EP4 『地獄の沙汰も理事官次第』
カツ、カツ、カツ……。
静まり返った廊下に、硬質なヒールの音が響く。
そして──ドン、と重く置かれる電話。
「須崎、香山。理事官室まで」
冷えた声だった。黒崎千花、警察庁理事官。
この女に呼ばれるとき、それはだいたい“詰み”のときである。
須崎は即座に立ち上がり、香山は「はぁい〜」と楽しげに返事をして横に並んだ。
――ガチャッ。
「座れ。」
黒崎は一瞥もくれず、机の向こうに視線を落としたまま命じた。
須崎は硬直しながら着席。香山はまるでカフェに入ったような軽やかさでイスに腰を下ろす。
「国会レク。報告書、読ませてもらった。お前たち……議員に聞いてはいけないことを聞いたらしいな?」
「申し訳ありません……!!!」
須崎は即座に謝罪し、香山は首をかしげながら口を開く。
「え〜? 裏金って、みんな知ってることじゃないんですかぁ?」
「お前は″公然の秘密”というものを知らないのか。農水省以外の議員たちにも今回の件が広まってるぞ」
須崎は、もはや咳き込むように息を詰め、頭を垂れた。
「須崎」
名前を呼ばれ、ピクリと背筋を伸ばす。
「はい!」
「なぜ香山を止めなかった。」
「……力及ばず……です……」
少しの沈黙が落ちた。
「お前たち。連帯で始末書な。あと今週中に議員全員に謝罪行脚してこい」
「……はい……」
「え〜ん、めんどくさ〜い……須崎やって〜」
「遊びに来たのか香山!!!」
「え? 仕事の一環だと思ってた〜」
須崎はもはや魂がどこかへ行っていた。
「……ああ、香山。あとお前、国会出禁な。」
「えぇ〜〜〜!?!? 僕、人気だったのに〜!?」
「(どこがだよ!!!)」