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長所が短所

 食事会の時に使った食堂の中に入ると、中にはシュナイザー様とリリー夫人と二人の男と女のガキが既に席に座っていた。入ってきた俺達とブレストを見るとシュナイザー様は立ち上がり、サピロさんは俺から離れては配膳係に指示を出し、ブレストの席が追加された。


「「お兄様~」」

「ララ、ルウ椅子に立っては駄目よ」

「は~い」

「知らない人だ~」

「冒険者のブレスト様よ。ご挨拶なさい」

「ララ!」

「ルウです」

「これこれは、初めまして冒険者のブレストです」


 昨日の夜初めて会ったが、金髪で緑の瞳を持ったララ様とルウ様はテセウの双子の弟と妹だ。歳は5歳になったばかりでまだまだヤンチャな時期だな。度々領主館に来ているのに、普段は領主館の奥でリリー夫人や使用人達と一緒に居るから会う機会が無かったんだよな~


「ブレスト殿、戻って来たか」

「はい、ただいま帰還しました。お食事中に失礼します」

「よいよい、疲れただろう食欲はあるか?」

「はい」

「それなら共に食べるとしよう」


 俺達は席に着いて焼きたてのパンにベーコン、目玉焼きに新鮮なサラダとピリッとした辛さが癖になるドレッシング。どれも良くあるものだが素材が良いのかどれも美味しく、朝に食べる分には十分な量だ。特にこのパンがバターの味が濃くて柔らかいのにしっかり腹に溜まる。良いな~これ沢山マジックバックに入れておきたいな。美味しい食事に笑みをこぼしながら食べ進めていると、リリー夫人が顔を顰めながら


「テセウ、気になっていたのですけどその顔の傷はどうしたの?」


あ、ヤベ


「これは朝の鍛錬で少し」

「鍛錬で?それは前に言っていたクロガネ様に指導役を頼んだというやつかしら」

「はい、そうです!手合わせをしながら動きの指導をして頂いているのですが、今まで気付けていなかった問題点に気付けて凄く勉強になっているのです!」


 うわ~テセウは凄く嬉しそうだけど、リリー夫人の目が氷のように冷めていく。やめて、悪気は無いんだろうけどそんな活き活きと何処を殴られたとか俺の攻撃が鋭かったとか言わないで!指導に必要な事だから別に悪いことをしている訳じゃ無いが、息子がボコボコに殴られている話を聞いて喜ぶ訳無いだろ!


「そう・・・・なのですね」

「心苦しいですが、テセウ様は実戦経験が少ないため経験を積んで頂けるよう模擬戦のような形式で指導させて頂いてます。勿論怪我は後程治療して頂く手筈となっていますので・・・・」


 テセウの話を聞いたリリー夫人が凍てつくような視線を俺によこしたので、弁明するために指導の意図を説明するがそれでも俺を見る目は変わらない。ちょ、ブレストもシュナイザー様も笑って無いで助けて!?テセウは何で二人が笑ってるのか分かって無いみたいだし!


「・・・・次期領主、この国と町を防衛する者として必要な事だとは分かっていますがお手柔らかにお願いしますね」

「母上、それでは鍛錬の意味がありません!」

「あははは・・・・」


 リリー夫人の気持ちは分かるが、テセウの言う通りある程度失敗や痛みが無いと急速に成長することは無理だ。だけど、ここで無理だって言う訳にも居ないので俺は苦笑いをしているとやっとシュナイザー様が


「リリー、クロガネ殿に依頼を出したのはテセウだ。俺達が口出しして良い事では無いぞ」

「ですが・・・・」

「テセウももう大人になろうとしているんだ。それを止めるのは良くないだろ?」

「・・・・テセウをどうぞよろしくお願いしますねクロガネ様」

「はい!」


 流石シュナイザー様の奥さんをやっているだけあって、戦う力を身に付ける事がどれだけ大事なことなのかは分かっている。さっきの視線は怪我をしているのを見て子供を心配する気持ちが少し強くなってしまっただけだろうな。俺もガキ共が怪我している姿を見たらキレるから気持ちは分かるぜ。今後戦場に出た時に怪我をしないようとことん指導してやるつもりなんで、任せて下さい!


