第三話
「遅くなりました」
「大丈夫。一時間といった長い時間待ってないから」
「そうですか」
時は放課後、瀬南は刹那と一緒に帰るため中庭で待っていた。瀬南の軽い冗談に微笑みを浮かべた刹那は毎日兄の瀬南と一緒に家に帰るのが一日の何よりの楽しみだった。
会話を聞いているとまるでカップルじゃないかと疑う気持ちがあるが、人は見た目で判断してはいけない。
それでも妹と一緒に帰る高校生の兄などそうはいないがこれが二人の習慣である。
「今日挨拶よかったな」
「いえ、自分は書いてある事はただ読んだだけで、お兄様に褒められるような挨拶は・・・・」
「いや、そんな謙遜されても」
苦笑を浮かび上がらせる瀬南。二人は中庭を出ようとすると横から一人の少女が現れた。
まぎれもなく瀬南が入学式に出会った少女-南方凛であった。
「あ、神無月君」
苗字で呼ばれると二人とも反応してしまうが、刹那はあったことがないため瀬南だけが反応した。
しかし瀬南も名前を思い出すのに0.05秒の時間が必要だった。
「えーっと、確か南方凛さん・・・・だよね?」
「ええ、で、そちらが妹の刹那さん?」
凛は刹那に目を向けた。刹那は大抵瀬南に絡んでくる女には冷たい目を向けるが(瀬南がモテる訳じゃない)今回はいつもと同じ目だった事に瀬南はほっと胸をなでおろした。
「はい、神無月刹那とお申します」
深々とお辞儀をする刹那。その作法は凛には真似できないほどだった。
「瀬南に刹那か・・・・・・・ねえ、私の事は凛って呼んでいいわよ」
「分かったわ。そちらも私の事は刹那でいいわ」
瀬南の呼び方に対しては何も言わなかった刹那。危ないオーラを放ってると瀬南は微妙に感じた。
長年の勘か・・・・・そう自分を疑いたかった。
「じゃあ、私はこれで。じゃあね」
手を振り一足先に中庭を出た凛。
「俺達も帰るか」
「はい」
二人は肩を並べて家路へと辿って行った。
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家に着きそれぞれの部屋で部屋着へと着替えた。
一足早く下に降りてソファーに座り、刹那が下りてくるのを待った。
その間、端末のホールドを解除しダウンロードした書籍を読みふけた。
数分後、刹那が部屋に入り瀬南は端末を閉じた。
「お兄様、そろそろ夕食の用意をしてもよろしいですか?」
「もうそんな時間か。そうだな、頼むぞ」
兄からの確認をとり台所に足を踏み入れる刹那。現在の社会では食器を自動的に機械や魔法、料理を自動的に作る機械など普及されているがそれは全員とは限らない。
自らの手で料理を作ったり、皿を洗ったりする人もいる。
刹那は後者である。
瀬南の希望で刹那自らが手がけた料理を食べるのは瀬南の何よりの楽しみでもありまい刹那の癒しの一つである。
言うまでもないがこれはずっと続けていることである。
瀬南は毎日刹那の作った料理に必ず付ける言葉がある。それは・・・・・
「文句なし」
たかがこれだけかと思うが刹那にとって喜びの一種であった。高級レスとたんにでも出せば好評の嵐が来るのは間違いではない。
そんなことを言いつつも刹那は満面の笑みで瀬南が食べたお皿を洗い始めた。