次の段階へ
俺が帰って来てから早くも一週間が経った。その間俺はテセウに朝から晩まで色々な鍛錬を行い一つ一つの動きが分離していたのはかなり良くなって来ている。知識については生き延びるためのサバイバル技術や奇襲のタイミング、一番襲われやすいタイミングなど戦い以外の事もテセウはまるで水を吸うかのうように学んでいる。毎日着実に成長しているので、このまま行けば一人である程度のことは出来るようになってくれるだろう。だが、まだまだ気配を察知するのは未熟なのと技が少ないからでそこはしっかりと鍛えないとな。
「あ、お帰り」
「おう、ただいま」
この一週間の内ブレストは何をやっていたかと言うと、ダンジョンという大事を対処する書類仕事に追われ砦に行くことが出来ないシュナイザー様の代わりに、砦に出向き国境の防衛をしているのだ。ブレストの性格的にそういうのは嫌いで最初お願いされた時は凄く嫌そうな顔をしていたけど、シュナイザー様の執務机に乗っている書類の量を見て嫌々引き受けたのだ。
「今回はどうだった?」
「寄ってくる奴らは苦戦する程強くは無いが数と頻度が高い。森の中に餌になるようなものがあるだろうにこっちに来るなんて何が目的なんだ?」
「人間じゃないのか」
「かもな。でもこっちに来なくても人間は居るはずだろ?」
「まぁな。シュナイザー様はフォレシアの特殊性が原因って言ってたけど」
「新鮮さを味わいたかったけど調べるか」
「だな」
一週間の内に何度も襲撃をされているので流石にフォレシアに何か異常があるのか気になってくるな。調べてみれば簡単に分かる事だろうし、あとでギルドにでも行って調べてみようかな。そんな事を話していると扉の前から小さな二人の気配を感じ扉がノックと同時に開かれた。
「クロ~」
「あそぼ~」
一週間の中で一つ大きな変化を上げるとしたら俺達が領主館の客間に泊まっている事だろう。中に入ってきた二人のガキはテセウの妹であるララと弟のルウである。今は朝早くだというのに元気いっぱいだな。
「おはようございます、ララ様ルウ様」
「あ、ブレストもいる~」
「ブレストもあそぼっ」
「また使用人に黙って来たんですね。怒られますよ」
「だって暇なんだも~ん」
「別にいいもん。今日は何やる?お空をお散歩する?それとも鬼ごっこ!?」
「今日はテセウの鍛錬があるからそれと一緒になら良いですよ。ちゃんとお母上にお話ししたらですけど」
「ほんと?」
「わーい母上に言ってくる~」
「ララ様、ルウ様!」
天真爛漫な笑顔を浮かべ廊下を掛けていく二人を少し後から追いかけてくる従者たち。
「気に入られたな」
「そんなに楽しい事はして無いんだがな」
テセウの鍛錬の空き時間に遊んでやったのが気に入ったのか、あの二人は毎日のように俺の元へ来て遊びを強請ってくるのだ。幼く遊び相手が従者たちしか居ない二人にとっては外から来た俺達は新鮮で知らない遊びを知っているから気に入られちまったらしい。ガキの面倒を見るのは嫌いじゃ無いが、俺とテセウが戦ってる場面を見せるのは少しどうなんだろうとシュナイザー様に相談したところ二人はもう武具の訓練を受けているそうだ。何と言うか流石は辺境伯一家だと言った方が良いのか・・・・
「それじゃあ、俺はテセウの所行ってくる」
「あいよ、俺は少し休むわ」
「お疲れさん」
浄化で体を綺麗にした後楽な服装に着替えベットに倒れ込むブレスト。少し疲れてるみたいだが、その疲れは町と砦の往復や魔物との戦いによるものじゃなく多くの衛兵が居る中で生活することに疲れているんだろうな。眠りを邪魔しないように静かに俺は中庭に行くと既にテセウが既に型の練習をしていた。
「すまん、少し遅れたか」
「いや、俺が早く起きてしまっただけだ。早速やろう」
「はいはい」
朝からやる気に満ちているテセウは目を輝かせながら俺に武器を突きつけたので、呆れながらも構えを取る俺。
「今度こそ武器を使わせてみせる!」
「頑張ってください。サピロさん開始の合図をお願いします」
