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第3話 これが彼の『復讐』

魑魅すだま処理士になって俺様と一緒に働け。金払いは良いから安心しろ?」


オールバックの髪に黒スーツ姿の男性・晴司ジュンからの誘い。


「俺様がしっかり教育してやるし適度に休みも与える。衣食住の提供だってしてやるよ。おまけに楽しい楽しい夜遊びだって教えてやるぜ」


さらにジュンはこのような言葉を並べて勧誘を続けるが・・・。それを聞いた和久はうつむいて唇を噛み、膝の上で拳を握りしめる。


「どうした?もしかして話を聞いて怖くなってきたか?」


何も答えず下を向いたままの和久。しかしその様子を見たジュンは肩をすくめる。


「気持ちは分からねえでもないが。さっきはあのババア魑魅を、他でもないテメエが殺したじゃねえか。しかもテメエに触れた途端に溶け落ちたんだぜ?俺様は初めて見た。あれあったら楽勝だ」


「そ、それは・・・」


それでもなお小さく首を横に振る和久だが、ジュンは身を乗り出して魑魅を処理することの重要性について語った。


「魑魅処理士の仕事ってのはめちゃくちゃ重要だ。俺様たちがいねえと世の中は魑魅の手でやりたい放題、罪の無い多くの一般人が生き血を全部吸われてお陀仏なんだぞ?もしくは誘拐されて仲間にさせられる。ほっとくわけにいかねえだろ?」


「で、でも・・・」


「魑魅は不思議と幼い子供を吸血したり攫うことは無い。だから仮に戦うとしても相手は大人の元人間だ。その辺りは変に気遣う必要はねえ。戦闘への不安も俺様がみっちり鍛えてやるから大丈夫だ。まずプロテインを吐くほど飲ませてやる」


「・・・」


ジュンは次々に誘い文句を述べていくが、煮え切らない和久の態度は変わらない。


さすがにそんな姿にしびれを切らしたジュンは、「はあ・・・」と大きなため息をつき、傷だらけの顔を和久の方に向けた。


「・・・おい言いたいことがあったら正直に言え。ウジウジしてたって相手に気持ちは伝わんねえぞ?」


「・・・っ!す、すみません・・・」


その視線に気づき、頭を上げた和久の目前にあるのは傷跡だらけのジュンの強面。迫力満点の彼の顔を見た和久は、小さくふるふると震えながら・・・。


「も、申し訳ないんです!ぼ、僕のせいで晴司さんに迷惑がかかることを思うと!」


その坊主の頭を下げながら絞り出すようにこう叫んだ。


「・・・迷惑?」


「は、はい!さっきも言ったんですけど、ちょっとSNSで検索すれば、僕の顔写真や個人情報を出してバカにしている大学生のアカウントが沢山出てくるんです!」


和久は目を潤ませながら続ける。


「も、もし僕が晴司さんと一緒にいるところを誰かが見つけてこっそり写真を撮って、それをネットにアップとかされたら・・・。そ、そちらまで色んな人から陰口を言われて、助けてもらったご恩を仇で返すことに・・・!」


「はあ・・・。マジでバカ野郎だなテメエは」


時折声を詰まらせながら想いを口にする和久に対し、ジュンは短く言葉を投げかける。


「そんなこと気にすんな。そもそも俺様はそんな狭い世界で生きてねえ。魑魅処理士になることこそ、テメエがこの先も人生を生きるための最適解だと思って紹介してんだ。その無敵の特異体質を活かさねえのは才能の無駄遣いだぞ」


「で、でも!」


「それにテメエ。これからどう生きていくつもりだよ?」


「・・・へ?」


ジュンは正面に座っている和久のことを指さしながら、その人差し指でぐるぐると空中に円を描く。


「もうテメエ死ねないだろ。考えてみろよ。冷静になった今、自殺することを」


そう言われた和久は、頭の中で改めて自殺について想像してみる。


もし今、もう一度あの古いビルの屋上から飛び降りるとしたら。記憶に残っているのは眼下に広がる交通量の多い道路。そのまま落下したらどうなる?何に当たる?痛みは?苦しみは?通行人への影響は?


