絵崎解一―エサキカイチ― ④
翌日の夕刻。俺は詩乃宮が勤務していた私立相生学園相模原高等学校へ足を運んだ。校門を潜ると、すぐに学園長と主任らしき人物が出迎えに現われた。会談室へ通され、熱い緑茶が提供される。俺はそれに口を付けず、湯飲みの隣に置かれた保管資料に目を通す。
同時刻、江國さんは別件で詩乃宮に関する情報を持つ人間の聴取へと向かった。詩乃宮の写真をインターネット画像検索にかけたところ、偶然、数件のインスタグラムの投稿がヒットした。投稿者である「マリ」という人物にダイレクトメッセージを送り、接触を図る機会を手に入れた。「もしかしたら、この人も離柘榴のメンバーかも」と江國さんは電話越しに意気込んでいた。
「あの……」
一九八八年生まれ。明海大学教育学部教科専門国語コース卒。高等学校教諭一種免許状(国語)・学校図書館司書教諭免許状取得。東京都町田市南成瀬一丁目……この住所は虚偽の記載であることは掴んでいる。それと、釜澤病院通院歴有……。詩乃宮にまつわる資料を眺める俺に、白い髭を生やした学園長が控えめに声をかける。「あのぉ」
「はい。いかがなさいましたか」
「いや、詩乃宮先生は一体何処にいるんでしょうか……」
紙の端を揃え、机にとんとんと叩きつけて束ねる。「電話で申し上げた通り、警察が今、総力を挙げて捜索中です。その為に、捜査協力として詩乃宮結季さんの重要書類等を拝見しに覗っているわけですが」
「ですよね、すみません」気弱な年寄りが謝罪する。その隣で寡黙に俺を睨む主任らしき男も、何か詮索してくる様子はない。勿論、詩乃宮が死んだ事実をここで彼らに伝えることはない。いずれ判明する死だが、今、詩乃宮の絶命を提供したところで、彼らは取り乱すばかりで、有益な情報を提供してくれそうになかった。
「詩乃宮結季さんは、失踪前に変わった様子などはありませんでしたか」
主任と学園長が顔を見合わせる。何も知らないから、どう答えればいいのかわからず、互いに助けを求め合っているのがよくわかった。
「あまりプライベートを見せない人物でしたので……それに、担任を持ってもいなかったもので、生徒との関係もさほど……」
「そうですか。では、詩乃宮結季さんと交流のあった教職員などは、この学校に居られませんかね」
「ああ、一人だけ、付き合いがあった先生が」
「どちらの」
「詩乃宮先生と歳が近く、現在二年三組の担任をしている六丸という者が、一番親しかったと思います」
六丸。ヒットだ。六丸真緒と話す為に、俺はこの場所へ足を運んだといっても過言では無い。防犯カメラがキャッチしていた詩乃宮の映像の隣には、六丸という男が頻繁に映り込んでいた。離柘榴の会合が行われていた町田市への出入りも多く、離柘榴の教徒である可能性が高い。
「本日は」
「出勤しております。呼んで来ましょうか?」
「ぜひ」
捜査協力など、慣れてはいないのだろう。それに、これが何かの事件に紐付いていたとすれば、法人でやっている私立高校には大打撃だ。主任が逃げるように会談室を出て行った。
学園長に再度茶を勧められた。さすがに彼と話すことも無かったので、俺は湯飲みを持って注がれた緑茶を一気に飲み干した。
会談室へ入ってきた六丸は、穏やかな表情で俺に会釈をした後、学園長に深く頭を下げた。一見すると、軽妙洒脱な男だった。今風の丹精な顔立ち。塩顔というのか、吹いたら飛んでいきそうな、線の細い雰囲気がある。
俺はソファから腰を引き剥がして、警察手帳を見せる。「詩乃宮さんの失踪事件を担当しています。絵崎です。お忙しい中、お時間頂きありがとうございます」と誰よりも丁寧に挨拶をした。
「いえいえ。ボクに協力できることがあれば、何でも」
「すみませんが、六丸さんと二人でお話がしたいので、お二方には席を外していただきたいのですが」
