庶民の暮らし
街を歩くときは建物ばかりを見ていると、この町に慣れていない事がまるわかりなので気を取られ過ぎず景色を全体的に見るようにすることや、スリに遭わないように目立つところに財布を入れず手を奥まで入れないと盗れない様な場所に入れる事、そして何より裏路地には行かないとこを教えているとテセウはしみじみとした様子で話し始めた。
「しかし、大きな街の暮らしと言うのは中々に厳しいものなのだな。もっと華やかな暮らしを予想していたんだが・・・・」
「勿論、中にはテセウが想像してる華やかな暮らしをしている人も沢山居ますよ。だけど、人が多いので上と下で差が大きいんですよ」
「差が大きいか・・・・この町と生活はそこまで違う物なのか?」
「人が多く、栄えてますからね~働く場所は本当に多種多様ですよ。この町では、人がそこまで多くないので食堂や宿屋、金物屋に食肉屋とかか一族で何かの事業していたりとしっかりとした職に就けますけど王都じゃそうはいきません。人が沢山居たとしても働き口は限られてますから、職に就けなかったり競争が激しくて失業したりと色々な事情で安定した生活には就けなかったりするんですよ。んで、何とかもう一度職に就こうとしても金が無くて身なりが整えられなかったり自分より優れた者が居たりとなかなか上手く行かない」
酷い生活をしている奴らにも色々な事情があるのだ。初めから非道な事を好みその生活を楽しんでいる人、人に騙され持ち金を無くした人、他の町から稼ぎにやって来たけど仕事が見つからず仕送りのために悪事に手を染める人、本当に色々だ。華やかな町の裏側にはそういう奴らが沢山居るのが普通なのだ。
「そうなると、ずるずると落ちて行ってしまうのか」
「そういう事です。そしてどうしても生活の為にヤバい事に手を染めたり仕事が無いよりマシだと言ってヤバい仕事に就いたりする奴が居るんです。そういう俺もスリで生活してましたから、あいつらの気持ちも分かるんですよ」
「・・・・」
「雇ってくれない、働かせてくれない、腹が減っても金が無い、誰も助けてくれない、油断をすれば人攫いに遇うそんな環境に居れば誰だって法を犯すと分かっていても生きる為になんだってやるんです。そういう奴らが居るのが分かりやすいのが大きな町ってだけで何処にでも居るもんですよ」
「そうなのか・・・・少し悲しいな」
そうするしかなかった奴らの事を聞き少し悲しそうに目を伏せるテセウ。温かな町で育ったテセウには残酷な現実だろうけど、これを知っておかないと色々と危険だからな。
「そう思うのは自由ですけど、変な情で安易に助けたりしちゃ駄目ですよ」
「それは」
「少しでも情を掛ければあっという間に話は広がり次から次へ助けを求める連中がやってきますよ。助けを求める奴ら以外にもカモだと思われてたかりに来る奴だっています。いくらテセウが貴族だとしてもキリがないぜ」
「だが」
「別に助けるなって言ってる訳じゃないぜ。やるなら上手くやれって話だ」
「それはどういう意味だ?」
「変な奴らに目を付けられないように大きな施しはするなって話だよ。金を渡すんじゃなく余り物の飯を渡したり、人目がつかないように場所を選ぶんだ。そして、助けに依存させるんじゃなく新しい働き口を見つけてやるとかそういう事をしろってことだ」
「金は駄目なのか?」
「スラムに居るような奴らが大金を持ってたら怪しまれますし、金があっても売ってくれない所だってあるんだ。だから、生きていられるよう現物で渡す方が良いぜ」
王都の奴らは売ってくれる優しい店を知ってるみたいだが全員がそういう訳じゃないからな。金を持っていれば上の奴らに全て持って行かれたりもするから金が何でもか解決できる訳じゃない
「なるほど・・・・」
「スラムにはスラムのルールがある。それを無視したらいくら貴族様だろうと排除させるぞ」
「肝に銘じておこう」
「それといくら同情したからって襲ってくる奴には容赦するなよ。人を思いやる心はテセウの良い所だが、それで殺されたんじゃ意味がない。やる時は必ず殺せ」
