追いかけまわされるテセウ
「拳の握り方はこうで、足は何時でも動けるようにまっすぐ伸ばさず少しだけ膝を曲げて重心を下半身に持ってきてください」
「こうか?クロガネとは少し違うようだが」
「俺は身軽さが売りなので、筋力がしっかりあるテセウとは少し違うんですよ」
「なるほど」
「その姿勢のまま片足を半歩ほど引いて・・・・それじゃあ体を押しますから耐えて下さいね」
俺は基本の構えを取ったテセウの正面に立ち肩を思いっきり押す。そうすると、テセウは姿勢を保っていられずよろけてしまった。
「押されても姿勢を崩さないようにするには腹に力を入れてしっかりと下半身に体重を乗せて下さい。イメージとしては頭の天辺から一本の棒が突き刺さってる感じです」
俺は少し浮いてしまっている上半身を抑えながら言う。
「膝は本当に気持ち程度に曲げるだけで良い」
「一本の棒が通ったように・・・・」
「もう一回押しますよ」
さっきと同じ勢いでテセウの肩を押すと今度は姿勢を崩さず耐えることが出来た。元々斧術の鍛錬をしていたので筋力と体幹をしっかりと持っているから、姿勢と形さえ出来てしまえば鍛える必要は無いだろうな。それじゃあ、その姿勢のまま動きを教えて行けば良さそうだな。
「よし、その姿勢を忘れないでください。それじゃあ次は・・・・」
次の段階に移ろうとしていると元気良く廊下を駆け抜けてくる小さな気配がした。
「ん?どうしたんだ」
「いや、約束の相手が来たみたいです」
スピードを緩める事無く扉まで来た二人は音を立てながら扉を開くと満面の笑みを浮かべながら
「クロ~!」
「あそぼ~!!!」
「お母上の許しは出ましたか?」
「うん!」
「お兄様の邪魔をしないなら良いって!」
「そうですか」
朝から元気いっぱいの双子は何とかリリー夫人からの許しを得れたみたいだ。それなら、約束通り遊んでやらないとだけどテセウの指導が残ってるし・・・・
「ララ、ルウ、今は俺の鍛錬中だ。もう少し待つように」
「え~」
「どれくら~い」
「終わるまでだ」
「やだ~」
「つまんない!」
「う~ん、それじゃあこうしましょう」
双子は遊びたがっているがテセウは鍛錬が中断されるのを嫌がっているということは、遊びながら鍛錬をすれば良いだけの話だ。今は正しく揺らがない姿勢と言うのをやっているのだから
「なんだ?」
「追いかけっこをしよう魔物役は俺とララ様とルウ様で逃げる役はテセウな。そして特別ルールがあります!」
「なになに!?」
「この追いかけっこはテセウを転ばせたら勝ちです!」
「なっ」
「ララ様とルウ様服を引っ張ったり押したり好きなように転ばせてようとして良いですよ」
「おお~」
「お兄様を転ばせる!!」
「テセウはさっき言った姿勢を保ちながら逃げ回ってくださいね。手を出したり押し返したりしちゃ駄目ですよ。勿論身体強化も無しです」
「ララとルウでは力が」
「俺も手助けしますから、全力でやらないとあっさり転んじゃいますよ」
どんな場所を押されようとも倒れずよろめかない姿勢と言うのは大事なことだ。ほらほらやる気に満ちている双子の予測不能な動きに転ばされないよう頑張れ~勿論俺も全力でやるから甘く見てると痛い目にあうぜ。
「分かりましたね」
「は~い!」
「それじゃあ開始!」
二人は開始の合図と一緒に元気よくテセウに向かって掛けていく。口を挟む間も無く始まってしまった追いかけっこに戸惑いはしたが走ってくる双子を見て、すぐに頭を切り替え走り出したテセウ。さて、全力で走られちゃ双子じゃ追いつけないから俺が止めてやらないとな。走り出した先に先回りし手を伸ばし服を掴む。
「さて、飛んでいけ~」
走っている勢いを利用して投げ飛ばす。まさか走っている最中に投げ飛ばされると思っていなかったテセウだが何とか空中で姿勢を直し着地するとそこには双子が待ち構えていた。
「捕まえた~」
「倒れろ~~」
二人は全力でテセウを倒すために全体重と力を込めて引っ張るが、少しよろめいただけで倒れる様子は無いので俺は後ろから力を貸してやると倒れてしまった。
「うおっ」
「はい、すぐ起き上がる」
力が足りて無かっただけでしっかりと姿勢を保つことが出来て無かったな。倒れてしまったテセウはそのまま前へと転がり直ぐに姿勢を直す。