「あ、そうですよね。はい、何かあったら、六丸先生の方へお願いします」
学園長たちが退いて、会談室に緊張感を纏った静寂が走る。六丸真緒。生前、詩乃宮結季が親しくしていた同僚兼友人。この高校に在籍している生徒で、宇井渚という十七歳の少女とも余裕があれば接触を図りたい。彼女も、行動範囲から離柘榴の一員であることはほとんど確定している。
「刑事さんと話すのなんて初めてですよ。緊張します」
「かしこまらなくていい」穏やかな顔つきを作り、自然な流れで敬語を外す。「俺の質問に答えてくれたら、それで今日は終わりだ」
「ボクなんかでよければ。期待しているような答えは持ち得ないかもしれませんけど」
「かまわないさ」紺色の背広を羽織った六丸には、何も知らぬような落ち着きを覚える。その半面、一点に俺を見つめる視線は、何一つとして口を割らないと決心しているように見えた。
「持って回った言い方はしない。詩乃宮結季との関係を教えてくれ」
「同僚です」
「それは見れば分かるさ。それ以外は、何か無いか」
「変な質問ですね。それ以外と言われたら、友達、と答えるしかありませんよ」
「最後に連絡を取ったのはいつだ」
「二週間前に、メールをしました」
「どんな内容だ?」
「業務メールですよ。明日、ウチのクラスが四限に資料図書館を使いたいから、他に予約が入っていないか確認して欲しいって内容です。彼、図書室の管理をやっていたので」
「実物が見たい」
「学校用のパソコンでメールしました。見たいなら、職員室に行ってボクのデスクへ行けば確認は可能です」
「プライベート用の連絡先は持っていないのか」
「持っていませんよ。どういう経緯で学園長からボクを紹介されたか知りませんけど、詩乃宮先生と、強いて言うならこの学園内ではボクが一番接点ありってだけです。個人的にラインを交換したりもしていません。確認しますか? ボクの携帯」
「ああ、念のために」六丸のメールやライン、電話履歴をさっと確認したが、こちらが目星をつけているような人物の連絡先は見当たらなかった。「協力ありがとう」
「いえいえ」
詩乃宮は、一筋縄ではいかない男だ。例えどれだけ近い人間であっても、迂闊に連絡先を交換などはしないのかもしれない。そして、一筋縄ではいかないのは、六丸も同じだ。彼は俺に、「強いて言うなら」という言葉を使った。しかし、離柘榴の活動に参加している以上、ただならぬ関係、もしくはソリロクイを発症している可能性が高い。
目の前に座っているのは男だ。ただ、あの匿名論文の中にはこういう記述もあった。「ソリロクイ症候群の発症にはいくつかのルールが存在している。例えば、Sによる処方対象が、異性であることに限定されているといった特徴などだ。こちらに関しては、生物学的な性を意図するというより、発症者の性自認に由来するものである。したがって、特殊個体Sが男性の場合、性自認が女の男性は、ソリロクイ症候群を処方されるリスクがある」。
目に見える性別では判断しない。ここで六丸の性自認が女であれば、ほぼ確実にソリロクイ発症者で間違いないだろう。
とにかく今は、回りくどい質疑応答は不要かも知れない。俺は、六丸が息を吸ったタイミングで重要な問いをぶつける。
「四月七日の午後四時頃、詩乃宮結季と接触を図ったりはしたか?」
「いえ、していません。彼は四月に入った辺りから欠勤気味だったので」
「ちなみに君は何をしていた?」
「ボクですか。ボクは自宅に居ましたね。その日は午前授業だったので、一時には学校を出て、二時頃には既に家で映画を観ていました」
「何の映画だ?」
「タイタニックですよ。三時間あるからかなり気合い入れていたんですけど、あっという間でしたね」
「DVDを借りて観たのか? それともサブスクリプションか?」
