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旧条紀香—キュウジョウノリカ― ①
二十三年前。一九九四年三月。
卒業証書をぶら下げた戸田くんが、振り向き様に私へこう言った。
「俺が現場に立って、お前が現場を支援する。旧条、がんばれよ」
戸田くんは、誰よりも人の心を思いやれる人だ。だからこそ、戸田くんが臨床心理士となって、クライアントを支えると決意してくれた時は嬉しかった。
彼の就職先であるクリニックも都内じゃ有名な総合病院で、その臨床技術を持て余すことなく使ってくれたらいいと思った。
「任せてよ」
私にも臨床心理士として現場で働きたい気持ちはあった。けれど、ゼミナールで卒業論文に手を付け始めてから、研究的な領域によりいっそう興味を持ち始めた。戸田くんとは別のアプローチで、クライアントを救いたい。私たちの本質は同じところにある。そう思うと、今日が別れの日になるとはどうにも思えなかった。
桜吹雪が戸田くんを包む。私は彼の後を追い、四年間世話になった学舎を二人で出た。




