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ただいまとおかえり

 結局シュナイザー様の言う通り領主館で歓迎を受けた俺は、朝早くからテセウの指導を始めていた。テセウは俺が領主館に泊まるという事を聞いたらしく昨日の夜から俺の部屋に来て、色々な質問をしたりと指導に積極的で良いんだが・・・・


「うむ、同じ館に居ると多くのことが学べて良いな!暫くの間指導は続くのだから利便性を考えずっと館に泊まっても良いと思うぞ」

「いや、それは~」

「客間はまだ余っているからブレスト殿もこの館に泊まれば良いと思うのだが・・・・サピロ良いよな?」

「はい、シュナイザー様からブレスト殿の部屋も用意するように言われています。それと、依頼中は滞在して構わないそうです」


 なんか知らないが俺がこの館に泊まる事を凄く押してくるんだよな~流石にそれは不味いだろ。別にテセウと同じ屋根の下で過ごすってのが嫌な訳じゃなくて、貴族様の建物ってのはどこも高そうな家具や絵とかで溢れていてボロ汚い場所で長年生活していた俺にはちょと居心地が悪いというか落ち着かないんだよな。


「まぁ~考えておきます。今はそんな事よりこっちに集中ですよ」

「む、そうだな」

「んじゃ、行きます」


 泊まる泊まらない云々はブレストが帰ってきた後に考えるとして、今は鍛錬に集中して貰わないとな。


「足を止めない!」

「ぐっ」

「いくら重戦士だからと言って足を止めたら攻めるものも攻められませんよ」

「っ」

「一つ一つの動きを止めない、避けられない事が一番だが避けられた後の次の攻撃を想定しながら動かないと駄目です」


 今やっているのはテセウの戦い方を磨き上げる作業だ。基本が出来ているテセウに足りていないのは、実戦経験による動きの最適化だ。一つ一つの動きは完成しているのに、経験不足による相手の動きの予測や次の動作のぎこちなさを無くさないと隙だらけなのだ。


「見てからじゃ遅い!予め予測しておく!」

「がっ」

「自分の弱点はしっかりと補わないとこうやってもろに食らうぞ」


 振り下ろしを避けられて鳩尾に拳を食らったテセウはその場に蹲る。普段ならスキルを使って防御で来ていただろうが、今やっているのは隙を無くし相手の動きを予測する事なのでスキルを使うのは禁止しているのだ。テセウはスキルを重視し戦い方をしてるが相手の攻撃を予測出来なきゃ意味がない。


「速いな・・・・」

「何も俺みたいな速さを身に付けろって訳じゃないですよ、いくら一つ一つの攻撃が重いからと言って攻撃の度に動きを止めたら隙だらけだって言ってるんです。重い一撃には確かな踏み込みと重心の移動それに筋力が必要になりますけど、テセウの実力なら一つ一つ技を区切らなくとも十分な威力を出せるだろ?だから、技を繋げて使えるようにしてください。そうすれば、速い相手に懐に入られる事も無くなります」

「了解した」

「いくら相手が速くても行動を予測しちまえば対処は簡単なんですからね。俺にも言えますけど、速い相手は防御力が低く一撃が軽いあとは体重なんかも軽いです。だから、テセウは冷静に対処すればその重い一撃を嫌って近付けなくなりますし、相手が判断を間違えれば一撃で倒せることもあります。力を使わず対処出来るようになれば、無駄な消耗も抑えられますし良い事尽くしです。ほら、もう一回」

「おう!」


 テセウの攻撃は速くは無いが、素早い相手の対処法はいくらでもある。それを学んでしまえば素早い相手なんて怖く無くなるだろうな。痛みが有った方が命の危険や失敗を実感できるから容赦なく殴ってるけど監視の目が痛いな~いや、俺も好きで殴ってる訳じゃないし弱い者いじめしてる訳じゃないからな!