「変なこと聞きますね。普通に近所のレンタルビデオショップで借りましたよ」
「そうか。ありがとう」俺の問いに対する遅れがない。事実を述べているだけか、反射的に嘘をつける体質なのか。本当のアリバイか、用意されたアリバイか。「次だ。詩乃宮から、何か宗教の勧誘を受けたことはあるか」
「宗教? ありませんけど」
「そうか」
「彼、宗教とかハマっていたんですか? 何だか意外です」
「離柘榴の会、って聞き覚えはあるか」
「さあ。ありませんね」
「詩乃宮とそういう話になったりしないのか。新宗教に所属する人間は、教徒を増やすために近い人間に声をかけるのが常套手段だと思うが」
「仮にボクと詩乃宮先生が親しかったとしても、彼がボクに全てを打ち明けるとは思いません。ただの同僚ですよ。ボクが何かを噂して、宗教にハマっている教員なんて話が広まったら、職場での居場所がなくなると見越して、話さなかったんじゃないですかね」
目は泳いでいない。覚悟が出来ている。厄介な男だが、検察時代、そう何度もこのような人間からの自供を取ってきた。ここは既に、俺の独壇場である。
「本当に、離柘榴の会という言葉すら、聞いたことはないんだな」
「はい」
「そうか。話し相手が知らないと言い切ったことを尋問し続けるヤクザと俺は違うからな。質問を変えようか。詩乃宮はどんな人間だ?」
「普通でしたよ」
「曖昧な答えだな」
「曖昧な質問だったので」
「それは申し訳ない。普通とは、どういう意味で言っている?」
「意味も何もないですよ。刑事さん、何か勘違いしていませんか。ボクは確かに彼の同僚だけれど、ボクは彼にそこまで興味はありません。失踪していること自体は心配ですけど、それでも夜眠れなくなるぐらい不安に思ったりはしません。結局は職場の人間でしかありませんから」
「優しい顔をして、案外冷たいんだな」
「達観していると言って欲しいですね」
堅く、高い壁だ。そう手玉を隠して戦える相手ではない。ソリロクイには自覚症状がない以上、六丸が今、何を基準にシラをきっているのか判別がつかない。交友の浅さを嘯く必要性は何だ。そもそも、六丸は詩乃宮が死んだことを知っているのだろうか。はたまた、六丸自身が詩乃宮を──。
回答を炙り出すには、情報を小出しにしていくのが一番だ。否認事件から自供を取る時と同じ。全てをぶつけても意味がない。誘い出すのは、証人、被疑者の心の緩みだ。人格攻撃と揶揄されようとかまわない。感情の枠組みの中で、一番制御できないものが怒りだ。哀しみや悦びは偽造し、抑制することができるが、怒りに関しては偽物だとすぐに分かり、抑制は困難に近い。六丸の破顔を壊す為に使うのは、詩乃宮の、死の全貌。ソリロクイを発症しているかも、そこで見極める。
「要するに、詩乃宮とは深い繋がりは無かったと」
「そういうことになりますね」
「なるほどな。こんなこといきなり言い出して悪いが、警察側は、ある程度の詩乃宮の情報を握っている。行方を何処へくらませたのかも、実は目処はついているんだ」
「じゃあ何故、今こんなことを?」
「君の想像の範疇を超えた事態が発生しているんだ。だから俺は彼の情報を集めている。君以外にも、手当たり次第、詩乃宮結季と交流のあった人間に聴取を繰り返している最中だ。職場の親しい同僚は、重要参考人になってくれると思ったんだがな、君は何一つとして知らない。もしくは知らないふりを続けている」
「どんな事件に彼が巻き込まれているのか知りませんけど、彼を調べている最中の刑事さんと、ただの同僚を同じ土俵に上げること自体間違っていますよ。ボクは本当に何も知らないんですから。お力になれなくて、すみません」
「いや、いいんだよ。捜査協力、ありがとう。お礼に、俺が握っている情報を一つだけ教えて帰ることにするよ」
「いいんですか。役立たずのボクなんかに」
