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BURLESQUE  作者: 微倫
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詩乃宮結季—シノミヤユウキ― ⑥



 離柘榴の会創設後、僕は麻奈美への執拗な勧誘を始めた。教団を作り、僕と君が教祖になって世界を変えようと。しかしいつだって麻奈美は無関心だった。僕のことを嫌いだとは言わなかった。しかし、退屈だと言った。そこまでの暇があるわけじゃないよと僕から言い逃れる。



 そんな中、革命の火蓋を、戸田先生は切って落とした。僕は彼に自由な行動を与えた。国民に、もしくは国家や警察組織に何か影響力のあることをして欲しいと。彼がやったのは、猟奇殺人。ソリロクイを女子中学生に発症させて、その映像を撮影。逮捕後に警察組織へそれを届け出ることで、彼らに大きな疑問と謎を埋め込むことに成功した。先生は事件前、一通の手紙を僕へ渡した。








【離柘榴の会 最高教祖 詩乃宮結季様


 私がこれから行うことは、限りなく悪です。

 どんな理由があれど、人を殺めることは悪に違いありません。

 しかし、この悪は、あなたという善をより際立たせる影となるはずです。

 どうか、ご無事で。

 あなたのような心優しい人による革命が、成功することを祈って。

 

 戸田兆冶】







 凄惨な事件を起こした戸田先生の思いを、僕は引き継いだ。彼は牢獄の中で、永遠と僕の革命を楽しみにするはずだ。命まで省みない行動に感謝をし、一刻も早く、上原麻奈美を教祖立てねばという焦る気持ちが僕を急かした。



 麻奈美とは、予定が合えば食事へ行ったり、散歩をした。麻奈美が離柘榴の会への加入に否定的な為、僕から教団の話を持ち出さない限り、麻奈美と過ごす時間は穏やかに、そして優しく流れていった。


「漫画の製作進度はどうかな?」


 日比谷公園を当てもなく歩く。僕より頭一つ分背の低い麻奈美を見る。


「うーん。まあまあかなぁ。一昨日また持ち込んだけど、微妙だった。前よりはキャラクターの魅力が上がったって言ってもらえただけマシかなぁ」


「良かったね。少しずつ、夢に近づいているんだ」


「結季くんのおかげだよ。君ほど漫画的な人間はいないからね。まんま参考にさせてもらってるし、何より君は絵になる男だよ。それだけで価値がある」


「麻奈美だって綺麗だよ」


「へっ。私はそんなんじゃ落ちないよ。S体質だし、泣かされても落ちないけどね」


「こうみえて、世辞と冗談は苦手なんだ、僕。ほら、これ」


 立ち止まり、麻奈美がかけている眼鏡のテンプル部分に軽く触れる。「外してみて」僕が頼むと、麻奈美は「面倒だな」と小言を漏らしながら裸眼を披露してくれた。


 度数の高いレンズなのだろう。眼鏡を外すだけで、瞳の大きさが際立った。美しい目をしている。色を知らない、褪せてもいない瞳。僕が黙って見惚れていると、「いやぁ、照れますなぁ」と顔を逸らして眼鏡をかけ直した。


「考えるんだ、僕」


「何を考えるの?」


「もし、僕がSなんかじゃなければ、今頃麻奈美に恋をして、独占されていただろうなって。でも、それも悪くないんじゃないかなって思う。恋とか愛とか、そういう話はよくわからないけどさ。この先何も変化はいらないから、ただ形状を変えぬまま、ずっと傍に居たいと想える相手がいることって、幸せなんだって、麻奈美のおかげで知れたんだ」


「結季くん」へへっと後ろ髪を掻きながら麻奈美が笑った。「それは、もはやプロポーズってやつだよ。とっておきな。ちゃんと君を好きになってくれる人にさ」


「そういうものなんだね。勉強になるよ」


 大噴水の前にやってきた僕らは、水飛沫の先、電線のない青空を二人並んで見つめる。


「麻奈美は、どうして僕の考えを拒絶するんだ」


「拒絶って。まあ、でも結季くんからしたらそういう気持ちだよね。ごめん。私は君を否定したいわけじゃないよ。ただ、教団の頭になるほど、私は自分にも、君にも惚れていないだけ」


 胸がぎゅっと痛んだ。愛されることが、いつしか当たり前になった僕の価値観を恨む。


「そっか。でも、君は僕の理解者だろう。二人揃えば、世界を救える。このねじ曲がった普通が蔓延する世の中を、変えてやることだってできるんだ」


「漫画の中で十分だよ、私は」


 遠い目をしている。麻奈美が何を見つめているのか、僕にはずっと分からない。


「麻奈美」


「うん?」


「僕は本気なんだ。手段は選ばないとは、以前から伝えてあるよね」


「そうだね。言ってた」


「僕の仲間が、未来と命と名誉、全てを省みない行動を起こした。ならば僕も、なにふりかまっていられない。どうしても君が必要なんだ。君を手に入れる為に、僕は動くよ」


「お好きにどうぞ」


 もっと反応して欲しい。もっと興奮を知りたい。もっと動揺をくれ。麻奈美は僕が欲しがるものを何も与えない。だから求めてしまう。だから君じゃなくちゃダメなんだ。僕は。


「……あんまり大切な人に荒っぽいことはしたくないんだけどね。僕の野心の為だ。周りの人間関係には気を付けた方が良いと、忠告しておくよ。君が思うより僕は狡猾で、荒く、獰猛な人間だと覚えておいてくれ」


「結季くんは、本当に主人公だね。面白いよ。好きだよ、そういうところ」


「暢気言ってなよ。君のおかげで、僕は渇きを思い出したんだ。灼熱の炎に包まれる今、僕を冷やすのは世界が僕を畏れ、姉があの世で過ちを後悔することだ。活力に満ちた僕の復讐心を止めない限り、君は僕から逃げられないと思ってくれ」


「いいよ。ストーカーでも何でも。私、モテるのには慣れっこだからさ」


 麻奈美はいつも軽薄だ。その軽薄さが、僕にはない部分。僕と麻奈美は同じSだが、互い違いに作られている。上手く重なれば、歯車のように回り、革命は更に前進するだろう。





 以来、僕は麻奈美の周辺人物を落としにかかった。人間関係をリサーチし、手当たり次第にソリロクイを処方する。簡単なことではなかった。時間と労力を費やすから、教職で担任を持つのは辞めた。大好きだった生徒との時間すら、手放すのを惜しまない自分に驚いた。


 麻奈美の大学の同級生と、麻奈美がアルバイトをしているファミリーレストランの従業員、麻奈美が行きつけのバーのウエイターと、一人ずつ、短くは無い歳月をかけて着実に落とした。そのほかにも、使えそうな人間は支配し、利用した。僕が昔面倒くさがって切った女性にも連絡をし、離柘榴の会の一員にさせた。


 僕はその都度、人間性をコロコロと偽った。理由は一つ。僕は、麻奈美にだけ本当の自分を見せていたかった。麻奈美だけが、僕の中で特別であることの証明を、回りくどい方法で成し遂げていた。麻奈美が振り向かずとも、僕には彼女だけが、いつも枠の外にいた。





 大きくなる組織、そして野望。麻奈美の勧誘という最大の目的を除けば、僕の計画は順調だった。あの、一通の便箋が僕の元に届くまでは。





【結季は殺す。必ず。結季は間違ってる。  詩乃宮麻衣】




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