すると和久の体は急にガクガクと震え始め、顔色も真っ青になってうなだれていく。


この様子を見たジュンはソファーに深くもたれながら照明が輝く天井を見上げた。


「テメエはさあ、やっぱり本当は生きたいんだよ。じゃなきゃ魑魅にもビビらねえだろ」


そしてジュンがゆっくりと和久の方に顔を向けると、同じタイミングで彼も頭を上げる。


不安気な様子の和久だが、もちろん本人もこれ以上の選択肢がないことは理解している。この先も生きていくには、目の前にいるこの男についていくしか道はない。


決断を悩む和久のことをわずかに慮ってか、ジュンはふんぞり返りながらも優しく声をかける。


「それにさ。自分のことをバカにしてきた奴らの知らないところで、実は異形の生命体から世間を守ってるってカッコよくねえか?マジで漫画のスーパーヒーローじゃねえかよ。男の夢だ」


「スーパー・・・ヒーロー・・・」


「そうだ。マジでスーパーヒーロー。さっきも説明したが、魑魅っていうのは一般人には秘匿されてる。そんな奴らを相手に戦うんだぜ?ガキの頃に夢見たヒーローそのものだぜ」


さらにジュンは自身の顔の傷を撫でながら続ける。


「どうせ今日、俺様と出会わなかったらその辺に捨ててた命だ。開き直って俺様に預けてみろ。一緒に人助けしまくって、ヒーローやってる満足感を得て、健全な金稼ぎをしようぜ?」


こう話すジュンの笑顔を見ながら和久は口を真一文字に閉じたが・・・。


先ほどの言葉を頭の中で反芻する。


この人の言う通りだ。もしかしたら今日の朝、失っていたしれないこの命。しかもあのままビルから身投げをしていたら、他人にも迷惑をかけていたかもしれない。


それに考えてみろ。


仮に僕が自殺をしていたらそれはまたニュースになっていた可能性もある。そうすると、これまでバカにしてきた人は死人に口なしの僕に対して、もっともっと酷い言葉を投げかけていたはず。


死んだ後も嘲笑や軽蔑の標的にされて、消費されるだけされた末、気づけばゴミのように扱われていたかもしれない。


そんな僕が・・・。人を助けるヒーローに・・・。それはきっと・・・バカにしてきた人たちへの・・・。


こうして彼は、答えを出した。


「・・・分かりました。魑魅処理士になります。も、もちろん怖いですけど。よろしくお願いします」


「他に意気込みは?」


「ほ、本当は悔しかったんです。色んな人から裏切られて、顔も名前も知らない学生からもバカにされて・・・」


そして和久は唾を飲み込み、ジュンのことを力強く見つめる。


「でもさっき晴司さんの言葉を聞いて思いました。だからこそそんな奴らを、知らないところから守ってやろうって。バカにしてた男から実は守られてるって屈辱を与えてやろうって」


そのまま「・・・これが僕の復讐です」と宣言する和久。覚悟を決めた赤茶色の目は、これまでとはその雰囲気が大きく変わっている。


それを見たジュンも「良い目になったな。ようやく生気を感じられた」と納得したようにゆっくりと頷いた。


「まあ安心しろ。別に魑魅は不死身なわけじゃねえ。ある程度ボコボコにすると心臓みたいな役割をしてるっていう『核』を吐き出すから、それを刃物で切断して、回収すれば仕事は完了。見たろ、ババアの体から出たあの赤く光る球体みたいなやつだ」


加えてジュンは「しかもテメエの特異体質だと肉弾戦もそこそこ省けそうだな。さっきの戦いなんかがそうだ」と続けると、懐から札束を取り出して勢いよくテーブルに置き和久にこう伝えた。


「それじゃあまずは形から。仕事着となるスーツを買ってスマホを契約して飯も食う。行くぞ和久!」

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