木枯らしだけがその理不尽を知っている
木枯らしが吹く。
私はただ待つ。
あの男は、いつか帰って来る。
理由なんてない。
ただ信じてる。
きっと、必ず、ここに帰って来る。
「……だから帰ってきたろ」
遠くから、声がする。
あの男だ!
私は声のする方へ首を伸ばす。
まだずっと向こうだ、姿は見えない。
駅に着いたくらいだろうか。
木枯らしの音くらいしか聞こえないこの田舎の冬の空気は、遠くの音も明瞭に伝えてくれる。
「……別に実家が嫌だったわけじゃないってば。……いや、だからさ……。もういいよ、帰ったら話すから! 一旦切るよ」
どうやら電話をしながら歩いているようだ。
まだ姿は見えない。
私はさらに首を伸ばして道の向こうを伺った。
「……ごめんごめん。いや、大丈夫だよ」
彼は傍らの誰かに話しかけているようだ。
もう一人の声は、小さくて聞き取れない。
「反対なんてされないよ!」
彼が笑う。
「結婚しろってずっとうるさかったんだからさ。両親も喜んでくれるって」
結婚?
私は首を傾げる。
どういうこと?
道のはるか向こうに、彼の姿が見え始めた。
隣には、小柄な影。女性を伴っているようだ。
「帰って来なかった理由なんて、面倒くさかった以外にないよ」
彼が女に笑いかける。
「……いや、まあ、もうひとつ、理由があるといえばあるんだけどさ」
彼はためらいながら話し始める。
「小さい頃からさ、木枯らしが吹くこの季節になると、道端でじっと立ってる女の人を見るんだ。ただいつもこっちを見ているだけなんだけど、なんだか怖くてさ」
隣の女が何か言う。
「近所の人じゃないよ、都会と違ってこんな田舎だと、顔を知らない人なんて居ないんだ」
「俺のことしか見てないんだよ。友達といても何してても、ずっと俺だけ見てるんだ」
「いやいや、やめてくれよ、都市伝説じゃないんだから。祠を壊したりとかしてないよ」
彼はだんだん近づいてくる。
「ただそんな感じで、就職してから自然と足が遠のいて……」
彼と目が合った。
真っ青になって、足を止める。
女も私に気がついて、目を丸くする。
「ば、化け物!」
叫んだ女を手の一振りで弾き飛ばす。
ただの赤い塊となって、女は地に転がる。
彼の悲鳴が響き渡る。
「な、なんでだよ。なんで俺に付きまとうんだよ!」
「ナンデ?」
私は伸ばした首をことりと傾げる。
「理由なんて、ない」
ただ、信じてた。
また帰って来る。
帰って来たら、もう逃さない。
「そう決めてた、だけ」
絶望に染まる男の前で、私は、耳まで裂けた口で、にたりと笑った。
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なろうラジオ大賞7応募作です。
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