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白銀の車輪②

 俺のスカイプ名は全く意味の成さない数字の羅列だったし、他の情報は全て非公開にしていた。アリアンロッドはどのように俺を突き止めたのか直接聞いた。答えはたった一言……ハッキングしたから、と言っていた。それから俺のあいつへの印象は"変な奴"から"変人ハッカー"へと変わった。

 その変人ハッカーからの突然のメール。パソコンにではなく携帯にだ。もちろんアリアンにメアドは教えていない。携帯にメールが来るようになってから結構経つ。


 俺はやれやれ、と誰ともなしに呟きメールの文面に目を向ける。

 件名――依頼ダス。

 依頼?アリアンロッドからは以前より度々よく解らない依頼を受けていた。今回もそんなことだろうか?


 『前略……まあそんなものはどうでもいいダス』


 どうでもいいならわざわざ書くな。


 『タイトルには依頼と書いたダスがはっきりくっきりどっきり言わせてもらうダスと前に話した依頼についてダス』


 どっきりというのはよく解らないが、そこはスルーし依頼に注目する。"前に話した依頼"か、忘れていたわけではないが今の俺にはどうしようもないというのが現状だった。


『忘れてないのならいいんダスが、一応念のため万が一に備えておまっさんの耳が詰まるくらいオイラの声を聞かせるダス』


 相変わらず意味が解らない。


 『全身真っ黒のコスプレをした男を探してほしいダス。とにかく見つけたら写真を送ってくれダス。真っ黒なコスプレって言っても様々ダスから写真を見てこっちで判断するダス。そいつはオイラにとってとても重要な人物ダス。今はおまっさんの通っている学校の生徒のはずダスから、なんとしてでも見つけてほしいダス。よろしくお願いするダス』


 いつもよく解らないことばかり言ってるこいつがここまで真面目に依頼してくるのだから、結構大事なことなのだろう。

 期限は設定されていないから気長に探してはみるが、黒い服のコスプレが好きなら自ずとコスプレ同好会に来る可能性はある。学校にそんなやつが居れば会長氏が放って置かないだろうし。まあ、急いでも仕方ないな。

 メールを見ると文章の下に『追伸↓↓』と書いてある。どうやらまだ続きがあるらしい。

 画面を下にスクロールしていくと……あった。


 『追伸:おまっさんがどんな外見をしてるかは知らんダスが、あまりカメラのあるところで目立つようなことはしないほうがいいダスよ。オイラはハッカーダスから』


 メールの本文はそこで終わっている。

 まさか昨日の委員長氏とのやりとりは、コスプレ会長だけではなくこいつにも見られていたのか?"どんな外見をしてるかは知らん"とか言っているがおそらく既に認知されているだろう。


「シークレットコードのリアルが俺だと知ったときはどう思ったんだろうな」


 何気なくそう呟いた瞬間ガタンとこの部屋の扉の方から音がした。誰だ?俺は半ば反射的にベッドから上靴を履くのももどかしくそのまま影を追いかける。何者かが廊下を走る音が聞こえる。

 今の呟きを聞いて反応したのか?どの部分に反応したのか考えられる可能性は……シークレットコード。テオゴニアーオンラインをプレイしていた時の俺の二つ名だ。その名の由来は不明だが、それが俺のことだというのは知っていた。だとすれば逃走者はTOのプレイヤーか。

 保健室を出来る限りの早さで退出する。幸い先生はいなかった。逃走者の姿は既にないが音を聞く限り、まだ走っているようだ。


「あっちか」


 音のする方へダッシュする。だが追いついたとして何を聞く?何故逃げたのかと聞くのか?嘘でも「追いかけてくるから」と言われれば反論のしようがない。だが放って置けば最悪どうなるか解ったものではない。

 足を止めずに動かし続けるが……しまった!少しの間思考を巡らせているうちに、目標の足音が聞こえなくなっていた。


 どうしようもなくなり徐々にスピードを落とし、果てには徒歩になった。思い出したかのように足が悲鳴を上げる。どうやら自分が思っていたよりも全力で走っていたらしい。

 気がつけば生徒玄関まで来ていた。歩きながら息を整えていると、玄関前にいくつかある円形の支柱の一つの傍に携帯をいじっている見知った顔を見つけた。


「よう。誰か待ってるのか?」


「わっ!ちょっと脅かすんじゃないわよ」


 その人物は五時間目に教室で下着姿を見せつけてきた委員長氏だ。先ほどまで、会ったら何も話せないと思っていたはずなのに今は普通に話せていた。

 あの様子もハッカーに見られていたのだろうか?とすればあのタイミングでメールを送ってきたのも計算してのことかも知れない。いや、考えすぎか。

 そのことを頭の隅に押しやり会話を続ける。


「脅かした覚えはないけどな。俺は普通に声をかけただけだが?」


 ニヤニヤしながら委員長氏の顔を覗き込む。対して相手は疑うようなジト目を向けてくる。


「まあ、いいわ」


 いいのか?


「そんなことより……さっきはゴメン、軽率だったわ」


 さっき?俺は何かされただろうか?少し考える。……もしかしていきなり俺がいるところで着替え始めたことだろうか?それなら別にもういいのだが……。


「いきなり……」


 まったく委員長氏も律儀だな。


「だらしない身体見せちゃって、見てられなかったでしょ?」


 ん?何か違うぞ。


「やっぱりダイエットしたほうがいいわよね」


 驚いたことにこいつは異性に下着姿を見られる程度では、羞恥を覚えないらしい。勘違いしてるようだしここは訂正した方がいいか。先ほどの俺とは違う。ふう、と息をついて言葉を発する。


「あんたは今のままでいいと思うぞ」


「え……?」


 あれ?何か間違ったか?


「………」


「………」


 沈黙が空間を支配する。


「あ……えっと……」


 何を話すか考えていると、委員長氏が口を開いた。


「……ありがとう」


 初めて面と向かって感謝された瞬間だった。

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