「そう悲観するな。言い方がキツくなってしまったのは謝るよ。これはただのお礼だ。近頃テレビで報道されている内容に毛が生えた程度の情報だしな。気にするな。先日、千代田区で起きた車両火災のニュースは見たか?」
「ええ」六丸の視線を追う。揺れはない。「見ましたけど」
「それの被害者が、詩乃宮結季だ」
あえて話の脈絡をなくした。六丸の流暢な語り口を崩すには、案外効果的だと思ったからだ。俺は胸ポケットから、一枚の現像写真を裏向きでテーブルの上に置いた。長方形の白が木目のテーブルに寝そべっている。
「これは?」詩乃宮の死にリアクションはせず、置かれた写真を見て六丸が呟く。
「詩乃宮の遺体写真だ。司法解剖に回された時に撮影した。全身の皮膚が焼け爛れて、原型はかなり崩れてしまっているが、同僚なら本人だとわかるだろう。ほら、ひっくり返して確認してみてくれ」
六丸の指先が写真へと伸びる。ゆっくりと、その指先が微かに震えている。
写真がその指によってひっくり返され、俺の嘘が露わになる。俺は今、詩乃宮の遺体写真など持ち合わせてはいなかった。映っているのは、離柘榴の会のロゴマーク。柘榴の花に、アスモデウスを模した絵が描かれている。胸元に隠仕込んだボイスレコーダーに意識を向ける。
「いきなり冗談やめてくださいよ」胸を撫で下ろし、呼吸を薄く吐く六丸。
「安心したか」
「しましたよ。刑事さん、いきなり嘘をついて何がしたいんですか。それで、詩乃宮先生の焼死体の写真は無いんですか。まさか、亡くなったこと自体が嘘なんですか?」
「いや、嘘じゃない。ただ、君に悲惨な遺体写真を見せたら発狂するんじゃないかって思って、俺の良心が遠慮したんだ」
「余計なお世話ですよ、子どもじゃあるまい」
「ならすまなかったな」俺はフェイクの写真を掴み、胸ポケットにしまう。「しかし、おかしいな。俺は詩乃宮の遺体写真を見せると言ってこのフェイクを出した。それなのに、想像していた回答とは違うものが返ってきたよ」
「想像?」
「フェイクに意識を向けるばかりで、この写真が何を意味するかに、興味すら示さなかったのか? 刑事が持ち歩いている、よく分からないロゴを撮った写真。俺だったら、気になって聞くはずなんだけどな。『なんだこれ』って」
「興味が無いだけですよ」
「見覚えがあったら、興味も沸かないよな。知っているものなら、尚更」
「刑事さん、そういうのやめましょうよ。彼とボクはただの……」
「ただの教祖と教徒ですってか。詩乃宮は狂っていた。このロゴは知っての通りは離柘榴の会のロゴだ。弱小カルト新宗教で、教徒は数名の無名団体。そのほとんどが女性であり、教祖を務めているのが詩乃宮結季。教祖が教徒に数々の淫行……みたいな話は小耳に挟んだな。この学園の生徒の、宇井渚という女にも詩乃宮は手を出している。穏やかじゃない事態だ。教師が生徒に。同じ先生として、ありえないとは思わないか」
「何も別に思いません」
「そうか。教師という同業者にこんな人間が紛れ込んでいたら、俺は嫌だけどな。それでもって、平気な顔で校内をうろちょろしやがるなんて。六丸先生。俺は君の味方だよ。危うくおかしな宗教に完全に巻き込まれてしまうところだっただろう。君の正しさが、彼の勧誘を上手く逃げ切ったんだ。さすがだ。さすが先生だ。君が教徒じゃないと言い切るなら、俺はそれを信じよう。君と詩乃宮は、同じ教師だが本質は違う。あんなイカれた色欲のゴミとは、立つ教壇が違うだろう。ここだけの話、俺は、死んでも同然だと思っている。君もそう思わな……」
「少しは言葉を慎んだらどうですか!」会談室に響く怒声。執拗に六丸の中の詩乃宮を否定し続けることで、それは必然のように溢れだした叫びだった。「いきなり声を荒げてすみません……。ただ、あまり憶測で他人の人格を語るのはよくないと思いまして」
