表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したので、理想のメイドを集めていたら最強の軍団になっていた件!  作者: 廿日 皐月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/51

第50話『王都の中心街でお買い物! のはずだったんだが……』


「ニャー! めちゃくちゃいい匂いがするにゃ!」


 ニアが目を輝かせ、通りの向こうを指さした。

 視線の先にあったのは、香ばしい煙を上げる肉串の屋台だ。


「いいよ。買っておいで」


 そう言うと、ニアは一瞬きょとんとしたあと――


「ニャ!? 本当にいいのニャ!?」


 ぱっと顔を輝かせ、弾かれるように屋台へと駆けていった。


 今日は、王都の中心街に、みんなで買い物に来ている。


 本来の目的は、僕がこれから通う学園の制服の採寸と、

 その他の学用品を揃えることだった。

 けれど、せっかく中心街まで足を運んだのだ。

 用事だけ済ませて帰るのは、さすがにもったいない。


 というわけで、予定を少し緩めて、

 みんなで王都観光も兼ねることにした。

 

 石畳の大通りには、人の波が絶えない。

 行き交う人々の服装も様々で、商人、冒険者、職人、貴族の従者らしき姿まで入り混じっている。

 

 屋台の呼び声に、どこかで誰かが奏でる笛の音。

 焼き物や香辛料の匂いが入り混じり――

 さすがは王都の中心街、と言うべき賑わいだった。


「おお……さすが王都だな。業物が揃っている」


 通り沿いの武具店の前で、セラが足を止めていた。

 店先に並ぶ剣や槍を前に、珍しく目を輝かせている。

 普段はあまり感情を表に出さない彼女が、わずかに口元を緩めているのを見て、僕は思わず苦笑してしまった。


 少し離れたところでは、プルメアとネーヴェさんが並んで店先を覗き込み、布地や小物を手に取りながら、静かに買い物を楽しんでいる。


 王都に来てからというもの、みんな何かと働き詰めだった。

 こうしてほんの少しでも、肩の力を抜ける時間になっているのなら、 街へ出てきた甲斐はあったのだろう。


 一方で、街の人々がニアやネーヴェさんを見る目については、 正直なところ、少しばかり心配していた。


 けれど、どうやらそれは思い過ごしだったらしい。


 好奇の視線こそ向けられるものの、露骨な偏見や嫌悪を感じることはない。

 よく見れば、この中心街でも獣人の姿は決して珍しくなく、数は多くないものの、通りを歩く獣人たちの姿がちらほらと見える。


 その光景に胸の奥で小さく安堵しながら、

 僕は再び、楽しそうに肉串を頬張るニアへと視線を戻した。


「ニアは、他に買い物はいいの?」


「あたしは、食べ物があればそれでいいニャ」


 物欲より食欲。

 実にニアらしい答えに、思わず苦笑が漏れた。


 そんなわけで、皆がそれぞれの買い物を楽しんでいる間、

 僕とニアは二人で、食べ歩きをしながら中心街をぶらつくことになった。 


 さすが王都の中心街だけあって、

 大通りだけでなく、一本裏に入った細い路地にも店が並んでいる。

 狭い道の両脇に、おしゃれな看板が肩を寄せ合うように立ち、人通りは少なめだが、どこか“知る人ぞ知る”雰囲気が漂っていた。


 外から眺めているだけでも楽しく、

 歩いているだけで妙に満たされた気分になる。


 ――そのまま、何気なく路地を進んでいった、その時だった。


 少しずつ、違和感が混じり始める。


 看板の色合いが、やけに派手だ。

 装飾も、文字のフォントも、どこか主張が強い。


 ……気づけば、視界の端はピンク色ばかり。


「ご主人様には、ちょっと早いんじゃないかニャ?」


 ニアが、ニッシッシと楽しそうに笑う。


 その一言で、ようやく確信した。


 ――しまった。

 路地を辿っていただけのつもりが、

 いつの間にか歓楽街に足を踏み入れていたらしい。


「ち、違うよ! たまたま、たまたまここに来ちゃっただけだから!」


 慌てて言い訳しながら踵を返し、

 その場を離れようとした――その時だった。


 ガタン、と鈍い物音が響く。


 次の瞬間、曲がり角から少女が飛び出してきた。


「――っ!」


 避ける間もなく、正面からぶつかる。

 体勢を崩しながらも、反射的に腕を伸ばし、

 少女をかばうようにして地面へ倒れ込んだ。


 その直後だった。


「クソッ! 待て、この野郎!」


 荒々しい怒声とともに、男が姿を現す。

 モヒカン頭に険のある顔つき。

 腰には短剣――どう見ても、穏やかな相手ではない。


 人を見た目で判断してはいけない。

 頭ではそう分かっていても、

 幼い少女と、目の前の男。

 どちらが悪者なのか、考えるまでもなかった。


 ニアが、一瞬で前に出る。


 僕と少女を背に庇い、低く身構える。

 その鋭い動きに、男は露骨に舌打ちした。


 そして、腰の短剣に手を伸ばしかけた――その瞬間。



「大丈夫か!」


 聞き覚えのある声が、路地に響く。


 駆けつけてきたのはセラだった。

 その背後には、プルメアとネーヴェさんの姿もある。


 数が揃ったのを見て、

 男は露骨に顔を歪めた。


「……クソッ」


 それだけ吐き捨てると、

 男は振り返り、路地の奥へと走り去っていった。


 あとに残されたのは、

 急に静まり返った路地と――

 僕の腕の中で、小さく震える少女だけだった。


「……いったい、何だったのニャ」


 突然の出来事に、僕もニアも状況を飲み込めずにいた。

 だが、今はそれどころじゃない。

 腕の中で震え続ける少女を、どうにかしなければ。


「大丈夫? いったい何が――」


 声をかけかけた、その途中で、

 胸の奥に、言いようのない違和感が走る。


 言葉は自然と、喉の奥で消えていた。


 追いついてきたプルメアも、

 少女の顔を覗き込み――

 次の瞬間、はっと息を呑んだ。


「……その子って……」


「うん。あの時の子だね」


 長く垂れた耳に、乳白色の髪。

 恐怖に強張っているせいか、耳はぴたりと頭に沿うように垂れ下がっている。


 だが、その姿を見間違えるはずがない。

 王都へ向かう途中、あの野盗たちに囚われていた――

 獣人の少女たちの、ひとりだ。


 震える少女の手が、

 僕の服をぎゅっと掴んで離さない。


「……助けて……」


 絞り出すような、その声に、

 胸がきゅっと締めつけられる。


「大丈夫。もう平気だよ」

「助けてあげるから、安心して」


 そう言って、そっと頭を撫でると、

 少女の指先から、ゆっくりと力が抜けていった。

 張りつめていた糸が切れたように――

 そのまま、少女は意識を手放したようだ。


「……本当は、何があったのか聞きたかったけど」


 小さく息を吐き、腕の中の少女を見下ろす。


「今はそれより、休ませてあげよう。

 とりあえず、屋敷に連れて帰るよ」


 その言葉に、ネーヴェさんが即座に反応した。


「馬車を回してくる」


 ネーヴェさんはそう言い残すと、踵を返して走り出した。


「……いったい、何があったのでしょうか……」


 ぽつりと零れたプルメアの声には、

 隠しきれない不安と困惑が滲んでいた。


 白昼の王都、その中心街からそう離れていない場所で――

 いったい、何が起きているのか。


 答えのない疑問が、

 僕の胸の奥にも、重く沈んでいく。


 漠然とした不安だけが、

 静かに、確かに広がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