EP1 『出勤2秒でセクハラすな』
【ご注意】
この作品は「もしも顔面国宝が警察庁に爆誕したら」という前提でお送りする、限界コメディです。
制度の正確性よりも美貌と胃痛と絶望が優先されております。(特に香山さんが)
真面目な官僚ドラマをご希望の方は……たぶんそのうち始まるので、もうちょっとだけ我慢してください。
警察庁には、神がいる。
──いや、正確には“爆弾”だ。それも、常にピンが抜けかけているタイプの。
朝の警備企画課には、三つのルールがある。
一、香山課長補佐には期待するな。
二、セクハラは即ツッコミ。
三、美貌に騙されるな。絶対に。
「おはよ〜。あっ、林くんそのセーターかわい〜。僕が脱がせたくなっちゃう〜」
朝8時15分。警備局警備企画課のオフィスに、神(爆弾)が降臨する。
香山慎之介(28)課長補佐、本日も平常運転。
「ぎゃあああああ!!!セクハラ!!朝から重罪!!」
「せっかく“着る用のかわいさ”で選んだのにぃぃ!!」
絶叫するのは、林湊(23)。見た目も中身も中学生のノリ担当だ。
「林くん、今日も元気だねぇ。かわいい〜」
雑誌の表紙から飛び出したような色素の薄い髪がふわりと揺れる。笑顔がまぶしすぎて視力が落ちる。
その横では、
「……香山さん。出勤して二秒でセクハラするのやめてください」
須崎透(30)が静かに書類を並べながらツッコミを入れる。胃薬が親友、真面目が服を着て歩いているような男だ。
ちなみにこの人、香山の部下である。年上なのに。
「え〜? 挨拶って、愛のある方が嬉しくない?」
「ないです。あなたが口を開くと労基と弁護士が反応します」
「こわっ……国家の犬じゃん……」
「あんたも国家の犬だよ!!!!」
そのやり取りの向こうでは、眼鏡が光る。
「……香山さん、今日こそ“普通の大人”になってもらえませんか」
岡田誠治(26)。毒舌メガネ。香山にだけ語気が強くなるのは仕様らしい。
「え〜……じゃあ岡田くんのタイピン褒めたら“普通の大人”認定してくれる?」
「いりません。気持ち悪いだけです」
爆発の波は止まらない。
「佐藤くんは〜? 僕のどこが好き〜?」
「いや全部っすよ! 顔、声、匂い、脚、あと目!! 圧倒的に目ッス!!」
佐藤大地(26)は体育会系兄貴系陽キャ。香山の外見がド直球で性癖らしい。
「……この班、大丈夫か?」
須崎が思わず心の中で頭を抱えた、そのときだった。
「ねぇ須崎くん、今日のレク資料これでOK?」
香山がひらりと書類を持ち上げた。
さっきまで制服発言してた人とは思えない手さばきで、1ページ目に視線を滑らせる。
「──三枚目のグラフ、凡例がズレてるよ。会計課のミスだね〜」
「……は?」
反射的にファイルを確認した須崎の目が、止まる。
(本当だ……しかも、微差……)
普通なら誰も気づかない。香山は、それを一瞬で見抜いた。
「もう、僕がいなきゃ国、回らないね〜」
笑いながらそう言うその顔から、一瞬だけ笑みが抜けたように見えた。
須崎は無意識に背筋を正す。
──この人、本当に“爆弾”なのかもしれない。
「ねぇ須崎くん、午後の議員レク、僕が“ちょっとだけ”喋るのはあり?」
「絶対ダメです。香山さんの“ちょっと”は爆発予告なので」
「じゃあ“うっかり”だったら?」
「“うっかり”の方が悪質ですよ!!」
香山は、今日も笑顔で爆弾を運んでいる。
庁内の誰よりも美しく、誰よりも危険な男が。
──そして午後、国会で本当に爆発するとは、このとき誰も知らなかった。