「憶測じゃ無い。俺は刑事だ。捜査線によって出された結果がこれだ」
「捜査の詰めが甘いんじゃないんですかね」
「目の前の捜査協力者が真実を話してくれないもんでね。難航しているんだよ」
六丸がネクタイを完全に緩める。喉仏がぐっと浮き出ている。
「ボクは別に、何も知らないから」
「詩乃宮結季は離柘榴の会という空想の宗教組織を作り、信仰心を働かせた女性達に性的暴行を働き続けた。中には、風俗店で無理矢理働かされた女もいるそうだ」俺の口から次々に垂れ流れるデタラメ。検察庁にいた頃とは違う。今の俺に、やり方を縛る人間と空間は存在しない。「目的は、金だと検討を付けている。洗脳教団なんて古い文化かもしれないが、詩乃宮ほどの美青年だったら、どうにか上手くやるんだろうな」洗脳よりも、複雑な問題に直面していることは伏せる。「おい、君はどうなんだ? どうして詩乃宮なんかに着いていった。弱みを握られたか? 愛する女を教団に寝取られたか? それとも」
「それとも、ボクが彼を愛していた? そう訊きたいんですか」
「話が早くて助かるよ。どうなんだ。時代が時代だ。否定はしないが、それぐらい答えてくれてもいいんじゃないか。隠す必要もない。純粋な感情なら、尚更だ。プライバシーにまつわることは勿論口外はしない。なあ、君は、詩乃宮に惚れていたのか?」
長い間があった。そして、小さな舌打ちを挟んだ六丸が俺に問う。
「……刑事さんは、ボクを重要参考人だと思っていますか。それとも、被疑者?」
「今のところは、二択だ」
「そうですか」黒縁の眼鏡を外し、机上に置いた六丸が、目の中央部を抓んで首を鳴らす。その表情には、数秒前までの緊迫感が抜けきっていた。文字通り降参したような乾いた笑みを浮かべ、骨を緩めて背中を丸めた。
「六丸先生は、アメリカに留学歴もあるようだな。それはアレか? 語学研修の一環──」
「あああ、わかったから。もうやめましょう。お手上げですよ。どうせボクが何かを隠したところで、刑事さんは全部知っているんでしょう」溜息を零し、まいったなと呟く六丸。「さすが、警察です。ボク、こういう事情聴取では何も話さないのが得策だと思っていました。変な疑いを引っかけられないよう、あまりべらべらと喋るもんじゃない、それが一般人として暗黙の了解かと考えていましたけど、違いますね。黙秘すればするほど、怪しまれてしまいそうです。それは嫌ですからね、ボクも。まあ、離柘榴のロゴをいきなり見せるなんて、人間の反射はそこまで上手に動きませんよ。狡いな。刑事さん、ボクは今から本当のことしか言いません。知っていることしか話せません。ただ、これがシノに関する捜査の手助けになるなら、ボクは出し惜しみなく、ここで吐かせていただきます」
気を改めた六丸の顔には、俺に対する敵愾心のようなものがすっかりと消えていた。
「たしかに、ボクは彼に恋をしていました。ボクは性的少数者です。アメリカへ留学したのは語学研修の一環ですが、その時に、LGBTの運動に参加した経験もあります。話の本筋にあった離柘榴という教団の会合にも、何度か足を運びました。場所は町田市です。しかし、ボクは教徒ではありません。内部事情は全く知りません。本当に、離柘榴の会については何も知らないんです。そういう組織があるということ、そこに詩乃宮結季が属しているということ、だけ。ただね、ボクにも一つだけ握っている情報があります。これは限りなく貴重な情報である反面、ボクに疑いがかかりかねない諸刃の剣だったので、言おうか迷っていましたが、ボクはこの情報を渡します。詩乃宮結季を殺した人物についての、情報です」
「なんだ」
六丸は俺を手招きし、顔を近づけた俺の耳元で「詩乃宮麻衣、彼の実姉が、彼を殺しました」と耳打ちしてきたのだった。




