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疲れを癒して指導!

 特に苦戦する戦いも無く、テセウ様に合わせ慎重に進み休憩もしっかりと取っていたので思ったより疲れは溜まっておらず一晩何も気にせずぐっすり眠っただけで調査の疲れはすっきり吹き飛んでしまった。


「あれ、ブレストが居ない・・・・便所か?」


 昨日は先に寝てしまったけど、記憶が鮮明の内に報告をまとめた方が良いと言って夜遅くまで報告書を書いてたみたいだけど大丈夫かな?そんな事を考えなら背伸びをしていると、ドアが開き元気そうな様子でブレストが入ってきた。


「起きてたのか、やる事と言えば明日の準備ぐらいだから疲れていたらもっと寝ても良いぞ」

「いや、全然疲れて無いから大丈夫。何処行ってたの?」

「便所」

「へ~」


 予想が当たったけど別に嬉しくも何ともないな。明日はシュナイザー様達とダンジョンに行くことになってるけど、食糧とかは十分備えがあるし準備する物は無いんだよな~


「なんだよその返事」

「いや、予想が当たったけどどうでも良いなって」

「なに予想してんだよ・・・・元気ならシュナイザー様の所行くぞ」

「報告書書き終わったの?」

「おうバッチリだ。途中で防具屋に行って服を受け取ってから行くか」

「だな。でも、この時間に空いてるかな?」

「空いて無かったら後にすれば良いんだよ」

「確かに」


 俺は外に出る準備をするとブレストと一緒に朝の人で賑わう町へと出た。相変わらず元気で活気ある町中を抜け、防具屋に来たがまだ店は閉まっていたのでシュナイザー様の元へ行った後に寄ることにした。いつも通り門番さんに冒険者カードを見せようと取り出そうとすると、話は聞いていますと言われそのまま通してくれた。初めて会う門番さんだったのによく俺達の事分かったな~


「良く俺達だって分かったな」

「まぁ、そりゃそんなに綺麗に輝く黒髪を持つ子供なんてクロガネぐらいしかいないからな」

「それを言うなら炎と太陽が混ざり合ったような色をしてるブレストも珍しいと思うぞ」

「かもな」


 言われてみれば俺達は特徴的で分かりやすいか。特に俺の髪色の奴なんて居ないしな。従僕に案内されながら館の中に入り、昨日訪れた執務室に通されると朝早くからシュナイザー様は眉間に皺を寄せながら書類仕事をしていた。こう言っちゃなんだけど、書類仕事しているの似合わないな~


「ん?ブレスト殿とクロガネ殿か。何かあったか?」

「いえ、報告書を書き上げたので提出しに来ただけです」

「随分と早いな。サピロ、確認してくれ」

「承ります」


 サピロさんはブレストから報告書を受け取り、五枚の報告書を手早く目を通すと頷き頭を軽く下げながら


「どれも問題はありません。良く纏まっていて見やすいですね。早く提出して頂きありがとうございます」

「いえいえ、報告書が無いと色々と大変だろうと思ったので」

「そうなんだよ。昨日で大体の事は聞けたが細かい判断は報告書が無きゃ難しい部分が有ってな~前に同じような事を冒険者に依頼したんだが報告書が雑で文法も可笑しな部分が多く提出も遅いって散々だったんだよ」


 まぁ、冒険者にそんな綺麗で纏まっている報告書を期待するだけ無駄だよな。冒険者になってから知ったけど、冒険者の中でも文字を読めない奴ってのはかなり多い。だから、文字の読み書きが出来るやつの方が珍しいし、しっかりとした教育を受けてる訳じゃないから貴族様に出すような畏まった報告書なんて作れないんだよな。大体の場合は口頭で状況を説明して、それを文字が書ける奴が書くのだ。


「仕方が無いですよ。冒険者にそれを求めるのは酷です」

「分かってはいるんだがな。あ、そういえばクロガネ殿」

「はい」

「昨日言っていた指南役についての依頼だが」


 突然呼ばれて吃驚したけど、何かと思えば指南役の話か。依頼を出すのも時間掛かるだろうし、ダンジョンに行って戻って来たら始まる感じかな?


「昨日のうちに依頼書を出して許可されたから、これにサインして受諾してくれ」

「はやっ」

「昨日の今日ですよ。依頼を出すの早いですね」

「あの後ギルド長と話しに行ったからな。そのついでに・・・・な」

 

 ニヤリと笑うシュナイザー様。ギルド長に直接話を通した訳か・・・・それなら早いだろうな。討伐や採取の依頼はギルドに行けばすぐに受諾してくれるが、指南役とか指名依頼などの特殊な依頼は審査をする必要があるから時間が掛かるはずなんだが・・・・しかも今回は貴族相手で変な奴だった場合信用問題になるから慎重に審査するはずだがその手間を省いたのか。


「あ~聞かなかったことにします」

「これにサインすれば良いのですね?ですが、その前に依頼を確認させてもらいます」


 いくらシュナイザー様からの直接の依頼だとしても内容と報酬を確かめるのは大事だ。どれどれ~シュナイダー辺境伯家長男テセウ・シュナイザーに対する包括的な指導および護衛。


 色々な事を教えて欲しいみたいだし、包括的な指導というのは分かる。護衛は・・・・もし森で指導することになったら必要だもんな。次はっと


 サウザード・シュナイザー辺境伯、護衛および目的地への案内そして脅威となる者の排除。


 これはダンジョンに案内することになっているから必要な項目だな。あとは報酬は・・・・うわっ何だこの額!