「話が終わった所で、ブレスト殿砦の様子はどうだった?」

「俺が着くまでは防衛に専念していたので砦の壁を越えた魔物は居ないそうです。日耐性の魔道具を多く消費してしまったそうですが、幸いにも人員に被害は無かったです。魔物に関してはクリムゾンウルフが三体とキメラが二体でしたが、速やかに排除し素材は砦の方に任せてきました。砦を出て周囲一帯を索敵しましたが他には見当たらなかったので一日様子を見た後帰還した次第です」

「ふむ」


 クリムゾンウルフが三体も居て良く耐えれたな~あいつらって鉄をも溶かすブレスを吐くから高い火耐性か魔法耐性が必要なはずだ。恐らくだけどこの館に使われているような高価な建材で作って、それに重ねるように火耐性の魔道具を使って耐えたって感じかな。


「魔道具の消費なんて命に比べれば安いものだ。それより被害が無いようで安心したぜ。ブレスト殿、ご苦労だった」

「いえいえ、衛兵の皆さんの尽力が有ったからこそ俺が間に合ったので、その言葉は衛兵の皆さんに言ってあげてください」

「あぁ、そうするとしよう」

「あのブレスト殿、クリムゾンウルフとはどういう魔物なのだろうか」

「そうだな・・・・クロガネ説明を」

「俺なの!?」


 これ俺のテストを兼ねて説明させようとしてるな。ブレストから視線を俺に映したテセウを見て俺は分かりやすさを意識しながら説明を始めた。


「クリムゾンウルフというのは、強力な火魔法を操りその身に鉄をも溶かす炎を宿した体高2m体長3m程の大型のウルフです。全身に炎を纏っている為接近することは難しくかといって矢などの攻撃は纏っている炎に燃やされてしまうため対処が難しい。積極的に人を襲う危険な魔物で三級上位の強さです。操る魔法は鉄をも溶かし森に出現すれば忽ち森を焼いてしまうでしょう」

「なんと、厄介かつ恐ろしい魔物なのだな」

「しっかりとした戦略を練らなければいけない魔物の一つですね。ウルフ特有の嚙みつきや引っかきに俊敏な動きを持った相手なので・・・・テセウ様がもしもクリムゾンウルフと戦うようなことになったらどのように対処したら良いと思いますか?戦うための準備には十分な時間が有るとします」


 ここで対処の仕方から弱点まで全て説明しても良いんだが、自分で考えた方が退屈しないし覚えるだろ。


「そうだな・・・・身に纏う炎が厄介なのであれば大量の水によって鎮火させるか、近づくのが危険であるのであれば水魔法による攻撃が有効だと思う。だが、俺は水魔法を使えないから、魔道具を使うか予め地形を確認し川や湖に誘導し土魔法によって突き落としてしまうなどだろうか」

「お~なるほど。水に突き落とすですか・・・・」


 確かに火属性は水属性に弱いから、水の中に突き落とすのは大体の敵には有効だけど・・・・


「残念、テセウ様は死んでしまいました」

「駄目だったか・・・・」

「お兄様死んじゃったの~?」

「え~でもいるよ~?」

「はは、仮定の話だ。それで何が駄目だったのだろうか」

「最初に言っておきます。問題と少しズレますが突然遭遇したのであればクリムゾンウルフと戦うことはしてはいけません。なので、土魔法によって相手を閉じ込めすぐに逃げることを選択しておいてください。まぁこれは主題とは少し違うので置いといて・・・・町にいて準備する時間が有るとして水に突き落とす策ですがこれは低位の魔物であれば良い手段ですが、高位の炎を纏っている相手にはやっては駄目です」

「そうなのか?」

「はい、理由は意味が無いからですね。鉄をも溶かす炎を纏い火魔法が得意なのであれば、嫌がりはしますが何も魔法が掛かって無い水程度であれば蒸発させることが出来ます。魔力が宿り相手を倒すことを目的とした高威力の水魔法とは違い川や湖はそこまでの効果はありません」

「そうなのか・・・・」

「体全てを飲み込み底が無いような場所であれば高位の相手にも有効な場合がありますけど、もっと簡単な方法があるんですよ」


 何時でも何処でも底が分からない程の大量の水がある場所がある訳じゃない。なので、町にいて準備する時間が有るとすれば


「はい、その方法は火耐性を極限まで強化し正面から戦う事ですね」

「それで良いのか!?あまりに単純じゃないか?」

「はい単純ですが一番楽で現実的な方法ですよ。クリムゾンウルフは高位の火魔法を操りますが攻撃全てが炎に依存しているんです。なのでその炎を対策してしまえば、ただの大きくて少し力が強い体も硬くないウルフでしか無いんですよ」

「単純なのが良い場合もあるのだな・・・・」

「他にも土魔法が使えるのであれば、地面に大きな落とし穴を作りそこへ誘導し落とすなど方法は沢山ですよ」


 土魔法は良いぞ~大きな穴を作って表面だけを魔法で作った土で覆えばよく見てもただの大地なのに魔法を解除した瞬間真っ逆さまだ。空が飛べない相手にとってかなりの絶望だぞ。落ちた後は上から大量の岩や安全圏から魔法を撃てば良いだけだしな。


「クリムゾンウルフは長所が弱点でもある良い例ですね」

「ふむ、勉強になった」


 ブレストも頷いているし合格みたいだな。さて、そんな感じで朝食を食べながら話をした俺達はまた仕事へと戻るのだった

読んで頂きありがとうございます!

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