「了解です・・・・始め!」
合図と同時に力強く踏み込みバトルアックスを低く構え俺の目の前で止まると体の捻りを活かした勢いの良い薙ぎ払い。俺はそれを飛んで避けると、しっかりとその動きを目で捉えそのままの勢いのまま回転斬りへと技を繋げた。
うん、技から技への流れは大分良くなったな。俺の動きをしっかりと眼で追えているし繰り出した技も正解。
もう一度迫るバトルアックスを俺はテセウの体を掴み引き寄せることによって勢いを付け前へと避けたが回転斬りが正面で止まり俺を追うように後ろを向きながら振り下ろしが俺へと迫る。
よし、俺がテセウの体を使うの予測してたな。先読みも育ってきてるけど、バトルアックスだけの攻撃だとちょっと物足りないよな。
飛んだ勢いのまま着地し背後から迫るバトルアックスを見ずに左へと飛び振り向きながら膝へと回し蹴りを入れる。
「ぐっ」
姿勢を崩したが攻撃の手は止んでおらず、俺を執拗にバトルアックスが追いかけてくるので一旦距離を取る。
「・・・・」
すぐさま姿勢を直したテセウは距離を取った俺を静かに睨みながら、武器を刃を右下に構え魔力を籠め始めた。それは、ちょっと舐め過ぎだぞ~魔力を感じた俺は斬撃を飛ばされる前に距離を一瞬で詰めた瞬間、テセウは驚く事無く魔法を中断し持ち手を短く持つことによって接近した俺に対処する。だが、予測が完璧ではないテセウは俺の攻撃を防御するので手一杯で攻めへと転じることが出来ない。
攻撃も前と比べると早くなったしキレも良いけどまだまだだな。
状況を打開しようとわざと攻撃を食らいながら俺を斬ろうとしたが、それに気づいた俺は服を掴み地面を強く踏みこみ思いっきり投げとばす。姿勢が大きく崩れてしまい地面に転がったテセウは慌てて立ち上がろうとするが、既に背後に居る俺は首を掴み
「はい、俺の勝ち」
「・・・・クソッ」
「大分良くなってますよ」
「武器を抜かせられないのにか?」
「まぁそれは後々。それより技や体の動きが良くなってきたのでそろそろ体術を覚えましょうか」
「新しい技と言う事か!」
「そういう事です」
一回も攻撃を当てられず不貞腐れそうなテセウだったが新しい戦い方を教えて貰えると聞いて笑顔になる。今までは既に持ってた技術を実践で使えるようにしていて、このまま続けていれば十分使えるようになると思うのでこれからは新しい事をして貰う。
「と言っても凄く簡単なことなんですけどね」
「体術と言っても俺は武器を両手で持つからな・・・・」
「なので、蹴りを集中的に覚えて貰います。それと受け身の取り方をね」
前にもテセウを投げたことがあるが、毎回受け身がしっかりと取れていなくて立ち上がるまでが襲い。いくら重武器を持っているからってあの遅さは致命的だ。
「受け身か」
「いくら防御が高くても吹き飛ばされる場面なんてザラですよ。吹き飛ばされないのが一番ですけど、吹き飛ばされた時にいかに早く体勢を整えるのかは命に関わります」
「さっきのようにか」
「そういうこと」
テセウは今まで綺麗な型を覚えてきたから体をあまり使う事が無い。さっき手合わせしている時だって俺が避けた際に蹴りを使えばすぐに攻撃で来たのにわざわざ遅いバトルアックスで追撃している場面がいくつもあった。良い身体能力と怪力を持っているのにそれは勿体なさ過ぎる。
「体術を覚えれば速い相手や手数の多いや敵にも対処しやすくなりますから、一つ一つ覚えていきましょう」
「分かった!」
「それじゃあまず武器はあちらに置いて来てください」
「武器無しでやるのだな」
「えぇ、武器が無い時にもある程度戦えるようにしますから」
テセウに覚えて貰いたいのは武器を使っている時に使う体術だが、武器が無い時に使うものも覚えておいて損は無い。体術の鍛錬を始めると今まで以上に怪我が増えリリー夫人に睨まれるだろうけど、これは仕方が無い事なのだ。
「それじゃ基本から」
「うむ!」
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