もう一度ダンジョンへ
「それじゃあ、暫くの間指導は出来ませんけど生活している間は常に気配を探ってください」
「了解した」
テセウへの指導を終えた俺はブレストと一緒に防具屋に行くと、俺達の顔を見た店主さんはぶわっと泣き出してしまった。
「うわぁ~ん、生きてた~」
「うおっ」
「何だ何だいきなり」
「全然受け取りに来てくれないから私てっきり死んじゃったのかと思ってました!」
突然泣き出してしまった店主さんに俺達は驚きながらも、傍によると涙を拭いながら言う。確かに予定していた日にちを大幅に過ぎたけど、別に俺達は友人って訳じゃないしただの客と店員って関係だしそんなに泣くようなことか?
「いや、確かに何も言わずに受け取りに来なかったのは悪いがそんなに泣くことか?」
「だって、あんな大金を受け取っておいてお渡し出来ないのはなんか申し訳ないじゃないですかっ魔力で染めたことによってお二人用になってしまっていますし、在庫を抱えることになるのですよ!」
「あ~・・・・そういうことか」
「私の防具は使われるためにあるのに、それが一度も出番が無いなんて可哀そうじゃないですか」
「そうだな~んじゃ使わせて貰うぜ」
「はい、是非使ってください。今裏から商品を持ってきますね」
やっと泣き止んだ店主さんはさっきまでの様子とは打って変わって上機嫌で店の奥へと消えた。あれは俺達を心配しているというよりも、大金を貰って自分が作った商品が一度も使われず日の目を見ないことを悲しんでいる感じだな。確かに俺の魔力を混ぜているなら、他の奴には合わないだろうからな~店主がころころと表情を変えるのでその様子にブレストと顔を合わせて呆れて顔を浮かべていると
「お待たせしました~ご確認ください!」
「はいはい・・・・中々良いな。特に肌触りが良い」
「えぇ、そうでしょう!この肌触りはシルクにも負けないと自負しています!」
「俺の魔力で闇の魔力だからか、かなり感じ取りづらいな」
「付与していない状態でこれですから、隠匿や気配遮断、魔力秘匿などの付与を付ければほぼ完全に魔力の気配は消せますよ。問題はこの町にそこまで高位の付与が出来る人は居ないことなんですけどね」
「いや、十分な出来だ。ありがとう」
「ふふん、是非使ってあげて下さいね」
俺達は大満足で防具を受け取り宿に戻る。これでまた防御力が上がって、少し安全になったな。俺はテセウやブレストのように打たれ強くないから、受け流すか避けるもしくは魔法で障壁を張って攻撃を防いでいるんだけど万が一当たった時の安全性を高めるのは大事なことだ。これで用事は終わったことだし明日は朝早くから出るつもりだからさっさと寝よう。
いつもとは違い外から賑やかな声は聞こえてこず、街は静まり返っている頃に起きた俺はまだ少し眠いがベットから起き上がると丁度ブレストも起きてきた。
「ん~おはよ」
「おはよ、この時間だと少し寒いな」
「だな~森に行くんだから温かくしておけよ。俺は一緒に行かないから火魔法は使えないし、水魔法で水分補給をすることも出来ないのだから準備は万全にな」
「大丈夫だって、水も食べ物も火打ち石だって補充しておいたからさ」
「はぁ・・・・どうせシュナイザー様はどんな状況になったって大丈夫だろうからヤバかったら逃げるかシュナイザー様に頼れよ」
「は~い」
もう、そんな心配し無くたって大丈夫だよ。森に居る奴ら程度なら俺だけで何とか出来るしヤバい奴とは戦うつもりは無いからな。ブレストはシュナイザー様と交代でこの町の防衛をすることになっているから、準備をして一緒に宿を出て領主館へと向かった。朝早くから勤めている門番さんに案内されて領主館に入ると、シュナイザー様はいつもの騎士のような姿ではなく、冒険者のようなレザーアーマーを身に付けていた。そして、腰にはいつも帯刀している狼が意匠されたロングソードどう見ても冒険者だな
「うわ~冒険者より冒険者っぽい」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「褒めてます!」