「わ~い転んだ~」
「私お兄様に勝った!」
「ぐ、もう一度だ」
倒されてしまったのが悔しいのか顔を歪ませながら再戦を求めるテセウ。双子はまだまだ元気いっぱいなので俺は足止めとサポートに徹し、何度も何度も倒されるうちに段々と倒されるのが上手くなってきたな。起き上がるまでは少し時間が掛かってるけどそれは後々。立ち止まってる時は姿勢を保てているけど、動いてる時は軸が少しブレちまってるな。そこを直せば次に行っても大丈夫そうだな。泥まみれになりながらも双子と楽しくテセウを転ばせていると、扉が開かれ
「よう、楽しくやってるみたいだな」
「「お父様~」」
「父上!」
ずっと執務室に籠って仕事をしていたシュナイザー様が少し疲れた様子を見せながらも中庭に姿を現した。
「テセウは泥まみれだな。何をやってたんだ?」
「受け身と常に姿勢を保つための鍛錬です」
「お兄様を転ばせてたの~」
「凄い楽しかった~!」
「そうか、それは良かったな」
駆け寄って行った双子を両手に軽く抱き上げるシュナイザー様。汚れる事も気にせず二人の話を楽しそうに聞いていると、テセウも駆け寄って行った。
「父上、お仕事はもう大丈夫なのですか?」
「あぁ、一段落着いた所だ。だからお前達の顔を見るついでにクロガネ殿に話が有ってな」
「俺にですか?」
てっきり子供達に会いに来たのかと思ったが俺に用事があったのか。何か森であったのかな?
「そうだ。ダンジョンの処理が一段落着いたんだが最終判断をする前にダンジョンが稼働している状態を見てみたくてな。近いうちにもう一度ダンジョンへ一緒に行ってもらう」
「なるほど、了解です」
「休止状態から戻るのは大体二週間ほど掛かると言われてるから出発は来週だな」
「分かりました準備しておきます」
「ダンジョン~?」
「私も父様と一緒に行きたーい」
「二人がもっと大きくなって強くなったら一緒に行ってやるよ」
「わーい、頑張る!」
「お稽古楽しい!」
二人とも素直だな~強くなったらって言われるのに何にも疑問を持たないのは環境故なのかな。
「であれば俺も共に」
「残念だがまた速さ重視で行くから今回もテセウは連れて行けない」
「・・・・残念です」
テセウは森にある程度慣れてきてはいるが俺とシュナイザー様の速さについて行けるほどじゃないから仕方が無いな。そもそも森を歩き慣れた人だとしても、俺達がやっている移動法は普通じゃないからな。俺みたいに軽さと速さが強みの人間なら分かるけど、シュナイザー様のあの動きははっきり言って異常だからな。
「あ、森と言えば」
「ん?」
「そろそろテセウを森で訓練させてみたいんですけど、護衛をお借りする事って出来ますか?」
「なんだ深い場所に行くのか?」
「いえ、浅い場所で森の中での戦いを教えようかと」
「ならクロガネ殿だけで護衛は十分だろ」
「いや、万が一ってことがありますから」
確かに森の浅い所であれば俺が苦戦する相手は居ないし、襲われても守り切る自信はあるけど俺の戦い方って護衛向きじゃ無い。それに辺境伯家の長男にもしものことがあったら一大事だろ。
「クロガネ、俺は自分の身はある程度は守れる」
「だとしても駄目です」
「う~ん、サピロを森に連れて行かれると困るし」
「私は少し嗜む程度しか戦えませんので」
「ロシェを付けるとしてあと一人はそのとき空いている衛兵で良いだろ」
「それじゃあ、その時は予めお伝えしますね」
「おう」
何も障害物がない中庭と多くの木々や草達に邪魔され視界が制限されている場所での戦いは別物だから、森ならではの戦い方も覚えないと駄目だ。覚える事は沢山あるからどんどんやって行かないと期間に間に合わないぞ~
「それじゃあお前達。飯だから食堂に行くぞ~」
「あ、そんな時間でしたか」
「身を清めてから行きます」
「俺も」
「ララとルウは父様が浄化を掛けてやろう」
光属性を持っているからそりゃ浄化は出来るか。俺達は双子とシュナイザー様と別れ水を浴び服を着替え食堂へと行くことにした。
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