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戦う誉より生き延びることを

 昼まで気配を察知する訓練を続け、昼休憩の時間となったのでテセウは食堂へと向かい俺とサピロさんはブレストの元へ向かっていた。その間にサピロさんは僅かな怒りを目に宿しながら


「訓練は承知していますが、あのような真似は止めて下さい」

「すみません、だけど必要だと思ったので」

「次はありません」

「それじゃあ、サピロさんと戦う事になりそうですね」


 次は無いと言われたけど、必要があれば俺は同じことをするぞ。反省した様子があまりない俺を見て鋭い目を向けるサピロさん。大事なのは分かるけどさ~


「俺は依頼を受けたので、全てを叩きこむだけですよ。やり方が気に入らないなら依頼を破棄してください。勿論依頼主はシュナイザー様なので、シュナイザー様に言わないとですが」

「テセウ様はまだ幼いのです。あまり・・・・」

「そうやって言ってると死にますよ」


 確かにテセウは俺と一つしか変わらないし、まだガキだ。だけど、ガキだからこそ教えないと駄目なのだ。


「テセウは学院に行くことになってるんですよね?その道中何かあればテセウは一人で生き延びなくてはならない状態になる可能性もあります。甘く見てる訳じゃないですが、護衛が全員殺されたら?王都で人攫いや暴力事件に巻き込まれたら?常に護衛が守れる訳じゃ無いんです。戦いに出れば、どんなに備えていても不測の事態は起きるものですし、格上の相手と戦う事になることもある。だから一人で生き延びる方法を叩きこまないと死にますよ」


 俺は人が簡単に死ぬのをよく知っている。どんな世界だって弱い奴は強い奴らに支配され簡単に命を奪われるのだ。それは貴族だって例外じゃない。魔物相手に身分や種族なんて関係無いし、いずれはこの森で防衛を担うんだろ?今の内に実戦の方法と魔物から生き延びる術、そして力を身につけないとこの先死ぬぞ。


「テセウ様は」

「魔物相手に貴族なんて関係ないですよ。冒険者になったばかりの俺が偉そうな事は言えませんけど、シュナイザー様は毎日強力な魔物と戦っているんですよね?それもあの実力を持つ人が長期間居ないといけない程の量を」

「そうですが」

「その役目をやがてはテセウが担う。大切にするのは良いですけど、このまま実戦を経験させず生き延びる術と相手の狡猾さと汚さを教えずにいたら死地へ送ることになりますよ」

「・・・・」

「テセウは良い才能とスキルを持ってますけど、油断と詰めが甘くて実戦の汚さを知らない。さっきだって自分のスキルを過信していた。自分の弱さを知り甘えと油断を消さないと、生き延びられませんよ。俺はテセウに生きていて欲しいので、どんなに汚く貴族の戦いに相応しくないとしても生き延びる術を叩きこみます。それが嫌ならシュナイザー様に言ってください」

「・・・・」


 不満はあるけど、これ以上何か言うつもりは無いみたいだな。そのまま顔を背け俺の前を歩いて行くサピロさん。言い過ぎかもしれないけど、戦いに出る奴を甘く優しく育てたら殺されてくれって言ってるようなものだぞ。ブレストだって普段は優しいけど戦いに関してや生き延びることに関しては厳しかった。最初は俺は中々やれると思ってたけどその心を徹底的に砕き、圧倒的な力を見せ俺に油断と甘えを捨てさせた。だから、敵うかどうかはしっかりと見定めてるし無理と分かったらすぐに逃走を心掛けてるんだぜ。まぁ、ブレストが危なかったらブレストを助けるのを優先しちまうけどな。

 それに俺はテセウに死んでほしくないから、どんなに睨まれ嫌われようとブレストに叩き込まれ、スラムで培った戦いで生き延びる術を教え込むつもりだ。険悪な雰囲気のまま無言で廊下を歩き執務室までやって来た。


「失礼します」

「お、戻ったか。どうだった?テセウは」

「流石に才能は有りますね。基本は出来ているので、足りない部分と実践の部分を教えようかと思ってます」

「なるほど、それでサピロはなんでそんなに不機嫌なんだ?」

「ちょっと過激な事をしたのでそれで」

「なるほどな、具体的には何をしたんだ?」


 表情を崩さないが明らかに不機嫌なサピロさんに大笑いしながらシュナイザー様が聞いて来たのでさっき話したことと俺の思い、それにテセウにした事を話すとシュナイザー様は更に大笑いしながら


