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旧条紀香—キュウジョウノリカ― ②
二十年前。一九九七年八月。
大学教員として学生の講義を受け持つ傍ら、自らの研究内容にまつわる論文作成に励む日々。それは容易ではなく、一人で全てこなすには体力というより精神力との戦いだった。疲労の蓄積が生理不順という形で顕著に現われた。疲弊しきった心。弱った私は、あろう事か助手を務めていた研究室の主任教授に身体と心を許してしまった。年齢差には目を瞑り、何度か食事に行き、身体を交わらせた。交際に発展してすぐ、私のお腹に赤ん坊がいることが判明した。彼はそれを喜び、順序は違えたが私たちは婚約を結んだ。
大学時代からの友人である戸田くんにその旨をメールした。最近、戸田くんの方も多忙を極めており、なかなか会う機会が作れないでいる。仕事に熱中する彼の邪魔にもなりたくない私は、密かに戸田くんの大成と、彼の抱えるクライアントの回復だけを望んでいた。戸田くんからは一言。「おめでとう」と返信が来た。