「また足が止まってますよ。一旦止まらなくても力強い踏み込みが出来るようにしないと隙だらけです」

「おらっ!」

「繋げるのを意識し過ぎて攻撃がおざなりになったら意味が無いだろっ」

「ぐっ」

「一つ一つ意識しながら繋げるんですよ。こういう風に」


  俺はテセウの薙ぎ払いをしゃがみ避けると、懐へと入りそれを対処しようと戻って来たバトルアックスをバク転で避けると、左脛に右足で蹴りを入れその勢いのまま回転蹴りで顔面に蹴りを入れた後怯んだテセウの胸元を掴み背負い投げる。


「うぐっ」

「重たっ」


 ふぅ、ギリギリ投げられるけどよくあんな重いバトルアックスを軽々使えるよな~その筋力少し羨ましいぜ。


「本当に動きが止まらないのだな」

「止まったらどうぞ攻撃してくださいって言ってるようなものですから。素早く動けって言ってる訳じゃない流れるように動いて動きを止めるなって言ってるんですよ」


 これは大事なことなのでしっかりと言う。別に攻撃全てを素早く動けるようになれって言ってる訳じゃなくて、一つ一つの動作を流れるように動き続けられるにして欲しいだけだ。速さなんてそうそう身に付かないし、あの重量のあるバトルアックスで素早い動きなんて相当な筋力が無いと無理だ。それに、戦い方に合ってない。


「流れるようにか」

「今まで型の練習をしてきたから、一つ一つの動きで止める癖が付いてますからその癖は止めましょう」 

「あぁ意識して直す」

「じゃあ・・・・良い時間なので朝飯ですね」


 屋敷の中から俺達に向かって歩いてくる気配を感じたので終わりだと言うと、テセウはメラメラと闘志を燃やしながら


「いや、まだ!」

「飯は大事ですよ。食わないと疲れを癒せませんし集中力だって持たないんですから。それに、ほらお呼び出しが」

「ん?・・・・あぁ」

「テセウ様、朝食のご準備が出来ました」

「・・・・分かった。汗を流したらすぐに行く」


 やる気満々なテセウに苦笑いを浮かべながら、中庭に入る扉を見ると丁度そこからメイドが中に入って来て朝食の知らせを伝えた。それを聞いて残念そうにしたが素直に従い汗を流しに行くテセウ。俺はこれぐらいの運動じゃ汗は掻かないけど、一応綺麗にしておいた方が良いかもな。一緒に井戸に行き下着姿になると頭から水を被った俺を見て驚くテセウ


「んな、この時季の水は冷たいだろう。寒くないのか?」

「これぐらいなら別に」

「だが、そのままでは風邪をひくぞ。すぐに布を」

「あ、大丈夫ですよ」


 俺は風の魔法を使って全身に着いた水を吹き飛ばす。


「・・・・本当に息を吸うように魔法を使うんだな」

「これぐらいの魔法なら簡単ですよ」

「普通は詠唱をするんだがな・・・・」

「これは何かを攻撃したり何かを動かす程高度な魔法じゃないですからね~」

「・・・・体に着いた水だけを綺麗に吹き飛ばすのは繊細な操作が必要だと思うんだが」

「そうですか?」


 何となくで魔法を使っているからよく分からない。これぐらいの魔法なら想像する程度で出来るけどな~風は俺と相性が良いし昔から使ってたから特に難しい事をしなければ大体のことは出来る。俺は火属性を持ってないからブレストみたいに暖かい風を出して乾かすことは出来ないけど、吹き飛ばすだけで十分だろう。


「ふむ・・・・流石と言うべきなのか」

「そんな事よりも朝飯早く行かないと待たせちゃいますよ」

「あ、そうだな。行こう」

「え?俺は外で食べてくるので・・・・」

「クロガネ様の朝食も準備してありますので、どうぞテセウ様とご一緒に」

「え」


 いやいやいや、どうぞご一緒にと言われても!?俺テーブルマナーとか知らないし!でも、用意して貰っているのに食べないのは悪いよな・・・・はぁ腹括るか。テセウと一緒に食堂へ向かうため一度中央ホールに来ると外から慣れた気配がした。立ち止まった俺にテセウとサピロさんは不思議そうに見ると扉が開き


「戻りました。お、クロガネも帰ってたか」

「おう、依頼お疲れさん」

「クロガネもな。おかえりクロガネ」

「ただいま。おかえりブレスト」

「あぁただいま」


 帰って来たブレストは怪我一つ無くいつものように身綺麗だ。まぁ、ブレストがクリムゾンウルフやキメラ程度でどうにかなるとは思ってはいなかったが一安心だな。


「お帰りなさいませブレスト様。丁度朝食を摂る所でしたので、シュナイザー様も待っている事ですし宜しければご一緒にどうぞ」

「そうですか。それではご一緒させて頂きます」


 ふぅ~一人で貴族の前で食事を取る事態は避けられたな。俺はブレストとの隣を歩きみんなで食堂へと向かった。

 

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