EP1 『国会レクは地獄のはじまり』
『国家レク』とはーー
官僚人生を賭けて、官僚たちが自分たちの作った資料を、議員に「日本語で説明する」壮絶バトルのことである。
本来は「政策の意図を分かりやすくお伝えする場」なのだが、現場ではだいたいこうなる。
官僚「こちらの資料をご覧ください」
議員「これ読んでないけど、わかりやすく説明して?」
官僚「かしこまりました…(自分で読めよ)」
議員「なるほど、でもウケないから反対って言うわ」
官僚「(胃に穴空いた)」
そう、これは情報戦であり、精神戦であり、胃薬と無表情のフル活用によって成立するレクチャー劇場。
今宵もまた、香山と須崎“理解される努力”に身を捧げる……!
(※本作はフィクションです。たぶん。)
午前十時、霞が関。
警察庁のエリート課長補佐・須崎透は、資料のファイルを胸に抱えたまま硬直していた。
(よし……内容は完璧……突っ込まれても対応できる……香山さんさえ、黙っていてくれれば……)
そんな祈りも虚しく、後ろからやってきたのは、件の上司、香山慎之介だった。資料をパタパタさせながら、ふらふら歩いてくる。
「ねえねえ、須崎くんさぁ」
嫌な予感しかしなかった。
「……なんですか」
「議員さん、疲れてるかもしれないじゃん? だからさぁ〜最初に小ネタ挟もうよ!」
にっこにこの笑顔。嫌な予感が確信に変わった。
「……小ネタ?」
「うん。”最近忙しすぎて家に帰ったら飼い猫に忘れられてました〜”とか!」
即答だった。
「やめてください。ほんとにやめてください」
「あと、“今日はあまりに緊張して資料忘れてきました〜”とか、ウケると思うんだよね」
須崎は資料をぎゅっと抱きしめながら、深く息を吸った。
「一言でも小ネタ挟んだら即退室させられますよ!! 国会議員は笑いに来てるんじゃないんです!!!」
「え〜、笑顔って大事じゃん?」
「命取りです!!!」
それでも香山は諦めない。
「じゃあ、“最近ストレスで太ってきました〜! ダイエットしてるんですよぉ”って言うだけでいい?」
「だめです!!」
「なんで?」
声をひそめて、須崎が言う。
「……今から行く議員、農水族のドンです……“太った”とか言ったらマジで殺されます……」
「え〜〜まじか〜〜〜」
その顔にはまるで危機感がなかった。
(やばい……終わった……)
緊張の頂点で、扉が開く。
「どうぞお入りください」
須崎は心の中で五体投地しながら、隣の香山に懇願した。
(頼む、香山さん、黙っていてくれぇぇぇぇぇ!!!!)
元気よく部屋に入った香山が開口一番、こう言い放つ。
「お疲れ様で〜〜す! 最近ストレスで……」
(やめろおおおおおおおお!!!!!!)
プロローグの代わりに初心者でも分かる官僚用語集を作ったので、興味のある方はぜひそちらも『作品ページ』からご覧ください。