メイドインカフェ②
とはいえそんなすぐに策が考えつくはずもなく、諏訪部もどうでもいいのか放課後になった途端に「明日駅に九時ジャスト集合な!」と謎の言葉を残してそそくさと去っていった。
「明日って……何かあったか?」
部員を勧誘すべく廊下を歩きながら最近の出来事を振り返ってみる。
「宿題を教室に取りに行って、あいつのメイド姿を見て逃げて話して、それから帰るときに……」
その時の記憶がじわじわと蘇ってくる。
「あ!諏訪部とメイド喫茶巡りするって言ったか」
それでこの前委員長氏に話そうと思って屋上に来てもらったんだが……。
「色々あって忘れてたな」
さてどうするか?と言っても委員長氏はもう帰ったみたいだし、あいつの連絡先も知らないからどうしようもないのだが……。
「まあ、なんとかなるか」
やりようはいくらでもある。そう思い俺は帰路についた。
土曜日八時五十九分下司駅、無駄に大きな噴水の周りにあるベンチに座って、ゲームをしながら諏訪部を待つ。
ベンチは三人掛けのものが六つ置かれ、俺の他に黒のスーツでビジネスバッグを膝に抱え誰かと電話しているサラリーマンや小学生くらいの子供を連れ噴水に入ろうとしているのをたしなめる母親、和やかに談話している老夫婦など日常を切り取ったような平和な時間が流れている。
左腕に身につけた腕時計の長針がカチッと音をたて真上を差す。
予定の時間になったが……。
「来ない」
モンスターを倒し終えたところでゲーム画面から目を離し、雑踏の中にあいつの姿を探す。駅前を行き交う人々の間を射抜くように目を凝らす。
「いない」
真剣に探す前になんとなく勘づいてはいた。変態で変人な諏訪部なことだからそれっぽい、というかあいつらしい登場の仕方をするんじゃないか、と思ったのだ。その登場の仕方は思い浮かばないが……。
長針がさらに進んでも現れる様子はない。はなから時間通りに来るとは思ってないし、今日の目的が委員長氏のメイド姿を諏訪部に見られないようにすることのため、別にいつ来ても構いやしない。
変人を探すのをやめゲームを再開する。
今はゴラムの洞窟でレベル上げをしている最中だ。このゴラムの洞窟ではシルバーキューブという宙に浮いた銀色の立方体の姿をしたレアモンスターが一二八分の一の確率で出現する。それほど出現率の低いのはそれに見合うほどの価値があるからだ。
画面にシルバーキューブが一体出現する。俺は手慣れた操作でコマンドを選択していく。初めに行動したのは元盗賊のギリアスだ。装備している装飾――韋駄天の靴の効果により戦闘開始直後に必ず最初に行動できる。元々ギリアスは素早さが高いためわざわざ韋駄天の靴を装備する必要がない、とかほざいているネットの住人がいるが、韋駄天の靴には前述した効果があるが能力値の変化として、他のどんな装備よりも素早さの上昇値が高いのだ。
そのため俺はギリアスに韋駄天の靴を装備させ常に最速で行動できるようにしている。
ギリアスの成功すれば一撃で息の根を止めるスキル――ライフスティールが炸裂。結晶体モンスターシルバーキューブは粉々に砕け霧散した。
戦闘勝利のファンファーレが流れ各々のキャラクターが勝利ポーズを決める。その瞬間戦闘に参加していた四人のキャラクター全員が経験値を大量に獲得しレベルアップした。
そうシルバーキューブの出現率が低い理由というのは他のRPGでもよく見られる経験値稼ぎモンスターであるからなのだ。
「………せん」
レベル一上げるだけが目的ではない。俺はさらにシルバーキューブを狩るためテンションの上がってきた自分を押さえながら、目をギラつかせ操作を始める。
「……ません」
さてもっと狩ってやるからじゃんじゃん出て来いよ。一体と言わず二体でも三体でも……。
「ぐふふふふ……。おっ!!」
「すみません!」
念願のシルバーキューブが三体出現したところで目の前からそれが消えた。
「あれ?」
"それ"というのはモンスターではなく数秒前まで俺が持っていたゲーム機、エックスドライブポータブルだ。
「あれ?ではありませんわよ!」
聞き覚えのない声に顔を上げるとそこには俺のXDPを持った金髪少女立っていた。
誰だ?翠色の瞳、見覚えのない金髪、髪型はいわゆる縦ロールというのだろうか?ツインテールプラス巻き(?)みたいな感じだ。
身長は一七〇センチの俺より少し低いくらいでほっそりとした身体、胸は主張し過ぎない程度、委員長氏がモデル体型なら目の前の少女は女優体型とでも言うのだろうか?全体的にバランスがいいと思った。
そこまで相手を分析したところで現在の状況を確認。結論が出た。
「それを返せ」
「質問に答えていただければすぐに返して差し上げますわ」
「俺に対して取り引きを持ち掛けるとは……だが背に腹はかえられない。聞こう、その質問とやらを」
「ふふ、わかりましたわ。一度しか言いませんので聞き逃さないようにお願いしますわ。それでは言いますわよ」
さあ、何が来る!
「ここへ行きたいのですが、道を教えてくださらない?」
そう問われ見せられた彼女のスマホには一軒のメイド喫茶の画像が表示されていた。




