旧条紀香—キュウジョウノリカ― ⑤
三年前。二〇一四年八月。
ニュースを見ていたら、戸田くんがテレビに映し出されていた。彼が殺人事件の容疑者として逮捕されたのだ。自分の目や耳、キャスターが読み上げる原稿内容を疑った。凄惨な事件だった。まず第一に冤罪を考えた。法廷へも出向いた。人生初の傍聴だった。優秀で正義感溢れる検事が強い声で死刑を求刑していた。彼は笑っていた。戸田くんが、まさか。私の人生が段々と壊れ始めているような気がした。いや、既に壊れているのだけれど。
去年、私が戸田くんに連絡をした時には、既に臨床心理士の職からは離れていた。わけのわからない宗教団体に加入していると言った。戸田くんの起こした事件が、戸田くんの人間性と繋がらない。私は、彼がシャバに遺言のように残した『ソリロクイ症候群』を究明することで、その事件の全貌が見えるのではないかと信じた。躍起になっていた。そんな私に神は味方をしてくれた。
その年、私が受け持つゼミナールに、上原麻奈美という女学生が入ってきた。彼女はゼミ終わりに私を呼び出し、自らの抱える特異体質に関しての相談をしてきた。入念に話を聞き込んだ。彼女は、私が調査していた『ソリロクイ症候群』の処方源となる特殊個体『S』だった。
もはや衝動に近い勢いで、私は推敲すら出鱈目に論文を書き上げた。オカルト的なニュアンスであることと、その文章の拙さ故に匿名論文としてネットに落とした。誰かが発見してくれたら、そこから何かへ繋がるかもしれない。そんな思いだけで書き上げたものだった。




