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絵崎解一―エサキカイチ― ⑦
夕刻、上奏大学の総務課に立ち寄って、事情を話し、旧条紀香の研究室を案内してもらった。江國さんが先導して、そのドアを開く。多くの文献と、卒業生らしき人物の集合写真に囲まれながら、白衣姿の女性が目に入った。年齢は四十半ばぐらいだろうか。濃い化粧と中分けの黒いロングヘア。花柄のシャツ。旧条紀香。
「初めまして、旧条准教授。警視庁の江國と申します。彼は部下の絵崎です。本日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございます」
「いえいえ。畏まらずに。それで、用件は電話で言っていた通りでしょう」
「はい。尾藤唯香と、上原麻奈美についてを」
「麻奈美ちゃんと、唯香ちゃん。懐かしいわね。でも、二人について訊きたがるってことは、ソリロクイとSについて、警察側が何かを追っていたりするのかしら」
「やはり知っていましたか、旧条准教授」
「勿論よ。ネットに落ちていた匿名論文は読んだかしら」
「はい。『ソリロクイ症候群とその処方源となる特殊個体』ですよね」
「そう。嬉しいわ。誰かの目に留まって、それがオカルトに終わってしまわず、警察が私の元に話を訊きに来てくれるなんて」
「というと、つまり」
「ええ。あの匿名論文を書いたのは、私よ」




