EP2 『爆弾発言』
某国会議員の部屋。レクが始まった。
香山は、まるで旧知の友人に挨拶するかのように、にこにこで着席した。
「お疲れ様で〜す! 最近ストレスで太ってきちゃって、ダイエットしてるんですよぉ〜」
部屋の空気が、瞬時に凍った。
向かいに座る議員──農水族のドン。全身から“ドスン”という擬音が聞こえそうなほどの重圧を纏い、沈黙していた。
須崎は、座りながら土下座しかける勢いで青ざめる。
(終わった……殺される……殺される……!!!)
「……それ、俺が太ってるって言いてえのか?」
低く、響くような声だった。
香山は、悪気も何もない無垢な笑顔で答えた。
「えっ? そんなこと一言も言ってませんけど?」
(言ってるんだよ!!!!!!)
「……あ、でも議員、健康診断とか大丈夫ですか〜? 最近うちの課でもメタボ指導とか厳しくて〜」
(殺す気か!?!?)
ドンは顔を真っ赤にしながら、ずしりと立ち上がった。
「お前らぁ!!! どこの省庁だぁ!!!」
須崎は即座に立ち上がって九十度のお辞儀を叩き込む。
「申し訳ございませんっっ!!! 警察庁警備局警備企画課でございます!!! 本日は真摯にご説明を!」
その横で香山は、資料をペラペラしながらのんびりと付け加えた。
「今日は非公開支出問題についても率直にお伺いしにきました〜!」
(いま絶対言っちゃいけないワード出たぁぁぁぁぁぁ!!!!)
「帰れ!!!!!!!!」
須崎は全身で頭を下げながら、香山の腕を全力で引っ張ってその場を後にした。
廊下に出た須崎は、顔面蒼白のまま香山に詰め寄る。
「香山さん……なぜ、なぜあんな……」
だが香山は、まるで昼休みにおにぎりの味を語っているかのようにケロッとしていた。
「え? だって正直に話すのが一番でしょ? 嘘はダメだよ? ”公安″たるものクリーンに!」
「……クリーンとかいう問題じゃないんです……」
「まぁまぁ。今日の議員レク、何点?」
「0点です」
「え〜! 厳し〜!」
須崎は、崩れ落ちそうな心を何とか支えて歩き出す。