「これ、金額間違ってませんか?」

「いや、これで正しいぞ」

「いやいや、五級冒険者ですよ俺!」


 数か月は余裕で生活できる金額が書いてあって思わず聞いてしまった。調査依頼の報酬でも特別手当が付いてかなりの額になったのに、続いてこれも出せるってお金持ちなんだな~


「五級冒険者だとしても、貴族の息子を指導し俺の護衛をするとなればこれぐらいの額は普通だ。それに、どう考えても五級冒険者じゃ無いだろうクロガネ殿は」

「えぇ~・・・・分かりました。そういえば期間が書いてないのですが」

「あぁそれはこの問題が片付くまでってことで」

「・・・・」

「良いぞ」

「分かりました。サインします」


 それって面倒ごとが増えたら拘束される時間も長くなるってことだよな。大丈夫かなと思ってブレストを見ると頷いて許可を出してくれたので俺はサインをした。それを受け取りシュナイザー様は頷くと


「それじゃあ、早速テセウの奴を指導してやってくれないか?疲れが溜まっているのであればダンジョンから戻って来た後でも構わないが」

「いえ、疲れて無いので今日からやらせて頂きます」

「そうか、それじゃあテセウは中庭に居るから・・・・サピロ案内してやれ」

「畏まりました」

「お願いします」

「ブレスト殿は少し俺と話を」

「了解です」


 俺はサピロさんに案内され執務室を後にした。武骨だが隅々まで掃除がされ洗練された美しさを兼ね備えている領主館に感心しながら歩いていると振り返りながら


「クロガネ様、テセウ様は依頼中どのような様子でしたでしょうか」

「魔物相手に臆することなく十分実力を発揮していましたよ。勿論、経験不足や魔物への知識不足である部分はありましたが、これから経験を積めば優秀な重戦士になると思います」

「そうですか」

「俺達冒険者に対しても丁寧な態度でしたし、一度してしまった失敗を繰り返さないよう深く受け止めています。俺達から少しでも学ぼうという姿勢が良く感じられましたし、話をしていてとても心優しい方だと思いますので俺的には次期領主にピッタリだと思いますよ」


 サピロさんに嘘を付いても無意味なので、調査で感じた印象をそのまま素直に話す。俺の言葉を聞いて、少し表情を和らげながら


「それは良かったです。テセウ様は冒険者と森へ行くのは初めてでしたので少々心配をしておりましたが、話を聞く限り大丈夫そうですね」

「えぇ、サピロさんはテセウ様を大事に思っているんですね」

「勿論です」

「なら、次期当主の座から外されずに良かったですね」

「・・・・」


 あの時シュナイザー様が言おうとした事は、多分だけどテセウ様を次期当主の座から外すという事を言おうと思ったんだと思う。だって、目の奥に仄かな決意と覚悟、そして苦悩と悲しみを感じたからね。


「誰にだって失敗はあるものですし、今回の失敗は何一つ被害は出ていないです。このまま色々な事を学んで成長すれば、立派で優秀な領主になると思いますし、あれだけで座を外されるのは勿体ないと思ってたんですよね~あ、こんなこと言うのは不敬か、すみません」

「いえ、大丈夫です。ですが、よく分かりましたね」

「意外と体に出ているものですよ。シュナイザー夫人とサピロさん、テセウ様の処遇を聞いて明らかに安堵してましたもん」


 みんな心を読まれないように表情に気を付け平然を装っているけど、手の動きや顔への力の入れ方、それに呼吸や体の揺れに目の動き、よく見れば結構分かりやすいんだよな。昔からそういうのを読み取るのが得意だったから何となく分かっちゃうんだよな~


「そうですか」


 そう言って平然を装いながら歩くサピロさん。後をついて俺達は中庭に来ると、テセウ様は訓練着を着て愛用のウォーアクスを持ち、動きの型を練習していた。


「お~何度も見ましたけど動きが綺麗ですね」

「長年訓練していますから型は完全に習得しています。テセウ様への指導は私も同席させて頂くことになっていますが、特に手出しや口を挟むことはしませんのでご自由にどうぞ」

「あ、そうなんですね。分かりました。ん~・・・・」


 息子を訳の分からない冒険者と二人っきりなんかにさせる訳ないよな。他にも窓や壁から複数の視線を感じるし監視役は結構居るみたいだな~まぁどうでも良いけど。それにしても、テセウ様俺達が来たことに全然気づかないな~集中はしているみたいだけど、気配を察知できる余裕はあるはずだ。俺はいつもの癖で足音と気配を消しているけど、全力でやっている訳じゃないから気付けると思うんだけどな~・・・・


「どうかしましたか?」

「いや、ちょっと気になることがあっただけです」


 近付かず変な顔をしながら唸っている俺を見てサピロさんは思わず声を掛けてしまったみたいだ。さて、教えることは山積みだし早速やるか!

読んで頂きありがとうございます!

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