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木枯らしだけがその理不尽を知っている

掲載日:2025/12/01

 木枯らしが吹く。


 私はただ待つ。


 あのひとは、いつか帰って来る。

 理由なんてない。

 ただ信じてる。

 きっと、必ず、ここに帰って来る。


「……だから帰ってきたろ」

 遠くから、声がする。

 あのひとだ!


 私は声のする方へ首を伸ばす。


 まだずっと向こうだ、姿は見えない。


 駅に着いたくらいだろうか。

 木枯らしの音くらいしか聞こえないこの田舎の冬の空気は、遠くの音も明瞭に伝えてくれる。


「……別に実家が嫌だったわけじゃないってば。……いや、だからさ……。もういいよ、帰ったら話すから! 一旦切るよ」


 どうやら電話をしながら歩いているようだ。


 まだ姿は見えない。

 私はさらに首を伸ばして道の向こうを伺った。


「……ごめんごめん。いや、大丈夫だよ」

 彼は傍らの誰かに話しかけているようだ。

 もう一人の声は、小さくて聞き取れない。


「反対なんてされないよ!」

 彼が笑う。

「結婚しろってずっとうるさかったんだからさ。両親も喜んでくれるって」


 結婚?

 私は首を傾げる。


 どういうこと?


 道のはるか向こうに、彼の姿が見え始めた。

 隣には、小柄な影。女性を伴っているようだ。


「帰って来なかった理由なんて、面倒くさかった以外にないよ」

 彼が女に笑いかける。


「……いや、まあ、もうひとつ、理由があるといえばあるんだけどさ」

 彼はためらいながら話し始める。


「小さい頃からさ、木枯らしが吹くこの季節になると、道端でじっと立ってる女の人を見るんだ。ただいつもこっちを見ているだけなんだけど、なんだか怖くてさ」


 隣の女が何か言う。


「近所の人じゃないよ、都会と違ってこんな田舎だと、顔を知らない人なんて居ないんだ」


「俺のことしか見てないんだよ。友達といても何してても、ずっと俺だけ見てるんだ」


「いやいや、やめてくれよ、都市伝説じゃないんだから。祠を壊したりとかしてないよ」


 彼はだんだん近づいてくる。


「ただそんな感じで、就職してから自然と足が遠のいて……」


 彼と目が合った。

 真っ青になって、足を止める。


 女も私に気がついて、目を丸くする。

 

「ば、化け物!」


 叫んだ女を手の一振りで弾き飛ばす。

 ただの赤い塊となって、女は地に転がる。

 彼の悲鳴が響き渡る。


「な、なんでだよ。なんで俺に付きまとうんだよ!」


「ナンデ?」

 私は伸ばした首をことりと傾げる。


「理由なんて、ない」


 ただ、信じてた。

 また帰って来る。

 帰って来たら、もう逃さない。


「そう決めてた、だけ」


 絶望に染まる男の前で、私は、耳まで裂けた口で、にたりと笑った。

読んでいただいてありがとうございます!

なろうラジオ大賞7応募作です。

よろしくお願いします!

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