多くの奴らが色々な事情を抱え、中には同情するような理由で悪事に染めた奴だっているだろう。だが、そいつらが敵になった時は容赦なく倒さなければならない。少しの情けが命取りになるんだ覚悟は決めておいた方が良い。
「っ」
「人を殺したことは?」
「無い」
「なら今から覚悟は決めておいた方が良いぞ。同じ言葉を話し同じ姿をして生きている者を殺すというのは中々にキツイものだ。だが、相手は殺す気で襲い掛かってくるんだ。いくら実力が勝っていても情けを掛ければ命取りになる。決して容赦をみせるな」
「あぁ、分かっている」
「辛ければ家族や親しい奴らの事を考えろ。俺は俺の為じゃなく、家族と民の為に正しい選択をしたんだってな。実際盗賊や野盗を逃せば新しい犠牲者が必ず出るもんだ。つまりお前は未来の犠牲者を救ったんだ。だから気に病むな」
俺はガキともを執拗に狙い痛めつける事が趣味の奴とか俺達を売り飛ばそうとした奴らを何人も殺したことがある。その度に肉を切り裂いた感触とむせ返るような血の匂いに吐いて魘されてたが後悔はしたことが無い。もしあそこでやらなければガキ共は売られ死んでいただろうし俺も死んでいた。数を重ねる内に殺したことで魘される事は無くなったが、慣れるようなもんじゃない。
「相手が同情するような過去を持っていたとしても、それが何だ。俺達にはその過去に負けない生きる理由と仲間や家族が居るんだ。命なんてくれてやるもんかって心構えでいろ」
「・・・・強いんだな」
「俺の人生の終わらせ方は俺が決めたいからな。納得できない死に方なんてしたくないだけさ」
俺にはまだまだやりたい事や見たい場所、行きたい場所が沢山あるんだ。自己中心的だとしても、俺はその願いを叶えるために相手を殺す。そこに容赦なんて一つも無い。
「まぁ、そうそう人間相手に戦う事なんて無いでしょうけどその時が来たらビビらないよう覚悟は決めておいた方が良いですよ」
「分かった」
「重い話をしてしまってすみません。それじゃあ、大分話が逸れましたけど庶民の生活でしたよね。差が大きいですけど大まかな部分は変わりませんよ。働いて食べて、友人達と休日を楽しんだり子供と過ごしたりと人の生活ですからそんなに多くは変わりません。王都の暗い話ばかりしてしまいましたが子供達も街で走り周って遊んでいるくらいには、楽しい場所ですよ」
「そうなのか、それは微笑ましいな」
「テセウは町を走って遊んだこととかありますか?」
「あるぞ、昔あまりにも退屈だったから内緒で館を抜け出し町で遊んだものだ」
お~楽しそうな笑顔だな。さっきまで少し暗く悲しい表情をしていたけどやっぱりこういう顔が似合うよな。まぁ暗い顔にさせたのは俺の所為なんだけどさ。
「お~後で怒られたでしょう?」
「まぁな、でも楽しい経験だったぞ」
「俺もガキ共に強請られて色々遊んだことはありますよ。物陰に隠れて遊んだり大人なたちを追い回して遊んだりと色々です」
「そうか、俺は武器屋に行って飽きるまで武器を眺めていたりもしたな」
「小さい頃から武器が好きなのか」
「あぁ父上に憧れて育ったからな。最初は俺も剣術を習ってたんだが、試しに持ってみたバトルアックスがやけに手に馴染んだんで途中から替えたんだ」
「そうだったのか~他に何か使って見たい武器とかあるのか?」
「今はバトルアックスを極めたいと思っているが、ハルバードなんかも少し気になってはいるな。森で戦うには向かない武器だが、あの形状の美しさに惹かれるものが有ってな」
「確かにハルバードはカッコイイよな。俺も剣とか振ってみたいんだけど習って無いし体格に合わないからナイフなんだよな~」
使って見たかったり憧れている武器が自分と合わなかったなんてよくある話だけど、使えないからって憧れが消える訳じゃないもんな。俺達は夕飯に呼ばれるまで、武器の面白さや武器屋で売ってる変な武器の話をして盛り上がっていた。
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