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第7話 晴司家の面々

「ありゃあ。こりゃヤバいかもな和久。腹だけじゃなくて顔面も殴られて腫れあがってやがる」


「おいジュン。例の特異体質は兆しすら見られないぞ?あの青年は大丈夫なのか?」


晴司家本家の屋敷。


その中にある会議室内部では、円卓の中央に設置されているモニターで、魑魅すだまの触手による殴打を受け続けている和久の様子が流され続けている。


そしてそれを見守るジュンは、隣にいる当主にして老人であるツルクニの顔を見ながら思わず苦笑いを浮かべた。


「結構ボコボコだな。それにしても・・・もしかしたらあの特異体質の発動には何か条件がいるのかもなあ。実はずっとこのことが頭をよぎってたんだけども」


「相変わらず呑気じゃのう貴様は。第一、あの手の特異体質持ちの存在はワシだって幼い時に先代当主・・・父から少し聞きかじってた程度じゃ。色々と詳しいことは記録にも残っておらぬのじゃよ」


他方ツルクニの方はペットボトルの水を口に運んだ後、白髪だらけの頭を掻きながら「貴様は分かっておるのか?」と大いに呆れた顔をジュンに向ける。


「晴司家・雨追家と一部の関係者以外に魑魅の存在を知らせ、しかも一方的な戦いを強いてデスゲームの主催者みたいにその様子をモニターで眺めているんだぞ?国が知ったら大事じゃ」


「まあでも仕方なくね?実際に戦わせねえと能力見れねえし、そもそもこれはそっちのジジイが提案した試練だろ」


苦笑いの顔を一変させて、眉間に皺をよせ口を尖らせて答えるジュン。そんな険しい表情を浮かべている彼に向かって、今度は静かに背後から近づいてきた男性が声をかけてきた。


「全く不愉快な光景ですね。ジュン叔父さんから幹部集合の連絡が来たから何事かと思えば・・・」


少し甲高い、少年と青年の狭間にあるような声。これを耳にしたジュンは一層、不機嫌そうな顔になる。


「ジュン叔父さんはまだ晴司家以外の人間を処理士にしようと企んでいるのでしょうか?どうもボクが小さいときからそういう思想を持っているようですが、未だにろくな役職も貰えず幹部になれないのはそういうところではないでしょうか」


「うるせえな。幹部の中でもテメエみたいなガキは呼んでねえ。こんなところにいなくて良いからさっさと学校行け。まだ高校生だろうが」


「相変わらずの口の悪さも変わりませんね」


「帰れ。出てけ。大人を舐めるな」


こうしてジュンが一層目を吊り上げながら声の方向に顔を向けると、彼の斜め後ろには黒いスーツに身を包んだ眼鏡姿の男性が立っていた。


年齢はまだ16~17歳ほどで、顔にはどこかあどけなさも残るが冷酷そうな目つき。さらにその黒色の髪はバッチリ七三分けに決められている。


「おいテツハル。ママから年上の人間に対する言葉遣いを習ってねえのか?」


「そのママから『あなたは史上最速で幹部になれたから偉そうに振舞って構わない。特に叔父である晴司ジュン氏に対しては』って教えられていますが」


「最悪の教育してんじゃねえか。テメエの死んだ父親、俺様の双子の弟だぞ?」


そしてテツハルと呼ばれたこの男性は、ジュンの手元に置いてあるマイクに体を寄せて、口を近づける。


「あーあー。聞こえるでしょうか、そこの男性の方?ボクは晴司家の幹部、晴司ジュンの甥である晴司テツハルです」


「おいテツハル、勝手に余計な邪魔をすんじゃねえよ。まだ和久は戦ってんだろうが!黙って見てろ!」


しかしテツハルはジュンの注意を無視し、そのまま和久に向かって声をかけ続ける。


「魑魅にボコボコにされて痛いですよね?苦しいですよね?それならギブアップしましょう。そうしたらすぐに帰してあげます。その代わり、もう晴司家には関わらないでください。部外者は邪魔ですから」


「いい加減にしろよテツハル。子供だからって好き勝手して許されるわけじゃねえぞ」


「それは違いますよジュン叔父さん。勝手なことじゃありません。これ以上、あの人を放っておくわけにはいかないでしょう?人命救助なんです。さっさと処理士になることを諦めさせて、家に帰すのが賢明な判断かと思いますが」


テツハルはマイクから少し体を離して横に顔を向け、飄々とした雰囲気で眼鏡越しにジュンのことを見つめる。


だがそれに苛立ちを覚えたジュンはその場に立ち上がり、彼の胸倉を掴んで傷だらけで無精ひげの生えた顔を近づける。


「今の和久には帰る場所が無い。だから拾った俺様が責任持って立派な処理士に育て上げる。それで良いだろう」


「はあ・・・人助けが趣味の人間の相手は面倒ですね。叔父さんも考えが甘い。そんなにお人好しだと生きるのも大変でしょう?」


「おいクソガキ。俺様に対してその姿勢は良い度胸してんじゃねえか。あ!?」


「そもそも叔父さんはボクと違ってまだひら処理士。確かに単純な魑魅の処理数は多いとは言え、ジュン叔父さんよりもずっと若いはずのボクは既に幹部。分かりますか?この違いが」


「・・・」


「いくらアホなジュン叔父さんだって、さすがにどちらの立場の方が上か分かってるはずで・・・」


「よし、今からテメエをぶん殴る。歯を食いしばれ」


「・・・あ、あれ!?どちらの立場の方が上か分かってないんですか!?ボクは晴司家の若き幹部ですよ!役職があるんですよ!」


ジュンに胸倉を掴まれたままテツハルは、予想だにしなかったジュンの反応を見て両手をバタバタさせて抵抗するが・・・。


「こ、こういう時って手を出した方が負けです!良い大人が高校生に暴力を振るうだなんてそんなこと!」


「黙れ。シンプルに腹が立った」


「た、助けてください!ツルクニ当主!他の幹部の方々!」


「「「「「・・・」」」」」


「くそう!皆、ボクの方から目を逸らしている!」


「テメエはもう少し自分が嫌われていることを自覚しろ。幹部になったのは良いが肩書以外に問題が・・・ありすぎるんだよ!!!」


そのままテツハルはジュンによる拳の一発を受け、会議室には鈍い音とうめき声が響き渡る。


そして・・・そんな彼らの近くのモニターに映る和久は。


「ク、クソ・・・。僕のせいでジュンさんが・・・!」


先ほどスピーカーを通して聞こえてきたテツハルの言葉を思い出し、ジュンからの期待に応えられない自身に、強い憤りを感じていた。

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