二/切っても切れないなんとやら
何事にも、終わりがあって始まりがあるように――始まりがあって終わりがあるように。
夏休みが終わって、学校が始まってしまった。
いや、始まってしまったなどと言うと語弊があるかもしれない。僕はどちらかというと学校が好きな人種なのである。
「はぁーあ。例の如く、夏休みはあっという間だったなぁ」
隣でマウンテンバイクを乗らずに押しながら、徒歩の僕に合わせてくれている大志は気だるそうにそう言った。
「まぁ体感時間の問題だろうね。ホラ、眼鏡っ子に一分間ハグしてもらうのと、眼鏡をかけていない子に一分間ハグしてもらうのとじゃあ天と地ほどの差があるだろう? そういう事さ」
「どういう事だよ……」
何故か可哀想なものを見るような眼差しを向けられた。意味がわからない。
彼とは――矛ヶ盾大志とは、女性趣味に関しては話が噛み合わないが、それ以外はまあ、それなりに噛み合ういわゆる悪友だ。
尤も、この悪友呼びは大志の見た目に由来している。人を見かけで判断するのは良くないが、茶髪に染め上がった髪と制服のボタンを上から二つ三つ外したその風貌は、お世辞にも優等生とは言えない。だから、僕とこいつの間柄を誰かに問われると何となく『悪友』と口が勝手に答えてしまうのだ。
本来ならば中学時代からの腐れ縁だとか、あるいは親友と答えたりする事もできるほどの仲なのだけれど……もう癖になってしまったのだろう、僕の口は『悪友』としか紡げない。
「あっ、そうだ」
不意に、大志が何かを思い出したかのような声を上げた。
「公平、お前夏休みの宿題、全部やったか?」
「一応やったけど、写させないぞ」
「良かったー、お前なら全部やってると思ってたぜ。なあ今度メシ奢るから写させてくれよ……って、何でだよッ!?」
おお、ノリツッコミ。この場に月見里がいたらどのような評価を下されていただろうか。
「何でって、夏休みの宿題なんだから夏休みにするのは当たり前だろ。それに自分でやらないと自分の為にならないし」
「ぐッ……出たよ、THE☆正論。そう言われると反論のしようが無いぜ……」
はぁ、と大志はやつれた息を吐いた。それはこっちの台詞だ。ああでも息は台詞じゃないか。
白状すると、宿題を写させる事については全く抵抗は無い。むしろ――、
「オウいいぜ! 好きなだけ写せよこの野郎!」
というフレンドリーな感じで見せてあげてもいいのだが(僕のキャラではないけれど)、しかしそれが大志の為にならないと思っているのは本当だ。だがここで大志が宿題を写せなかった事で彼の成績に響いて留年……なんて事になったら縁が腐り落ちてしまう。
思うに、簡単に宿題を写させるのは『甘さ』で、見せずに自分でやれというのは厳しさという名の『優しさ』なのだ。
僕は単にその二つに板ばさみにされているだけの優柔不断野郎というわけだ。まあ今は心を圧し殺して優しさを優先しているわけだが。
「しゃあねえ、他の奴のを写させてもらう事にするかぁ」
「結局そうなるのかよ」
これじゃあ僕の優しさが無意味じゃないか……。長々と考えた僕の時間と文字数を返せ。
「だってガチで白紙だぜ!? 何もかもが白紙だぜ!? こんなんじゃあ俺の未来も白紙だぜ!?」
「いや別に上手いこと言えてないんだぜ。つーか白紙は無いだろ白紙は。せめてちょろっとは手ぇつけるだろ……」
大体、未来はいつだって白紙だろうに。大志の場合は『お先は真っ暗』と言うべきだな、うん。
そんな他愛の無い話をしている内に、僕達は約一ヶ月ぶりに学校の敷地を跨ごうとしていた。