「それでは、早速出発をしよう。ブレスト殿、俺が居ない間町と砦の防衛を頼む」
「了解しました。どうぞご無事で」
「あぁ、クロガネ殿案内頼んだぞ」
「了解です」
ブレストは家令さんの案内で領主館の奥へと行き俺はシュナイザー様と一緒に町の出口へと向かった。まだ朝が早いので誰にも話し掛けられることなく門へとたどり着くと、予め話を聞いていた門番さんが門を開けてくれた。
「領主様、こんな心配は不要でしょうがご無事で戻られることを祈っております」
「うむ、怪我一つ無く戻ることを約束しよう」
町から出た後防衛の為に再び閉じられる門。俺は足首の準備運動をしながら
「され、どうやってダンジョンまで行かれますか?速度重視であるのであれば魔物を完全に無視して突き進みますか?」
「クロガネ殿は普段どう動いているんだ?それとここから先は瞬時の判断が必要となるし、俺と一蓮托生なんだから敬語じゃなくて良いぞ」
「そうですか?それじゃあ無理に敬語を使うのは止めます。普段は木から木へ飛び移りながら移動してますね」
「そうか、ならそれで行こう」
え、言っといてあれだけどこの移動の仕方は普通はしないってブレストに教えて貰ったばかりなんだけど・・・・シュナイザー様が良いって言うなら別に構わないけどさ。
「了解、それじゃあ先行しますので速ければ言ってください。魔物はどうしますか?」
「通り道に居る奴と襲い掛かってくる奴のみ排除であとは無視だ」
「了解、それじゃあ出発します」
宣言通り俺は木から木へと移り最初はスピードを落とし様子を見ながら進んでいたが、シュナイザー様は地上を走っているのに余裕で俺の速さに付いて来るので構わず周囲を警戒し魔物と遭遇しても完全な状態で戦える速度を維持しながらダンジョンへと進んで行く。
(木と植物、そして魔物が溢れる森でよく地上をあの速さで走れるな~)
俺のように小柄では無く体型を聞かれれば大柄で逞しいと言われるシュナイザー様は騎士のように優雅に走る訳では無く力強く踏み込み、邪魔になる木々はあの大柄からは想像出来ない程身軽に飛びながら避けている。
「前方、ボアが二体、マーダーベア一体」
「止まらずそのままで、手は出さなくて良いぞ」
俺の言葉を聞いたシュナイザー様は抜刀し、接敵するまで一切の迷いなく障害物を避け目の間に現れた魔物を獣が襲い掛かるかのように獰猛さを秘めた一撃で頭を跳ね飛ばし流れるようにシュナイザー様が持っているマジックバックの中に入れ一歩も止まる事無く魔物を排除し回収した。
(うわっ・・・・なんつう技量だよ。一体一体を相手する訳じゃなく流れるように三体全ての魔物を倒し回収するなんてヤバッ)
シュナイザー様が強い事は分かってたけど、目の前でその技量を見ると改めて実感するな。あの戦い方からして、一体一の戦闘じゃなくて多対一での戦闘を意識しているのが分かる。剣の腕は俺が今まで見てきた中で一番だな。ブレストは全ての武器を上手く達人並みに使えるけどシュナイザー様は、剣に一点集中だから剣だけの戦いならブレストより上だ。
「次キラーマンティス一体とハンギングスパイダーが三体が木の上で待機してる。スパイダーは俺がやります」
「おう、任せた」
俺が案内役なのに足を止める訳にはいかないので、木の上を移動しながら首狩りスパイダーを確実に仕留める威力の雷の矢をボウガンに三発装填し射程に入ったら放つ。そして、接敵したキラーマンティスは一太刀でシュナイザー様が切り捨てる。素材の回収は闇の鎖を作り出し俺の元まで運び一歩も止まる事無く進むことが出来た。
(思い付きで闇の鎖を使って見たけど、これ素材を回収するのに便利だな。動きと長さ強度は自由に出来るし、重い物だとしても数を増やして運べばいいだけ。うん、中々気に入った)
一歩も止まらないよう思い付きで使った闇魔法が上手く行って、思わぬ発見をした俺はその後は昼も止まる事無く森の中を進んで行った。
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