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異世界転生したので、理想のメイドを集めていたら最強の軍団になっていた件!  作者: 廿日 皐月


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第47話『裏社会よりも礼儀作法』


 ニアが悲鳴を上げながら荷物を抱えて別邸の廊下を走り回ってから、どれほど時間が経っただろうか。


 夕日が傾き、王都の貴族街に柔らかな橙が差し込む頃――


「……やっと終わったニャ……」


 ニアがぐったりとした動きで居間へ戻ってきた。

 手も足も力が入っていないのが一目で分かる。尻尾に至っては床を引きずっていた。


 もっとも、実際にはエリーゼと他のメイドたちが片づけの大半を進めており、

 ニアはその補助として走り回っていただけなのだが――本人にとっては相当な重労働だったらしい。


「ニア、お疲れさま。よく頑張ったね」


「頑張ったのニャ……! こんなにも働かされるとは思わなかったニャあああ……!!」


「旅程の後片づけは重要ですからね」


 エリーゼが穏やかに微笑むと、ニアはビクッと震えてソファの後ろに隠れる。


「ま、また何か命じられそうニャ……!」


「大丈夫だよ、今日の仕事はもう終わり。落ち着いて座りなよ」


 僕が言うと、ニアはようやく恐る恐る顔を出し、ソファにぽすっと沈み込んだ。


 ほどなくしてセラとプルメア、それにネーヴェさんも揃い、居間はいつものメンバーが全員集まった。


 僕は姿勢を正し、全員を見渡しながら言葉を切り出す。


「さて……これからのことを話しておこうか」


 僕がそう切り出すと、居間の空気がゆるやかに引き締まった。

 ニアも尻尾をたたみ、姿勢を正してこちらを見る。


「まずは……“バルバロス”の件だね」


 捕らえた野盗たちが口にした、王都の裏社会を仕切るという謎の組織。

 名前を挙げただけで、場にわずかな重さが落ちた。


「捕まえた野盗たちが言っていた、王都の裏社会を牛耳っているという組織か」


 セラが腕を組み、淡々と確認するように言う。


「本当にそんな組織があるのでしょうか……?」


 プルメアが胸元に手を当て、不安を隠しきれずに続けた。

 その言葉に重ねるように、ネーヴェさんが静かに口を開く。


「助かるためについた嘘の可能性もある」


 もっともな指摘だった。僕らを脅して手を引かせるための作り話――その線も捨てきれない。


「確かに。でも仮に事実だとすれば……面倒な相手かもしれない」


 僕は言葉を選びながら続けた。

 野盗たちの怯え方は、どう見ても“演技”とは思えなかった。もし背後に本当に組織があるのだとしたら、軽視できる相手ではない。


「とはいえ、野盗は全員捕まえたし……僕たちが取引を邪魔したとは知られていないはずだ。だから、僕たちが狙われる可能性は低いと思う。」


 そう言いながらも、胸の奥のざわつきは消えなかった。


「……でも、一応警戒はしておこう。相手の規模もまったく分からない状況だし。それに――」


 言葉がそこで止まる。

 視線を向けると、みんなが静かに続きを待っていた。


「……それに、もし彼らが今回と同じように獣人の奴隷を扱っているのだとしたら――

 ニアの村の件にも、関わっている可能性がある」


 その瞬間、ニアの耳がぴくりと揺れた。

 怒りとも痛みともつかない感情が、彼女の瞳の奥に浮かんだのがわかった。


  セラは腕を組んだまま、静かに息を吐く。


「可能性は高いな。だが――情報が少なすぎる。こちらから嗅ぎ回れば、逆に狙われる危険もある」


 セラの冷静な指摘が落ち着いた空気をつくり、僕はゆっくりとうなずいた。


「うん、僕もそう思う。……それに、今すぐ動く余裕もないんだ」


 視線を皆に向ける。


「王宮での叙爵式が控えているし、終わればすぐ学園の入学準備だ。

 正直、ここから先の予定はぎっしりなんだよ」


 居間の空気がひとつ落ち着く。

 “今は動けない”という現実を、全員が自然と受け取ったようだった。


「だからニアには悪いけど……しばらくは様子を見るしかない。無闇に行動すれば、かえって危険を呼ぶことになる」


 そう締めくくると、ニアは耳を少し伏せ、胸の前でぎゅっと手を握った。


「……分かってるニャ。  ローエンベルグでゼルグを追いかけた時、あたし……勝手に突っ走って、結果的に迷惑をかけたニャ。  だからもう、あんなことはしないニャ」


 語気は弱くない。ただ静かで、しっかりと地に足のついた響きだった。


「ありがとう、ニア」


 自然と返した声が、いつもより少しだけ柔らかくなる。

 セラも腕を組んだまま、静かにうなずいた。


「しばらくは全員で警戒しつつ、情報が出てくるのを待つしかないな」


「そうですね……気を張りすぎても、長くはもちませんし」


 プルメアの控えめな言葉が、張りつめていた空気をわずかに緩める。

 皆の表情にも、ようやく落ち着きが戻ってきた――その矢先。


「それでは、坊ちゃま」


 話がひと区切りついたのを見計らったように、エリーゼがすっと前に出た。


「叙爵式の件につき、明日から王宮での礼儀作法を集中的にお教えいたします。  ご準備はよろしいですね?」


「えっ……?」


 きょとんとする僕を、エリーゼは一切の容赦なく見つめ返す。


「当然でございます。叙爵式は国王陛下の御前。

 ヴァイスベルグ家の嫡男として恥じぬ立ち居振る舞いを、しっかり身につけていただかなくては」


 ……背筋が、自然と伸びた。

 王都別邸が完璧に整えられていた理由。

 エリーゼが僕たちより先に王都へ向かっていた理由。


 すべてが、ここへ繋がっていたのだと、ようやく腑に落ちる。


「……覚悟しておいたほうが、よさそうだね」


 ため息混じりにつぶやくと、隣でニアがぽそっと小声で呟いた。


 「……がんばるニャ、ご主人様」


 「な、なんでそんなあわれむ目でみるの!?」


 思わず抗議すると、プルメアがくすっと笑い、セラもほんのわずかに口元をゆるめた。


 重かった空気がようやく和らぎ、居間にはささやかな笑い声が広がる。


 ――バルバロスの影は消えていない。


 それでも今は。


 迫りくる“国王陛下との対面”という、ある意味で魔物より恐ろしいイベントが控えている。


 この瞬間だけは、裏社会よりも――

 礼儀作法のほうがよほど脅威に思えて仕方なかった。

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