「あっはははは、なるほどな~確かにサピロが不機嫌になる訳だ。過激と言えば過激だが俺はクロガネ殿の言う事が正しいと思うぜ」

「シュナイザー様っ」

「シュナイダー家は代々この森と国境を守り、戦いに身を置く家だ。どれだけ訓練を積もうとも、綺麗な訓練とは違い実戦は壮絶なもんだ。血を浴び仲間は倒れ、次から次へと湧き出る魔物達、魔力は僅かで気持ち悪いマナポーションとヒールポーションで体に無理を言わせ民の為に守り続ける。甘えと油断なんて許されねぇ。厳しさを教えられず、そんな環境に言ったらどうなるか分かるか?心が壊れちまうか死ぬだけだ。そして逃げようとすれば魔物に殺される運命だ。結局最後に頼りになるのは、自分が磨いて来た経験と覚悟、そしてどれだけ生に食らいつけるかだ。それを叩きこまれれば、長生きできるだろうよ」


 大笑いから一転して真剣な顔になるシュナイザー様。その言葉は重く迫力があり、自身の経験からその言葉が出てきからだろう説得力がある。


「シュナイザー様ほどの実力者でもそう思いますか?」

「俺だって最初から強かった訳じゃないぜ。魔物と戦い、死にそうな目に遭ったが生き延びたくて必死に食らいつき泥水啜ってでも立ち上がった結果俺が居る。テセウにはそんな経験をして欲しくないと思ってるが、生き延びるためには厳しさは必要だ。俺だって大事な息子を失いたくないからな」


 そうなんだ。シュナイザー様も色々あったんだな。


「だからクロガネ殿、あいつの油断と誇りを徹底的折っちまってくれ。テセウの奴調査で戦えたからって少し自信が付いちまってな。あくまでそれは二人による安全かつ完璧な場を整えられたから戦えたって言うのによ」

「了解です」

「サピロも文句言うなよ」

「私は文句など言いません。ただ苦言を申しただけです」

「ふっそうか。だが期間が限られてんだ、徹底的に叩き込むなら少し過激なぐらいが丁度良い。甘やかすのはあいつの為にならないだろ。それに、テセウはそれを望んだんだろう?」

「はい、厳しくと言われたので俺がブレストに教えられたことと身に付けたことを教えようかと」

「そうか、今は何を教えてんだ?」

「気配の察知の仕方です」

「そりゃ良いな。貴族連中の多くが魔力感知や魔法による索敵が出来れば気配の察知なんて要らないと思ってるが、馬鹿だよな。全ての生き物が魔力を持ってる訳じゃねーのにさ。それに魔法が使えない状況なんてザラだし、魔法を使えば逆にこっちが探知されちまうつーのによ」


 索敵の方法としては、俺が普段やっている五感や本能による気配の察知や魔法による感知、魔力を持った者を感じ取る魔力感知などがある。魔力を持っていない相手には魔力感知は効かないし、隠密行動中に索敵の魔法なんか使ったら簡単にバレちまう。だから、魔力も使わず魔力が無い相手でも感じ取れる気配を感じ取る方法は便利なので教えているのだ。


「クロガネ殿はそういったことに長けているから教えて貰えるのは貴重だな」

「いえいえ、そんな事は無いです」


 確かに俺は気配を探ったりするのが得意だけど、世界は広いから俺より上手い人がごまんといるだろうな。それに俺のは割と感覚頼りの所もあるからな~視線なんかはそれが顕著だ。街で暮らしていると、悪意を持った奴らを避け軽蔑の目から逃れ、バレずに盗みを働くには視線に敏感になる必要があるから自然と身に付いたんだよな~


「はは、謙遜しちまって。どうせサピロ以外の奴にも気付いてるのだろう?」

「まぁ、監視の目が5つあるのは分かりましたけど、凄いですね。メイドに従僕それに庭師までもある程度の力を持っているなんて。館の上から見ているのは衛兵さんみたいですけど、燻製の匂いが付いてるんじゃバレますよ」

「完全にバレてるな、はっはっは良い先生になりそうだな。そうだ、飯は用意しておいたから食べていけ。どうせこの後もやるんだろう?」

「はい」


 そう言うとシュナイザー様は席を立ち俺達を前とは違う食堂まで案内してくれた。食堂には既にテセウが食べ始めていて、他にも衛兵さん達が詰めかけ食事を取っていた。


「お~人がいっぱいですね」

「この領主館の裏には衛兵達の詰め所があるからな。だから休憩や食事の時はこの食堂に集まるんだ」

「なるほど~」

「衛兵の詰め所と領主館が同じ敷地にあるなんて珍しいですね」

「狭い町だからな。どうせ町の中心は領主館だから、同じ場所に在った方が色々と都合が良いだろ」


 そう言って衛兵達と同じようにプレートを持ち飯をよそうシュナイザー様はどう見ても場違いだけど、みんな反応しないってことはいつもの光景なのか。

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