EP3 『視察、それは地方でも爆発する』
須崎透は、朝から胃薬を2錠飲んだ。理由は明白だった。
香山慎之介(28)、今日も元気に生きていたからである。
「須崎くん見て〜!これ、ご当地キャラとおそろいのハチマキ〜。似合う?」
「警察官僚をゆるキャラとペアルックにして喜ぶ奴がどこにいるんですか」
午前9時。現地警察との合同“安全啓発パレード”視察。
のはずだったが──香山は地元マスコットと即仲良くなり、ハチマキを交換し、
地元テレビの取材カメラにドアップで抜かれていた。
(完全に広報課の人間みたいな顔してたぞ……いや違うだろ……俺がおかしいのか?)
その横で香山のスマホが震える。画面に《岡田(職場)》の文字。
「ちょっと出るね〜」
「出ろ。全力で叱られてこい」
香山が通話に出た途端、やたら楽しげな声を発した。
「岡田くん、今ね〜、地方のゆるキャラと婚約した」
《……は?》
「いや、なんか通じ合っちゃってさ。ほら、ハチマキ交換して──」
《やめてください。今すぐ職務に戻ってください。あなたの言動で、県警広報課が一時フリーズしてます》
「そっちからの報告要請ってなんだったの? 今マスコットと婚姻届寸前なんだけど」
《今朝のN◯Kローカルで、香山さんが“キャラと並んで笑ってる姿”が全国放送されました》
「えっ、全国に!?ローカルなのに!?やだ〜、全国デビューしちゃった〜」
須崎がスマホを取り上げる。
「今すぐ黙ってください。あなたが喋るたび、私の胃壁が削れるので」
『須崎さん。香山さんのスマホ、没収してください。強制で結構です』
「喜んでやらせていただきます」
「え〜、婚約者と電話する自由くらいあっても──」
《してないでしょう》
通話はぷつりと切れた。
香山はスマホを見つめ、ぽつりとつぶやく。
「岡田くんって……ほんと、不器用だよねぇ」
「それで済むと思わないでください」
その数分後、香山は地元幹部に囲まれ「観光大使のゲストに」と推薦されていた。
須崎の胃薬は、この時点で4錠目に達していた。
──この人、どこへ行っても終わってる。
【次回予告】
本庁から来た男が、壇上で笑って言った。
「特技は爆弾処理と、人心掌握で〜す!」
県警、静まり返る。誰かが言った。
「……この人、本当に官僚?」
次回、「合同会議、始まってすぐ非常事態。」




