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BURLESQUE  作者: 微倫
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詩乃宮結季—シノミヤユウキ― ⑦



 ポストからそれを抜き取り、部屋で開いた。



【結季は殺す。必ず。結季は間違ってる。詩乃宮麻衣】



 僕は怯えた。途端、むせかえるような吐き気に襲われ、トイレに駆け込んで空っぽの胃から胃酸だけを吐いた。誰に話せばいいかわからず、同僚の六丸真緒(ろくまるまお)に連絡をした。


 彼は狼狽する僕の話に耳を傾けてくれた。離柘榴の会が起こす革命に関係はしないが、彼もまた、僕の良き理解者だ。彼は僕の事情も知っている為、姉からの殺害予告に困惑する僕にもすぐに理解が追いついていた。性的少数者であり、僕とまた別の例外。支配することは敵わなかったが、友人として僕とは関わりを持ってくれている。僕の教師としての理想は、全て彼に託していきたい。そんな風に思える相手だ。



 六丸真緒との電話が切れ、次に繋げたのは、離坂(りさか)しえりだ。大人な彼女なら、僕を落ち着かせてくれる気がしたから。彼女に詩乃宮麻衣から手紙が届いた事実を伝える。死んだはずの姉から、殺害予告。さすがの離坂しえりも気が滅入ってしまったのか、電話越しに情けない声を漏らしていた。僕はこう続けた。「君に頼みがある。僕を殺そうとする、詩乃宮麻衣を見つけ出し、殺してくれ」



 その後も同様に、日常で空いたタイミングを見計らって、尾藤唯香(びとうゆいか)宇井渚(ういなぎさ)等にもその旨を伝えた。彼女らは怒りを露骨に露わにし、支配され制御の利かなくなった衝動のまま、詩乃宮麻衣の殺害を僕に誓ってくれた。殺意への誘導が可能であること。それは、革命の一端としてかなり大きな進歩であることに間違いは無かった。






 後日、麻奈美の方から久方ぶりに連絡があった。三回目のコールで応答すると『やっほ、久しぶり。元気してた? 教団は順調かな?』という麻奈美の柔らかい声が響いた。


「まあまあだよ。どうしたの、麻奈美からなんて、珍しい」


『単刀直入に。結季くん、私の知り合い使って、何しようとしてるの』


「彼女らは既に僕の支配下にある。君が協力するというまで、更に一人ずつ落としていくつもりだよ」


『それは知ってる。というか私の人脈が先に底を着くよ、それ。ねえ、別に君が革命を起こす為に作った新興宗教に私の知り合いを勧誘するのはかまわない。君が生きる為に、そう選んだんだから。所詮知人とはいっても、他人だからね。そんなことをやったところで、私が教祖になるつもりはないから。ただ、結季くん、君が今やろうとしてることは間違ってるよ。断言する、間違いだ』


「間違う? 何を?」


『殺し、やらせようとしてるでしょ。悪いことだよ、それ』


「耳に入ってきたんだね。そうだよ。僕の姉が生きている可能性が浮上した。本来なら僕の手で殺さなくちゃいけないけど、それはダメなんだ。僕は最高教祖で、N患者からすれば神様だから。投獄されてしまっては、先生の行動も無駄になる。それにまだ、君も手に入れられていない」


『殺人を頼むなんて、悪役のやることだよ。主人公の君らしくない』


「主人公だって何かを殺めるだろう、今の時代の作品は」


『それでも今の結季くんは、主人公じゃない。ねえ、格好悪いよ。やめなよ』


「煩いね。僕の復讐心は、今、僕を崇拝し愛する彼女たちにも伝達されているんだ。支配される最中で、僕の心と彼女らの心はリンクする。僕を過去に火の海へ沈めようとした女を、信者が許すわけがないんだ。僕は、護られるべき立場なんだ」


『あーあ』感嘆する音が電話越しに鳴った。『寂しいなぁ』


「どうした」


『変わっちゃったね、結季くん。私、君との出逢いにうきうきしてたのにな。楽になれる、楽にしてくれる、楽にしてあげられると思ったのに。私はやっぱりモブだ。主人公の隣にはいれないよ。ヒロインは荷が重い。だから協力もしてあげられない』


「さっきから何を」


『寂しいんだよ。伝わんないかな、この感じ。私ね、最近の結季くんの行動を見てると思うの。こんなことになるなら、あの東京駅が見える屋上で、そのまま一緒にあの時死んじゃえば良かったって。そうすれば、私たち、こんなに苦しまずに済んだのに、ね』



 後味の悪さを残し、麻奈美との電話が終わった。彼女は僕の心を何度も揺らした。記憶を蘇らせたくせに、麻奈美は勝手だ。何も無いワンルームの部屋で、膝を抱えて独り涙を流す。麻奈美に愛想尽かされてしまったことが、ただ苦しかった。理解者が離れていく感覚が、あの時と同じように、僕の孤独を拡張した。



 静けさが蔓延する部屋で、麻奈美が電話を切る前に言った言葉だけを繰り返した。『絶望する君は、魅力的で、女には艶やか過ぎるから』取り返しの付かない所まで来ている事実に目を背けるよう、僕は冷えた床に寝そべり、ありもしない麻奈美との日々を追い耽った。


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