言ってやろうかと思ったが、そこはスルー。話し方が普段のよりもしっかりしているのは気のせいではないだろう。今のこいつは目をキラキラと楽しそうに輝かせながら話している。

 いくつかの店名らしき名称を挙げながら一つずつ、これは違うこれは違うと可能性を潰している様子だったが、目を見開かせ不意にその動きが止まった。


「どうした?」


 薄ら笑いで聞いてみる。


「あそこかも知れない」


「どこですか?」


 金髪縦ロール少女もずいずいと諏訪部に寄ってくる。


「まゆうかふぇ」


「随分いろんなメイド喫茶を知ってるんだな。行ったことあるのか?」


 ニヤニヤしながら追求するが予想は外れたらしい。


「あの日から少しずつ調べてたんだよぅ。オレだって行くのは初めてだ」


 そう言ったかと思うとアマチュアメイド喫茶オタクはすぐに金髪……少女に向き直る。


「君はこのメイド喫茶に行きたいんだったよね?」


「はい、そうでございますわ」


「もしよかったら案内しようか?オレ達もこれから行く予定だったから」


「行く場所はまだ決めてなかったは、いっ!!」


 ず、と続ける前にこいつ俺の足を踏みやがった。後で絶対に後悔させてやる。


「よろしいのですか?」


「もちろんだよ」


「それでは、よろしくお願いいたしますわ」


「こちらこそ」


「そういえば、まだ名前を言っておりませんでしたわね」


 彼女は居ずまいを正して告げた。


「わたくしは姶良あいら・C・クレメンティーナですわ」


 他の日本人と何か違うと思ったらハーフだったか。


「お、オレは諏訪部義徳すわべよしのり、よ、よろしく」


 互いに右手を差し出し握り合う。少女が名乗ったとき――ハーフだと解ったときから諏訪部は緊張で身を震わせていた。


「お前ヨシノリっていう名前だったのか?」


「今さら気づいたのかよ」


「あの」


「ん?」


「あなたの名前も教えていただけませんこと?」


 基本的に俺は人に名前を教えたくはないのだが。


「悪いが今は名刺を切らしてるんだ」


「オマエ名刺なんか持ってないだろ」


「じゃあ名前を忘れたってことで」


「ってことで、じゃねぇよ!ちゃんと名乗れ」


「ふふふ、仲がよろしいですのね」


「まさか……」


 仕方なく名乗ることにした。


「俺は枕崎……麟だ」


 名字だけでやめようと思ったが、ヨシノリが引くぐらいの凄い形相で睨んでくるため、後での後悔させるとしてここは従っておいた。


「よろしくお願いいたしますわ」


 諏訪部のとき同様手を差し出してくる。


「よろしく」


 手を握り返す。ふにふにと柔らかな感触が返ってくる。女の手ってこんな柔らかいものだっただろうか?うちにたまに来る"あの女"の手はもう少しゴツゴツしていたような気がする。


「さて自己紹介も終わったことだし」


 これ以上手を握っていたらどうにかなってしまいそうで、動揺を悟られないためにも強引に話題を打ち切った。


「そろそろXDPを返してもらおうか?」


「?」


「あんたが奪ったゲーム機だよ」


「ああ、これですの?」


 左手に持っていたXDPを渡される。


「奪ったなんて失礼ですわね。あなたが気づかないようでしたから強行手段に打って出ただけでございますわ」


 俺は金髪少女に私怨をこめて一瞥すると、途中だったゲームを再開した。


「そ、それじゃイこうか姶良さん」


「クレミーでよろしいですわ」


「そ、そう?じゃあイこうかクレミー」


「はい」


 諏訪部はまだ緊張しているのか話し方がおかしかった。それに引き換え金髪ハーフは余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》といった様子だ。

 俺はシルバーキューブ三体を掃討し一息ついたところでデータを保存、ゲームを終了した。

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